第一回イベント前哨戦……の前哨戦4
マサトミの船『駆逐艦アサギリ』は、ゲーム開始時に選ぶことの出来る、デフォルトの駆逐艦『一型駆逐艦』がベースとなっている。
一型駆逐艦は、全長三〇〇メートル、全高二〇メートル、全幅三〇メートルある船で、可動式の主砲『三式一二,七センチ連装砲』を艦前方上下に一門ずつ持っている。
その他の武装は、『一二,七ミリ防空レールガン』が一二門と、必殺の『魚雷発射管』を艦中央左右に計八門持っている。
BGFD開始時に、キャスタニカは『魚雷取扱資格』を持っていないけれど。簡単に取れる『資格』なので、駆逐艦乗りはまずこの『資格』を習得し、魚雷を使えるようにする。マサトミも当然、魚雷を扱える。
さて。コルベット級エネミーから剥ぎ取ってきた『シールド発生装置』を設置する上で問題になるのは。
「これ、シールド発生装置置く空間ないよね?」
という点だ。
「そうなのよねン」
ビートと私は、頭を抱える。話し合う場所はビートの研究室に移している。シンプルで無駄のない、でもパソコンのサーバーや画面で狭苦しいビートの研究室は、彼女の性格と多忙さが滲み出ていた。
「一型駆逐艦は、三分の一を反応炉・エンジン関係が占めているわン。そこを弄るのは無しよン」
「武装と弾薬庫に装甲で残りの三分の一を。あとは生命維持装置とかでいっぱいいっぱいだね」
「無難にいくなら、カーゴを潰すのだけどぉ。それでも微妙に足りないわン」
「「うーん……」」
マサトミは思い付きで言ったのか、考えて言ったのか分からないけれど。エネミー由来の兵器の知識が皆無なのは既に分かっている。
「エネミー部品と私達の部品の規格、全く違うからなあ……」
「シールド発生装置みたいな大きなものになるとぉ、電流とか整えるだけの専用の装置も必要になるし、うーン……」
考えても、結論は出ない。なら。
「アプローチを少し変えてみよう」
「ふむン?」
「ビート、例のコルベットから、反応炉、って、何台取れた?」
「三台ねン。……なるほどねぇ」
ビートは、私の言いたいことを理解したようだった。
「エネミーの技術力は、私達人類以上だわン。だから、必要なところにはエネミーの部品を使うことで、艦の余裕を作るのねン」
「ええ」
私は頷く。
「一型駆逐艦に搭載された『小型反応炉』は四台。コルベット級エネミーの反応炉は、一台で小型反応炉二台分の働きをするのに、取る空間は小型反応炉一台の三分の一。
これなら、シールド発生装置を搭載する空間を作れるはずだよ?」
「反応炉を置換するとー、その周辺に規格を合わせたり、リミッターを付けたりする必要があるからぁ……。そうね、反応炉一台分は空間が空くわぁ」
「いや、もっと空く」
私は、この案の一番重要なところを言う。
「反応炉からシールド発生装置までのエネルギー供給ラインはエネミー規格でいける。そうすれば、工期も使う資材も減らせるはずよ」
「なるほどねぇ」
ビートはニンマリと笑う。
「その方法ならぁ、カーゴも二トン分は残せるわン」
「その二トンはさ、こう使わない?」
「あら? そう使うならこっちの方が……」
私のログアウトギリギリまで、私達は設計と話し合いを続けた。
マサトミの船『駆逐艦アサギリ』は、大規模な改造が行われることとなった。
「外見は同じだが、中身は別物だな……」
オウルズヤードのガレージで、マサトミは私の隣で、一緒にエネミージャンクの修理をしながらぼやく。何やら思うところがあったらしく。それまで攻撃一辺倒な『資格』の取り方をしていたマサトミは、『エネミー品分別資格』と『エネミー品修理資格』を習得して。
ログイン時間が短い時は、こうして私のガレージでバイトをするようになっていた。
「ま、エネミー部品っていう全く規格の違うモノ取り扱う訳だからねー。別物になるのも当然だよ」
「そうだな。そのことも知らずに、オウルとビートに頼んだ私は、愚かというべきか、考えが足りないと言うべきか……」
「ま、いいんじゃないの?」
何やら落ち込んでいる様子のマサトミに、私は軽い口調で言う。
「世界を動かす天才達も、調べてみたら考え無しに行動していたことが多いのよねー。初めて空を飛んだ鳥も、きっと空を飛ぶことを『凄いこと』だとは思っていなかったはずよ。
マサトミは『初めて空を飛んだ鳥』になったんだから、もっと誇ればいいと思う」
「そうかな……?」
「そうだよ」
空気を読まないシステムアラートが、ピロン、と音を立てた。
「あ、また売れた」
「今度もアレか?」
「だねえ。ジャンク・エネミージャンク混合のリビルド品。今度は『戦闘機用機関銃』が売れたよ」
「それは良いな」
マサトミはやっと、力の抜けた表情になる。
「私のアサギリにエネミー兵器が積まれると知れた途端、キャスタニカ達がエネミー由来の兵器を使うようになるとは」
マサトミが、自分の船にエネミー由来の兵器を乗せた、という情報は、掲示板を使ってキャスタニカ達に素早く周知され。クレジットに余裕のあるプレイヤー達は、エネミー由来の兵器を買い求めた。
残念なことに、エネミー由来の兵器を売ったり作ったりしているキャスタニカもソルジャーもいなかった。ビートはマサトミのアサギリの世話で忙しかった。
そんな中で、第一回イベント『アギタリア星系争奪戦』一〇日前にして、私オウルが『リビルド資格』を習得したことで、エネミー由来の兵器を船に乗せられるようになり。ジャンク・エネミージャンク混合でリビルドした兵器が、飛ぶように売れていた。
「良い宣伝ありがとうございます」
まあそれも、マサトミが艦隊『キスカ駆逐艦隊』を率いて、圧倒的なエネミーの艦隊を撃破したからだろう。
駆逐艦六隻、コルベット八隻からなるキスカ艦隊は、戦艦二、軽巡八、駆逐艦二〇といった圧倒的に格上のエネミー艦隊を、周囲の小惑星といった地形も利用して殲滅したのだ。
その『大戦果』は掲示板だけでなく、船団ネットワークのニュースを通じて知らされて。その結果が、エネミー兵器を売り始めたオウルズヤードの繁盛に繋がっていた。
「この程度では、恩返しにもならんよ」
マサトミは気の抜けた言葉を口にする。
「そう?」
「ああそうだ」
マサトミは言う。
「ジャンク品を普及させて、船団の部品不足をマシにしたのも。
一歩目を踏み出すことを躊躇していたリックスとレミュエルがジャンク屋を始められたのも。
エネミー兵器の使用が認知されたのも。
もちろん、私のアサギリが強化されたのも。
全て、オウルのお陰だ」
「そうかな?」
「そうだ」
「そっか」
こう誉められると、なんだかむず痒いなあ。




