イベント前哨戦……の会議2
「提督のタカノだ」
大会議室の正面に立ったのは、黒の詰襟の軍服の上から分かるほど筋肉質な、小柄でよく日に焼けた肌の男だった。角刈りなものだから、その厳つさが増している。
「今回の『アギタリア星系争奪作戦』に関しての説明を行う。まずはこれを見てくれ」
タカノ提督は、空中に投影された映像を、船団の紋章から切り替える。
そこに映し出されたのは。
「……ウニ?」
「……クリのイガか?」
丸くて、何やらトゲトゲしたものだった。
「このイガグリのようなものが、我々人類の敵『エネミー』の巣だ」
そう言われても、私にはウニにしか見えない。
「中央に直径三〇〇〇キロメートルの球体があり。その外側には最長一〇〇〇キロメートルの棘があり。この棘はエネミーの『止まり木』となっている」
拡大されたトゲに、多数のエネミーがくっついていて。ここで私は、こいつをエネミーだと認識した。
「今回の作戦は、この『巣』を破壊することが、勝利への絶対条件だ」
「無理だろ」
誰かのつぶやきが響くと、タカノは頷いた。
「確かに、正攻法での破壊は困難を極める。球体の外殻は一〇〇キロメートルあることも、軽巡級以上のエネミーが最低三〇万体はいることも分かっているからな。
そこで、作戦だ」
小さなウニを中心とした作戦図が表示される。かなり広いマップなのだろう。
「『巣』の周辺、一光年地点には、エネミーの防衛拠点が六か所ある。ここに常駐するエネミーは一万体だ。『巣』の破壊作戦中に後方から攻められないため、まずはこの拠点を最低四つは破壊する」
それなんて無理ゲー? と変化する映像に内心でつぶやく。
「これについては、軍属NPCの側で既に一か所、破壊が完了している」
ざわつくも、タカノが右手を軽く上げると皆黙る。
「確かに、ソルジャーは君達キャスタニカと違い補充に限界がある。だが我々は軍人だ。船団のために戦うのが仕事なのだ。
それに、その作戦を行えたのは、君達キャスタニカが、積極的にエネミーに攻撃を加え、数を減らしてくれたからだ。
まずはそのことに感謝する」
『感謝する』なんて、まるでお客様扱いだ。私は不満に思ったけれど、同時にゲーム感覚のキャスタニカが多い以上仕方ないな、とも思った。
「防衛拠点の撃破は、その手順を踏襲する。即ち、数を減らしてから叩く、だ」
作戦や命令はシンプルな方が成功しやすいとは聞いたことがあるけれど。本当に簡潔に言ったなあ。
「君達の奮闘により、残る五つの防衛拠点のうち、四か所は機能不全を起こしている。『巣』からの増援も受け取ったようだが、エネミーは『巣』の守りを固める方針で動いているようだ」
(何のための防衛拠点なの……?)
やっぱりエネミーはよく分からない。
「君達のいう『リアル』の五日後までに、これらの防衛拠点を落とす。
そう聞けば無謀だと感じるだろうが、それは今までの君達の奮闘ぶりから考えて、不可能ではないと判断した」
「あちゃー」
私は思わず天を仰いだ。高い天井だなあ。
つまりは、私達キャスタニカが頑張り過ぎたので、作戦の難易度が高くなった、と。自業自得だね。
「また、エネミー研究部が新型の通信技術を開発したお陰で、船団の外に出ても船団ネットワークと繋がるようになった。この作戦でも、有効に使用して欲しい」
ここでざわめきは起こらない。一昨日から船団の外で船団ネットワークが使えるようになっていたからね。その時の掲示板は、内外問わずにお祭り騒ぎだった。
「防衛拠点そのものを攻撃する作戦は単純なものだ。正面から殴り込む」
拡大された防衛拠点に、正面から艦隊を示す矢印が突っ込んだ。
「ここが重要な点だ。必ず、正面から固まって攻撃せよ。多方面攻撃はするな」
ざわつく大会議室。
「そこの君、疑問があるようだな」
前の方の誰かが指差される。指差されたらしき男が、私も抱いた疑問を口にした。
「複数の方面から攻撃した方が、確実に、こちらの被害も少なく防衛拠点を落とせると思うのですが……」
「それについては、次の作戦に関わっている」
映像が、ウニな『巣』を中心としたものに切り替わる。
「繰り返すが、今回の作戦は、この『巣』を破壊することが、勝利への絶対条件だ。
そのための作戦のひとつが、防衛拠点へ正面からの攻撃なのだ」
ウニを取り囲むように、三方に矢印が表示される。ウニを結節点に置くと、T字になるような配置だ。
「防衛拠点の攻略は、長くともこちらの時間一〇日で終わらせる。それが上手くいけば。『リアル』で一週間後、この作戦を行う」
タカノは一拍置いて、話を続ける。
「まず、君達キャスタニカの艦隊で陽動を行う」
左の矢印に『キャスタニカ』と書かれる。
「防衛拠点への攻撃で、エネミーは『攻撃は一方向から来るもの』と思い込むだろう。君達で大多数のエネミーを引き付けてもらう」
キャスタニカの矢印に、ウニから出た白い三角形が向かう。
「十分にエネミーが引き付けられたところで、船団本体を『ステーション・ワンを先頭に』ジャンプさせる」
真ん中の矢印に『船団』と書かれる。
「これに対応するために、エネミーは『巣』に残っていた群れと君達へ向けていた群れの一部を、送り込んでくるだろう。
船団に、十分にエネミーを引き付けたところで、ステーション・ワンの主砲『グラビトン・カノン』を三秒、照射する」
なんだそれ、と誰かが言い、多くのキャスタニカが首をかしげる。
「グラビトン・カノン? オウルは知ってるか?」
「名前だけね」
私の認識も、そんなものだった。




