第4話 団欒
…レイカ兄さんに読んでもらったものの、半分もわからずに終わった。文字との発音を合わせるのも、日本語みたいに1文字1音ずつじゃないから半分いかないうちに当てられなくなった。
『どうだった?』
読み終わってレイカ兄さんがこっちを向いて何事か言ってくるけど、分からないので曖昧に頷く。
『ちょっと難しかったか。』
レイカ兄さんは俺の頭に手を置いて少し笑った。俺が全然言葉分かんないから憶測だけど、良い兄だと思う。今の俺と2歳しか変わらないのにな。そういえば前世の俺はちゃんと兄として振る舞えなかったな…
『坊っちゃま方、御夕食の準備が整いましたので此方に。』
『分かった、いくぞタイカ。』
いつの間にかメイドの人が来ていた。何かレイカ兄さんと話して俺も一緒な感じだ。まあ今までの経験則的に夕飯だろうな。
レイカ兄さんの後ろをついて食堂室みたいな所に着く。いつもご飯を食べている所だ。やっぱり夕飯かな。中に入ると皿が並んでるから間違いなさそうだ。
『父さん!』
レイカ兄さんが小走りに父さんの方に向かっていく。それを笑顔で迎える父さん。レイカ兄さんだってまだまだ甘えたい年頃だし数少ない家族団欒であるこの時間が、俺は好きだし大事だと思ってる。
こんな風にずっと暮らせたらいいなと思うと、前の記憶で少し心が軋むがそれには蓋をする。
『ほらご飯を食べますよー、貴方もほら座って。」
『ははっそうだな。』
『はい!母さん。』
…今の家族は彼らなんだ、いつまでも前の記憶に囚われてなんか居られない。
気を取り直して椅子に座る。この身長には少し高いけど、いつも座れてるし大丈夫…
…ギィ
『危ない!』
少し勢いをつけて飛び乗ろうとした椅子はその勢いを殺せずに倒れていく。しまったと思った時には既に遅く、そのまま勢いが加速していき…
バァァァァァァアン!!!!バリィィィン!!!
途中でテーブルクロスを引っ掛け食器が降ってきた。当然食器は割れ、乗ってた物も言わずもがなだ。
いくつかは身体の上に降ってきてシチューの様なスープを頭から被った。これはちょっと火傷になるかな…そんなのはどうでも良くて、折角の夕飯を、家族団欒の時間を、台無しにしたという事実が俺の心に重くのしかかる。
『おい!大丈夫か!?』
『冷やす物の準備を!早く!』
『急いで風呂も張ってくれ!』
…みんなが駆け寄ってくる。本当に最悪だな俺って。
『…ごめんなさい。』
この世界に来て真っ先に覚えた言葉をまた、今日も使うのだった。