第一回イベント前哨戦……の前哨戦1
『JP1船団』は、BGFD初のイベント『アギタリア星系争奪戦』に向けた前哨戦でてんやわんやしていた。
『この調子で二週間後のイベントまで保つのか?』
ゲーム内外を問わず、掲示板ではそんな話がなされるほど、忙しかった。
ジャンク部品ショップ『オウルズヤード』の店主な私はというと。
「エネミージャンク多すぎ!」
次から次へとやってくるエネミージャンクの処理に悲鳴を上げていた。
元からあったジャンク倉庫二、ガレージ一,五、ジャンク部品展示場〇,五に。貯めた貢献度を使って、エネミージャンク倉庫二、ガレージ二,五、エネミージャンク部品展示場〇,五を増やした。
出入口から見て、奥に長い長方形の室内に。真ん中を貫通するようにガレージがあり。その右奥をジャンク倉庫が。左奥をエネミージャンク倉庫が。手前の右脇にジャンク展示場が、左脇にエネミージャンク展示場がある形だ。
エネミージャンクの修理に必要となる機材も、一通りちゃんと購入して、稼働させているのだけれど。軍属NPCや民間人NPCを雇えるようになる条件を満たしていないので、残念なことに未だボッチのガレージ作業生活だ。
それでもやれているのは。
「どれだけ『エネミージャンクの装甲』人気なの!?」
オウルズヤードに、お客さんが要求するジャンク部品が、エネミージャンクの装甲一色だからだろう。
「いやね、普通のジャンク品は『リックスショップ』さんと『中古屋レミュエル』さんに任せたから大丈夫だけど。
ステーション・ワン含めて、エネミージャンクを扱えるのが私だけなのはキッツイなあ」
これまで、船団側にエネミー由来の品を取り扱う部門は、そんなになかった。せいぜい、ステーション・ワンの一角の『エネミー研究部』で研究が行われている程度だ。
そんな中に、ジャンク部品とはいえ、エネミー由来の品を扱えるお店が現れたものだから、プレイヤーだけでなくソルジャーも大興奮。エネミージャンク部品をキャスタニカだけではなくソルジャーも買っていくせいで、ここがフルダイブゲームでなければ倒れていたであろうほど忙しかった。
「ゲームでこんなに忙しくなるなんて思わなかったよ……」
それでも、私はこのゲームをすごく気に入っていて。楽しいからやるけれど。この感覚を楽しめない人からすると『クソゲー』になるのだろう。
「ま、こんなに楽しいことはないから遊ぶんだけ……」
作業をしながら一人言を言っている最中に、プルルルルル、とフレンドコールが鳴った。
「ん? マサトミから?」
何の用だろう、と思いつつ、作業を中断してコールに出る。
「もしもしマサトミ?」
『オウルか。今時間あるか?』
「大丈夫だよ」
『なら良かった。実は相談なんだがな』
マサトミはワンテンポ置いてから、とんでもないことを言い出した。
『私の船『アサギリ』にエネミーの兵器を乗せたいのだが、出来るか?』
「……はい?」
思いもしなかった言葉に、私は素っ頓狂な声を上げる。
『実はコルベット級エネミーを鹵獲してだな。そいつは今エネミー研究部に預けているんだが。
そいつの使っていた『シールド』を俺の船に搭載したいんだが、研究部の連中が『それは出来ない』と言い張っていてな。
オウルなら、出来るか?』
「出来るか出来ないかなら出来るけど……」
『本当か!?』
歓喜の声を上げるマサトミに、私は言う。
「出来たとしても。今現物がエネミー研究部にある以上、そっちから許可を取らないと駄目かな?」
『グヌヌヌ』
何故かマサトミはうなる。
「ん? 何か不都合あった?」
尋ねると、マサトミは深刻な口調で言った。
『研究部とは伝手がなくてな。許可を取れそうにない』
「ああ、そんなこと」
あまりに深刻な口調で言われたけれど、私には問題がなかった。
「大丈夫。私、エネミー研究部の部長とフレンド登録し合ってるから」
『……はい?』
マサトミは信じられない、といった口調で尋ねてくる。
『エネミー研究部の部長は、ソルジャーだろ?』
「だね」
『ソルジャーと、フレンド登録出来るのか?』
「ステーション・ワンに常駐してる相手とだけ、ね」
『なるほど。その情報は、掲示板に上げたか?』
「上げたけど。マサトミが知らない、ってことは、イベント回りの情報に流されたんだね」
『そうか……』
マサトミはしばしうなって、こう言った。
『フレンド登録の件は、こちらで裏取りして、攻略サイトに上げよう。構わないか?』
「いいよ」
『助かる』
ふう、とマサトミが息を吐く音がする。
『話を戻すが。エネミー研究部の部長と、この件について話し合いたい。アポを取れるか?』
「ちょっと待ってね」
サッとエネミー研究部部長にチャットを送る。
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オウル:今時間いい?
ビート:暇してるから大丈夫よン?
オウル:コルベット級エネミー手に入れたんだってね
ビート:よく知ってるわねン
オウル:それ鹵獲した人が、そのエネミーの部品使いたいんだって
ビート:ふむン。その人とオウルで、ちょっとエネミー研究部の本部まで来てくれないかしらン?
オウル:了解。時間は?
ビート:いつでもいいわよン
オウル:分かった
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「マサトミ、今からエネミー研究部の本部まで来れる?」
『行けるが……』
「部長さんが私同行で会ってくれる、ってさ」
『分かった今すぐ行こう。エネミー研究部本部前のトランスポーター広場で良いか?』
「そだね。そこで待ち合わせしよう」
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オウル:今から行くね
ビート:待ってるわン
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『ところで、その部長は、どのような人だ?』
「どんな人?」
マサトミの質問に答える。
彼女を言葉で表すとしたら。
「本物の天才」
それ以外、ないだろう。




