目標への第一歩2
明日から、左舷三番商店街で、ジャンクの買い取りを始める。その言葉を聞いた四人は、何を言われたか分からない、といった表情を見せた。
「どうしました?」
「あのー、オウルさん。つまり、明日から、ジャンクヤードを始めるの?」
「ですね」と、アンナの問いかけに答える。
「資格とショップに倉庫を借りる貢献度が足りないと思うのだけれど?」
「ああ、それはですね。採掘に行ったら『銀』を五トンも掘れまして。お陰でガレージも借りられましたし。クレジットも結構使ったけど、ジャンク修理用の機械もいくつか買えたんですよ」
あれは運が良かった、と思い出して頬が緩む。
戦闘機型エネミーが激闘していた、星間浮遊小惑星。先週の日曜日の採掘で、たまたま自然銀の鉱脈を見つけて。お陰で貢献度もクレジットもかなり稼げて、当初借りる予定のなかったガレージも借りることが出来たのだ。
「……まさに一攫千金ね」
アンナは羨ましそうに言った。
「なるほどな。ついでだから店の情報見せてくれないか?」
「デバイスに送りますね」
モガミの質問の答えを、彼らのデバイスに送る。
「なるほど。店には実物を置かずに一覧表とホログラム装置を置くことで、一番小さな店に納めたんだな。すげー」
「小さな店ならば必要な貢献度も低い。よく考えたな」
マサトミは納得した様子で頷き。
「私としては、今にでもジャンクの買取をお願いしたいのだが」
と言い出した。
私は困惑しつつ、せっかくのチャンスなので頷く。
「え、ええ。いいですよ? お値段はジャンクを確認してから、でいいですか? 一トンあたり最低一一〇〇〇クレジットで、一〇〇トンまで買い取ります」
「最低? つまり上があるのか!」
マサトミは嬉しそうに頷く。
「では一〇トン、お願いしよう」
「こちらこそお願い……」
「ちょっと待て!」
商談がまとまりかけていたその時、モガミが言った。
「ジャンク一トン一一〇〇〇クレジットって、ステーションに売るより高ぇじゃねえか!? 採算取れるのか!?」
心配してくれるんだ、となんだか嬉しくなる。
「余裕だね」
と言うと、モガミは不安そうな表情になったので、説明する。
「例えば、プラズマが流れる『プラズマパイプ』の『B型』、リアクターからエンジンに繋がる部分のパイプだけど。これ、ちゃんと洗浄してやるだけで、『良品』なら一メートル一〇〇〇クレジットで売れるの。重力換算で一〇キログラムで一〇〇〇クレジットになるのよね。
他にも、基盤なんかは、貴重な金属を使ってるから一キログラムで五〇クレジットは堅い。
だからまあ、ジャンクをちゃんと選別して、修理して売れたら、一トンで最低二万クレジットの値段になるね」
「そ、そうなのか。なら良い」
とモガミが引き下がるも、今度はアンナが口をあんぐりと開けて尋ねてくる。
「そんなに儲かるなら、みんな知ってそうなものだけど」
「まあ、そこはカラクリがありまして」
私は苦笑する。
「ジャンクを選別したり、修理したりするのに、時間を取られ過ぎるんですよ」
具体的には。
「今の私だと、リアル一日にジャンク一〇〇トンを選別出来るけれど。そこから修理して、となるとかかる時間は未知数なんですよねー」
「……なるほど。それはキャスタニカはやりたがらなくて当然よね」
アンナは納得してくれた。
実際、『金策掲示板』で『ジャンクヤードは儲かるか』という検証はされていたけれど。
『時給換算すると採掘したりエネミーと戦ったりする方が稼げる』という結論になっていた。そりゃあそうだ。
でも私は。どうしてもこのゲームでジャンクヤードを経営したいので、そんなに儲からなくてもやるんだけれどね。
「オーケイ分かった」
リンゾーは両手を上げて微笑する。
「とりあえず、俺は掲示板と伝手使って、『修理時にジャンク品を使えば修理費が安くなる』こととそのやり方を周知しておく。で、マサトミはオウルと店に行った後、商談を終えてくれ。
その後、知り合いにオウルの店『オウルズヤード』を紹介してくれ」
「もっと大々的に知らせなくて良いのか?」
「そうしてもオウルがジャンクを処理出来ないだろう?」
「そうだな。考えが足りなかった。済まん」
「じゃあ私は、モガミと『例の計画』のための準備を進めておくわ」
「だなアンナ。少しでも状況を良くしねぇとな」
四人は慣れた様子で予定を組んだ。
(凄いなあ)
私は、トントン拍子に進んだ彼ら彼女らの、お互いへの信用と慣れを羨ましく思った。
(今まで、『私のジャンクヤード』のためだけに頑張り過ぎたからなあ)
今からはもっと積極的に、他のキャスタニカと交流しよう、と決める。
「ではマサトミさん。案内お願いします」
「良いが、案内するほどのモノはまだないぞ?」
「でも、多少はあるんでしょ?」
「まあな」
「ではお願いします。商店街のご近所になる人達に挨拶もしておきたいですし」
「それそうだな。では、ちと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「いてらー」
「また後でな。オウルも、助かった」
「いえいえどういたしまして」
リンゾーの言葉に、何でもない、といった風を装って言う。
「では、行こうか」
「はいな」