開始一日目は情報収集3
楽しい改造の話し合いは、ホーン、というハウリング音で止まる。
《提督のタカノだ》
始まった艦内放送に、私達は黙る。
《これより『JP1船団』は、一回目のFTLを行う。人類生存をかけた大脱出の、その第一歩だ。総員、第一種戦闘態勢に入れ!》
ブツリ、と艦内放送は終わる。
「よし! 立っている人は座れ!」
司会進行をしていた犬コーディ男が最寄りの椅子に座りながら、パンパンと手を叩く。
「FTLは一瞬で終わるが、終わった瞬間酷く揺れる」
「震度でいうとどれくらいだ?」
茶化した質問が飛ぶ。
「六強ぐらいだな」
犬コーディ男の真面目な声に、皆黙る。
「それ、座ってても危なくね?」
「いや、椅子は固定されてるから、背もたれ掴んどけば大丈夫だろ」
ヒソヒソ言いつつ、皆椅子に座る。
《FTLまで残り一分》
艦内放送が告げる。
「ゲームの中とはいえ、超光速かあ」
「早くそんな未来来ねえかなあ」
「月面基地の建設も始まったし、孫の代ぐらいにゃ出来るんじゃね?」
「中々かかるな」
《FTLまで残り三〇秒》
再びの艦内放送。正式サービス後初めてのFTLのせいか、緊張とワクワク感で、皆黙る。
《FTLまで残り一〇秒。……五、四、三、二、一ジャンプ!》
途端、酷い揺れに襲われる。
「うはっ」
「おえっ」
「うほっ」
「えっ?」
揺れは短かったけれど、縦横に揺られて結構しんどい。
「え?」
「うほっ?」
「まさか、ゴリラ?」
「ちょい待てたまたま変な声が出ただけだ俺はゴリラじゃねえ!」
「反射的に鳴き声出るあたりゴリラなんだよなあ」
「違うから! 違うからな!!」
私の座る後ろの方では、そんな騒ぎが起こっていた。
「さて! 続きを……」
《総員戦闘態勢に移れ! これは訓練ではない! 繰り返す! 総員戦闘態勢に移れ! これは訓練ではない!》
犬コーディ男の声を遮るように、艦内放送が入る。
「……まじか」
誰かが呟いた。
「こ、こういう時どうすれば!?」
誰かが焦りの声を上げると、黒髪ドロイド女が手をパン、と叩いた。
「はい落ち着いて! こういう時、私達輸送艦乗りは待機です! 慌てても仕方ないので、ここで話を続けましょ?」
すると焦った空気は霧散していく。
「そ、そうなのか?」
「そうだぞ。マニュアルにも書いてある」
焦った声を上げた人のあたりで、会話がなされる。
「どこに?」
「ここだ」
「……あー、確かに。すみませんでした」
焦った人はあやまった。こういうとこ日本人らしいよね。
「いーのいーの。私達テスターも、初めての襲撃の時は焦ったから」
「だな。では、ここで戦闘態勢中の輸送艦乗りのやることを確認しようか」
犬コーディ男は、説明を始める。
「ステーション・ワンにいる輸送艦乗りは、平時と同じく『待機』が基本だ。
で、ステーション・ワンにいない、宇宙空間に出ていて、なおかつ船団周辺にいる時に戦闘が始まれば、輸送艦は戦闘宙域を離脱して、指定されたルートを通って船団と合流する。
船団の外にいる時に船団が襲われれば、まあこれは無視だ。まあ、船団の外にいて襲われる時は必死に逃げるしかないが、な」
輸送艦の攻撃力はないに等しい。なので、戦闘時は役立たずとなるのだ。
「でだな。待機中は、『資格』を持っているなら、他の部署の応援に行くことが出来る」
「それは戦闘態勢中でもですか?」
「そうだ」と、犬コーディ男は質問に頷く。
「ゲーム開始時の今、俺達輸送艦乗りが持っている『資格』は『採掘資格』と『輸送艦操船資格』だけだが。クエストをこなして貢献度を稼げば、その貢献度を使って『講座』を受けられる。
で、その『講座』の最後の試験を合格すれば『資格』を得られる訳だが。『資格』を持っていると、遊べる範囲が増えるから積極的に取っていくといいぞ」
「『資格』と【スキル】って違うんですか?」
「『資格』は『船団から許可されていること』で、【スキル】は『そのキャラクターの得意なこと』だ。いくら【スキル】を持っていようと『資格』を持っていなければ、その行為をやってはいけないんだ。
具体的にペナルティを言えば、指定された時間を独房で過ごすことになる」
「流石マゾゲー」と誰かが呟いた。
「まあ、スキルポイントは貴重だからな。とりあえず『講座』を受けてみて、自分にあっているようなら【スキル】を獲得して、そのまま試験を受けて『資格』を取ればいい」
これは攻略サイトには乗ってなかったことだ。メニューに存在する『メモ帳』にメモを取る。
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講座→スキル→資格 の順がオススメ!
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(ま、攻略サイトの情報もまだ少ないからなあ)
こういった情報はまだ出回っていない。
(話し合いの場くらいは用意するから、誰か情報まとめてくれないかなあ?)
「でだ。俺達の背後に商店街みたいな場所があるだろ? あそこを更に進むと『簡易教室街』があってな。いくつか『講座』が受けられる。暇な時は……」
犬コーディ男は回りを見回して苦笑した。結構な人数が、ソワソワしていたからだ。
「一旦この場を解散して、希望するメンバーで簡易教室街へ行くか」
「「はい!」」
元気のある人達は返事をする。私も頷いておく。
「では、簡易教室街へ行こうか。希望者はこっちに集まってくれ!」