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拡大製作委員会2

東阪会議室。拡大製作委員会。

約四十人の目が柿崎に集中している。終盤の脚本に変更が行われるのかという久保プレジデントの投げかけに柿崎は10秒くらい反応できないでいた。隣席では藤木取締役が不思議そうに柿崎を見つめている。藤木とは反対側の隣にすわる中山が「柿崎さん。」と発言を促す。柿崎は意を決したように頭を上げ、大きく一度息を吸った。

「いま久保プレジデントからご質問頂いた件についてですが、検討が行われているのは事実です。」

数秒の沈黙の後、会議室がざわめく。会社毎のまとまりの中でささやき合う声が聞こえる。コスギの担当部長である戸川が真っ直ぐな視線を柿崎に送っている。久保プレジデントは特段の動揺もない風情で脚を組み替え、良く通る声で会議室のざわめきを突き破った。

「いまのお言葉にあった検討というのが、43話で満を持して登場する五体合体ロボットに関するものだとの情報なのですが、ご説明頂くことはできますか。確かに大変な機密事項だとは思いますが、ここに集っているのはこのプロジェクトのコアメンバーですので、伺ってもよろしいかと思います。」

柿崎は、手元にある手帳に目を落とし事前に準備していたシミュレーションを再度確認した。そこには自分が語るべき内容が記してある。その後の流れも含め、事前に渡会、川島そして戸川と四人でじっくりと話し合った内容だ。が、ここに来て柿崎は迷った。あまりに青臭いと自分でも良く分かっている。ビジネスマンとしての正解と、製作者としてこうありたいという思いの狭間で揺れた数日間だったが、まだ整理できておらず頭がぼんやりして働かない。しかし、周りを取り囲む約四十人が自分の言葉を待っているのも肌で感じている。とりあえず一旦シナリオに従っておこうと決め、再び手帳に目を落としたにその時、端の方にいつ書いたのかもわからない走り書きが目に入った。赤いボールペンで「Show me the money」と書いてある。ほんの一秒その文字を見つめ、蒲田はもう一度息を吸った。恐らくその間に流れた時間は本当に一秒程度であったはずだが、柿崎には随分と長い時間であった。柿崎は腹を括った。

「ご指摘の通り、ポイントは合体ロボットに関わる事ですが、ロボットの扱いだけではなくストーリー全体に影響を与える事でもあります。」

会議室は静かなままだった。渡会、川島が慌てて手帳とタブレットに目を落とし熱心に読みはじめた。そこには柿崎の手帳と同じシミュレーションが書いてあるはずだが、今の柿崎の発言はそこでは想定されていない。出席者の反応次第でEプランまで準備してあったが、そのいずれにも記載がない台詞だ。自分達の準備のない所に柿崎が踏み込もうとしている事に気付いた二人は全く同時に顔を上げ柿崎に心配そうな視線を送る。戸川は全く表情を変えず真っ直ぐ前を見据えていた。久保プレジデントが少しトーンを落として発言する。

「この五シリーズ目でようやく他社コンテンツとまともな勝負が可能になってきたのは、ここにお集まりの皆さん共通の状況かと思います。この流れをより確かなものにする為の戦略的なアイテムとして位置付けられているのがこの巨大ロボット・ビッグオーシャンであるのは議論を俟たないはずです。今までご説明が無かったことはもうとやかく言いませんが、番組制作の方針変更の内容と意図をお教えいただけますでしょうか。」

柿崎は、すでに久保プレジデントがその内容を把握している事は知っている。知っている上で久保プレジデントがそう出てくるのはプランBであったが、柿崎の第一声により既に意味のないものになりつつあった。だからこそ、渡会と川島は慌てた。

久保の率直な問い掛けに対して柿崎が口を開こうとしたタイミングで、代理店プロデューサーの渡会が慌てた様子で口を挟む。

「いや、確かに検討が行われているのは確かですが、あくまで検討の段階です。もしも皆様のビジネス展開に何らかの影響を与えるような変更があるようでしたら、事前にしっかりと協議させていただいた上で進めて行くつもりです。その辺はこれまでと変わりせんのでご安心下さい。特にスポンサー各社様におかれましては、弊社の担当営業を中心に万全のフォローアップをさせていただきます。繰り返しますが、あくまで検討段階です。」

渡会が典型的な代理店の言い回しで早速事態の収拾を図る。言い終わると同時に柿崎に非難を含んだ表情を向けた。話が違うではないか、ということだろう。しかし柿崎は既に、とりあえずこの会議をやり過ごす為だけに練られたシミュレーションに沿うのは止めようと心に決めていた。三人には申し訳ないが。

「いま渡会さんからありました通り、検討段階です。しかしながら、この番組が提示すべきドラマは、テーマは何かを改めて深く考えた先に検討が開始されたものです。いまここにお集まりの皆様には通常のビジネスとは少し趣を異にした、大人の責任、があるのではないかと改めて問い掛けたいと思っています。」

話の途中から会議室は再びざわめき始めていた。

柿崎は「Show me the money」と小さな声でつぶやき、再び深呼吸した。


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