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開始一日目は情報収集2

 非与圧の、宇宙空間なタラップを歩く。重力プレートもないので、脚部内蔵のマグネットで床にくっつきながら歩くのだけれど、これが中々慣れない。

『ソロモードで練習はしたんだけどなあ』

 首を傾げる。

 タラップの下では、桟橋を作業用ドローンが移動して、私の船のカーゴの中身を運び出している。その振動に頬を緩ませつつ、タラップの終点、エアロックに入る。

「やっと喉で話せる」

 エアロック内に勢いよく空気が噴出され、ボディに付着しているであろうレゴリスが弾き飛ばされ、起動した床の重力プレートに引かれて落ちていく。

 エアロックを照らすランプが赤から白に変わると。

「やっとステーション・ワンに入れる!」

 歓声を上げて、私はステーション・ワンの中へと入る。

「……なんか地味」

 埠頭区画の人間が移動可能な範囲はシンプルとは聞いていたけれども。

「ただガランドウなだけだね」

 興奮を返してよ、とため息をつく。左右を見回しても、誰も人がいなかった。

「輸送艦は不人気だとは攻略サイトに書かれてたけど。本当にそうなんだね」

 ステーション・ワンの右舷二番のドック群は、輸送艦専用のものだ。左舷の三つのドック群と右舷一番ドック群が戦闘艦用なことを考えると、その不人気さが分かる。

「まあ、そのうち変わるでしょ」


 目の前に並んだ、エレベーターみたいなトランスポーターに乗り、行き先を指定する。

「右舷二番交流室、と」

 ウィーン、とわざとらしい音を立て、視界が一瞬暗転して戻った後、チーン、と音がしてトランスポーターのドアが開いた。

「転送ってこんなか……、え広。すんごい広い」

 甲子園球場三つ分はある交流室の広さに、少し引く。

「あそこは木が植わってて。でフードコートみたいなところにプレイヤーいるね。あっちは商店街、になるのかな?」

 何階か高い現在位置から、エスカレーターに乗って一階に降りて。プレイヤーの集まっているフードコートへ歩く。

「どうも」

 挨拶すると。

「あ、どうも」

「遅かったじゃないか」

「いらっしゃーい」

「どうもです」

「歓迎しよう、盛大にな!」

 と挨拶が返ってくる。こういう交流が、オンラインゲームの醍醐味だよね。

「皆さん早いですね」

 と言うと。

「それは貴女もだろう?」

 と言われた。さもありなん。

「それもそうですね」

「いやー、思ったより輸送艦乗りいて安心だな」

 獣度の低い犬系コーディネイターの男がほっと息をはく。

「そうなんですか?」

 すると、何か飲み物を飲んでいた白髪のホムンクルスの青年が尋ねた。

「ああ」

 とベータテスターらしき服装の凝ったプレイヤー達が強く頷き、先ほどの犬系コーディネイターの男が説明する。

「ステーション・ワンにドッキングする前に、船団、見ただろ?」

「はい」

「ですです」

「あれ感動した!」

「うん、俺も感動した。でだな、船団を構成する船のうち、中核となるものどうしはドッキング出来ないんだ」

「「????」」

 この場の半分以上の人が首を傾げる。私も何を言いたいのかよく分からなかった。

「具体的には、全長一二〇〇メートル、全幅全高二〇〇メートル以上の船どうしは一定以上接近するのが危険なんだ。艦艇でいうと、戦艦・護衛空母以上はステーション・ワンとドッキング出来ないな」

 そう言われて、私含む何人かは気付いた。

「じゃあそんな船の補給はどうするんですか?」

 緑髪のクローンの女性が尋ねる。


 船は、航行するだけで定期的な補給を必要とする。戦闘機動をすれば、補給の頻度も増える。

 ステーション・ワンとドッキング出来ないということは、ゲームを遊ぶ上で必須の補給が出来ない、ということだ。


「そこで輸送艦の出番だ」

 犬コーディの男は答えた。

「そんなドッキング出来ない船に物資を運んでいくのが、輸送艦の基本の仕事だ。これを怠ると、一気に戦闘がキツくなってなあ……」

 そのやけに実感のこもった声に、かなりの人数が視線をそらす。

「どうしたんだその反応は?」

 困惑した犬コーディ男に、青髪クローンの青年がおずおずと言った。

「い、いやあ。そんなに輸送艦が大切だとは思ってなくてさ。……採掘輸送艦にしちまった」

「……もしかして、お前も?」

「……はい」

「お前もか?」

「そうです……」

 ベータテスターらしき人達は頭を抱えた。

「……ま、まあ、採掘も大切な仕事だからな。別に大丈夫だ」

 今なら言っても大丈夫そうなので、私は思い切って犬コーディ男に言う。

「あのー、私、採掘特化の次元潜航輸送艦なんですけど。船、変えた方が良かったりします?」

「次元潜航艦に採掘装備搭載出来る余裕なんてあったか……?」

 ベータテスターらしき金髪ホム男が首を傾げる。

「そこは、生命維持装置オミットしまして……」

「ドロイドだから出来る力技だな。で、カーゴは?」

 金髪ホム男は呆れた様子だ。

「一〇〇トンいけます」

「……それ、武装もオミットしてねえか?」

「ですね」

 金髪ホム男は、深々とため息をつく。

「流石に自己防衛出来るだけの武装は乗せとけよ……」

「いや、良いかもしれん」

 犬コーディ男は、納得した様子で頷く。

「どうせ輸送艦タイプの船の武装じゃあ、偵察型エネミーもミサイルも落とせない。なら、武装を省いてカーゴを増やすのはアリだ。早速改造申請してくる」

「ちょい待て!」

 金髪ホム男は反論する。

「それでも武装がねえのは危険だ! 確かにエネミーもミサイルも落とせねえが、あるだけで安心す……、あれ? これ武装いらなくね?」

 も、反論途中で『武装不要論』に乗り換えた。

「そうだ! デフォの設計図見て、どう改造するか、ここの皆で話し合わねえか!?」

 金髪ホム男の呼びかけに、私含むほとんどの人が頷く。

「ならこれ使って!」

 ベータテスターらしき黒髪ドロイド女が、フードコートの真ん中の方の机に何か置くと、空中に青白い立体映像が投影される。

「おま、またマイナーなの持ってるな」

「この『空中投影器』テスター報酬で選べたからね。まさかこう使うことになるとは思わなかったけど」

「だろうな」

 金髪ホム男と黒髪ドロイド女が話をする間に、プレイヤー達は思い思いに席に着き、立体映像を注視する。

「じゃあ、どれか設計図を映してくれないか?」

「ええ。まずはデフォの『採掘輸送艦』から」

 黒髪ドロイド女と犬コーディ男の進行の元、わいのわいのと私達は意見を出し合う。

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