イベント! 4
「『巣』からのエネミーの出現が止まりました! エネミー先鋒、船団まで残り五万キロメートル地点に到達!」
「次元潜航輸送艦隊に通信!『ルビコン川を渡れ!』
繰り返す! 『ルビコン川を渡れ!』」
ここからが、作戦の本番だ。タカノは船団にも指示を出す。
「母艦級は砲撃を開始せよ! 超大型戦艦級は距離四万キロメートルで砲撃を開始! エネミーを削れ!」
船団に接近しているエネミーは、三〇万体を越えていた。
これを凌がねば、人類に未来はない。
「人類の興廃、この一戦にあり!」
「「応っ!」」
ソルジャー達の気合いは、十分だった。
『ルビコン川を渡れ!』
その通信を聞いた次元潜航輸送艦隊は、訓練通りに動き始める。
「浮上一〇秒前」
その通達と共に、歴戦のザコⅡ乗り達は一層気を引き締める。
「……五、四、三、二、一浮上!」
次元潜航輸送艦隊は、陣形を組んで『巣』の内部に浮上する。
直径三〇〇〇キロメートルの、エネミーの『巣』内部。そこは、赤道方向四方と両極方向に、計六本のトラスが延びた、ガランドウの空間だった。
トラスに巻き付く、オレンジ色に光るグニグニしてそうな管が、なまめかしく脈動し。管の集まる中心に、オレンジ色に輝く、丸い心臓のような『クイーン』が鎮座していた。直径一〇〇キロメートルはあるだろうか? 次元潜航偵察艦が撮ってきていたデータよりも迫力がある。
浮上した一〇隻の次元潜航輸送艦『まるゆ』のカメラデータに、ザコⅡ乗り達はごくりと唾を飲んだ。
「ハッチ開放!」
格納庫のハッチが開くと、ザコⅡ達は訓練通りに船の外に出る。
「ゴーゴーゴーゴー!」
「急ぐぞ!」
「まずはあのトラスをヤる!」
ザコⅡ部隊総勢三〇機が船を降りる間も、『まるゆ』は自分の仕事を続ける。
「アクティブスキャン起動!」
ポーン、と亜空間を揺らすアクティブスキャンに反応したのか、『クイーン』の脈動が早くなる。
「船団ネットワークへ座標データ転送開始!」
アクティブスキャンにより得られた詳細なデータが、『JP1船団』所属の全ての船に届けられる。
『クイーン』のオレンジが更に明るくなる。
「担当以外の『まるゆ』は潜航する! 任せた!」
「任せられた!」
一隻を除いて『まるゆ』は次元の海へ潜る。
『巣』の外殻側から何かがはがれ落ち、『まるゆ』とザコⅡに迫る。
しかし、ザコⅡの動きの方が早かった。
「食らえ!」
最も近くのトラスに向かったザコⅡ三機編隊が、使い捨ての擲弾発射器『ファウスト』を放つ。
一秒の間に放たれた三発のファウストはトラスに命中し。その薄い装甲を食い破って内部の電子回路を破壊する。
それだけなら、エネミーと『クイーン』にとって『かすり傷』だった。しかし、ファウストの一発が脈動するオレンジ色の管を破壊してトラス内部の電子回路に到達したことで、『致命傷』となった。
オレンジ色の管から、高エネルギー粒子が噴出し。半分は『巣』内部の空間へ。半分は電子回路に流れ込み。電子回路がオーバーロードを起こしたのだ。
【Giaaaaaaaaaaaaaaaa!?!?】
「くっ!?」
「うぐっ!?」
『巣』の内部に、『悲鳴』が響く。音で鼓膜を揺さぶる普通の音ではなく、何かで魂を直接揺さぶられたような、命の危険を感じる『悲鳴』だった。
普通の兵士なら、戦うことを止めていただろう。だが、ザコⅡ乗り達は歴戦のプレイヤーだった。
「構うな! 攻撃を続けろ!」
「この血管みたいなのが弱点なんだな!」
「四編隊は本体をヤれ!」
彼らは動じない。戦い、死ぬことに慣れていたし、自分達の失敗は『JP1船団』の敗北に繋がるし。
何よりここは『ゲーム』だからだ。
恐れることなど、何もなかった。
「トラス残り三本!」
トラスを破壊し終えたザコⅡ達は『クイーン』本体を攻撃する連中の護衛に付く。
そんな彼らを、エネミーが襲う。
「なんだこいつら……!?」
「気持ち悪っ!」
そのエネミー達は、常の船と似た姿ではない、内部構造剥き出しの、大多数は内部構造すら未完成の姿だった。
「エネミーの子供か!?」
とあるザコⅡ乗りはそう判断する。
未熟なエネミーは、砲撃や銃撃をして来ず。重量の関係で削られた、ザコⅡの貧弱な火器ですら沈む。だが、我が身を省みずに突進してくる未熟エネミーに、ザコⅡは減らされる。
唐突に、ザコⅡ達の視界が狭まった。
「『まるゆ・ワン』が沈んだ!?」
それまで、アクティブスキャンで支援を続けていた『まるゆ』が、未熟エネミーの体当たりで沈んだのだ。
「急げ!」
それでも、ザコⅡ達はトラスと『クイーン』本体を目指す。
「『まるゆ・ツー』浮上!」
仲間を信じているがゆえに。
「アクティブスキャン起動! 船団ネットワークへの座標データ転送開始!」
ここまでザコⅡを連れてきた、『まるゆ』。それが一隻沈む度、次の『まるゆ』が後を継いでザコⅡ隊と船団にアクティブスキャンデータを送信し続ける。
それが、スキャナの弱いザコⅡを支援するために『まるゆ』乗り達が編み出した作戦だった。
力業で、作戦等と言うのもおこがましい。この作戦のために防空火器すら取り払っている『まるゆ』では、すぐに見つかって瞬殺される。
だがこの作戦は、確かにザコⅡ隊を有効に支援した。
「トラス残り二本!」
「『まるゆ・スリー』浮上!」
「『クイーン』への攻撃開始!」
「『まるゆ・フォー』浮上!」
「トラス全壊!」
「『まるゆ・ファイブ』浮上!」
「ザコⅡ残り一八機!」
「『まるゆ・シックス』浮上!」
「『クイーン』の装甲破れたぞ!」
「『まるゆ・セブン』浮上!」
『クイーン』が、断末魔のような『悲鳴』を上げながら、高エネルギー粒子をばらまく。
「『まるゆ・エイト』浮上!」
「これで! トドメだ!」
両手足の吹き飛んだザコⅡが『クイーン』に突撃して自爆。
「『まるゆ・ナイン』ふじょ……」
『クイーン』の体に大きな穴が空き。勢い良く吹き出した高エネルギー粒子により、『巣』内部は焼きつくされる。
しばしその粒子により空間が揺らぎ。最後の『まるゆ』は浮上出来なくなる。
「……『まるゆ・テン』浮上!」
空間の揺らぎが収まった一〇八秒後、最後の『まるゆ』が浮上する。
そこには、『クイーン』も、未熟エネミーも、トラスすらない、ガランドウの空間が広がっていた。
万感の思いを込めて、最後の『まるゆ』は通信を入れる。
「『まるゆ・テン』より船団総員!『銀河の地獄』!
繰り返す!『銀河の地獄』!」
それは、『クイーン』討伐成功を告げる、暗号文だった。




