目標への第一歩1
リアルの今日は、金曜日。明日は待ちに待った土曜日だ。
「手続き完了、と」
右舷二番交流室の公園区画のベンチに座り。デバイスで手続きを済ませて。私は、目標への第一歩を踏み出した。
「さて、『私の城』を見にいくか」
立ち上がり、左舷側のトランスポーターエリアへ向かおうと歩く。
広い交流室は、今がリアルの金曜日の夜ということもあって、結構沢山のプレイヤーがいて。思い思いに過ごしていた。
「……ん?」
その道中。フードコートエリアの公園区画の左舷側で、懐かしい空中投影機の画像を囲んで、何人かのプレイヤー達が頭を抱えていた。
「あれはー、グラフ?」
見知った顔もあるので、興味本位から青白い立体映像の下へ行く。
「何か深刻な表情してますが、どうしましたか?」
「ん? 君は確か、まるゆ乗りの人だね?」
返事を質問で返してきたのは、BGFD初日の『輸送艦改造計画』の話し合いを仕切っていた犬コーディ男だ。
「そうです。初日以来ですね」
「そうだな。……そういえば、自己紹介をしていなかったな。リンゾーだ」
「私はアンナよ」
空中投影機の持ち主な黒髪ドロイド女が右手をヒラヒラとする。
「俺はモガミだ」
よろしくな、と『輸送艦改造計画』の話し合いを始めた金髪ホム男が言う。
「始めまして、だな。マサトミだ。駆逐艦乗りをやっている」
珍しい、パンツスタイルの白いセーラー服姿の灰色の瞳と髪の男が右手を差し出してきたので、軽く握手する。
「どうも、まるゆ乗りのオウルです。で、深刻な表情でどうしたのですか?」
再度尋ねると、リンゾーが答えた。
「ああ。この調子だと一か月後にある、BGFD初のイベント『アギタリア星系争奪戦』で船団が壊滅しそうなのだ」
「……はい?」
彼が何を言ったのか、いまいち理解出来なかった。
「急にそう言われても分かる訳ねえよ」
モガミが苦笑して解説する。
「今のとこ、船団はエネミーとの戦闘を順調に行えているけどな。その分、消耗が激し過ぎるんだなこれが」
「弾薬はなんとかなるだろうが、修理用の部品の生産が全く間に合っていないようなのだ」
断定口調のマサトミに、私は尋ねる。
「その情報源はどこからですか?」
「仲良くなった軍属NPCのタモンから相談されて、な」
「タモンは、ソルジャーの第一空母艦隊の指揮官よ」
マサトミの答えを、アンナが補足する。
「凄い人脈ですね」
と言って、自分を落ち着かせる間を取り、言う。
「修理用部品の生産が間に合ってない、って、大問題じゃないですか」
艦艇は動けば燃料と推進材を使い、部品を消耗し。戦えばその消耗は激しくなる。なので修理用の部品がないと、船はただのハリボテにすらなれなくなるのだ。
「ああ」
リンゾーは強く頷く。
「だから、修理用部品の生産量を増やせないか、テスト時代の仲間で集まって知恵を出しあっているんだが、これが上手くいかなくてなあ……」
リンゾーは腕を組んで眉間に皺を寄せた。
「生産ラインは増やせないらしいわ」
「なら船を改造して生産ラインにするのはどうだ?」
「馬鹿野郎んな自己犠牲精神溢れるプレイヤーなんぞいねぇだろ」
疲れた様子の彼らに、私は尋ねる。
「あのー、ジャンクは結構回収してると思うんですが。それでも足りないんですか?」
「ああ、足りてないな」
マサトミが言う。
「ステーションに修理を頼めば、新品の部品でしか修理してもらえない。それに、使えるジャンクは民間人NPCに回しているらしい」
「ん?」
彼の言い分に、明らかにおかしな点を見つけた。
「ちゃんと注文付けたら、ジャンク品修理に使ってもらえますよ?」
「「……は?」」
四人は、信じられないといった表情をする。
「……それは本当なのか?」
しばし待つと、リンゾーがおずおずと尋ねてきた。
「はい。固体用採掘機のドリルの交換を、ジャンク品でしてもらいましたし。ログ見ます?」
「いや、それはいい」
リンゾーは断りつつ、次々と質問を言う。
「どう注文すれば、ジャンク品で修理をしてもらえる?」
「『優先的にジャンク品を使ってください』と担当にひと言添えればしてもらえますね。修理費少し安くなるので、オススメですよ?」
「なるほど。そのジャンク品の質は?」
「かなり良いものですね。『資格』の講義で教わった範囲で言うと、『秀品』だけです」
「『秀品』だけ? 『優品』と『良品』はどうしているんだ?」
「それは聞いてないです」
「ならその情報はマサトミの人脈に任せよう。で、ジャンク品を使う上での注意はあるか?」
「ジャンク品って、言ってみれば中古品なので、損耗するのが早いですね。でも、『良品』までなら、船の操作性に影響が出たりはしません」
「そうか。かなり詳しいが、何故だ?」
隠すことでもないので、答える。
「私、このゲームの第一目標で『ジャンクヤードを経営する』って決めてまして。その準備の過程で覚えました」
「ほう!」
マサトミは喜びの声を上げる。
「それはいい! 応援しよう!」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げるついでに、駆逐艦乗りなマサトミに宣伝してもらおうと、私は微笑する。
「明日から、左舷三番商店街で、ジャンクの買い取りを始めるので、良ければ宣伝してください」