夢が現実になった結果
『BGFD』内で夢の『私のお店』オウルズヤードを手に入れた、リアルの翌日土曜日午後。
私は、ジャンクの修理作業に励んでいた。
「あー忙しい!」
修理が終わったジャンク部品が、片っ端から売れていくこの状況に、私は恐々としていた。
「これじゃ在庫が作れない!」
リンゾー達がプレイヤーに、船の修理時にジャンク部品を使う方法を周知してくれたらしく。ジャンク部品を使う人が増え、修理費が安くなったと掲示板はお祭り状態になっている、らしい。
その一方では。『お祭り』を支える、ステーション・ワンでジャンクを使えるようにしているリサイクル部が、急なジャンク部品需要の増加に追い付けず。そこから私のお店『オウルズヤード』のことを知ったキャスタニカ達が、ホームページからジャンク部品を購入していて。
「オウルズヤードの初日だから、って午前中はお店にいたのに。まさかリサイクル部から泣きつかれるとは思わなかったよ」
これも、ログアウト中の自動『ジャンク分別クエスト』を欠かさず行っていた成果なのだろうけれど。その成果は、出来れば別の方面で発揮して欲しかった。例えば、貢献度、とか。
「ま、クレジット稼げるからいいけど」
口も手も動かしつつ、ジャンクを修理する。たまにピロン、とシステム音が鳴るけれど、初めは嬉しかったその音も、今では環境音に成り下がっていた。
「ログアウト中にジャンクを選別させて倉庫に余裕作っておいた分買い取りしてるけど。ほっとんどゴミだもんなあ」
一トンのジャンクに一〇〇キロも使えるモノがあれば赤字にはならないけれど。それでも、買ったジャンクのほとんどがゴミというのは中々辛い。
「お昼ログアウト! ……の前にメニューから自動行動、ジャンク選別を選択してー。今度こそお昼ログアウト!」
スキル【ジャンク知識】が成長していることもあって、ログアウト中の自動ジャンク選別は、中々の量をこなせるようになっている。それでも、自分の手と目でやった方が速いけれど。
そして、壊れた基盤に関しては、選別さえすれば機械が勝手に解体・選別してくれる。なので、基盤部品に関しては、ログアウト中も在庫が出来るのだ。
「ログイン! 相変わらず在庫作れてないね!?」
それでも在庫が作れないとか。
「そんなにジャンク部品人気なの……?」
手が空いたら、掲示板でも見て情報を集めたいけれど。忙し過ぎてその情報を集められない。
「あ、コルベットの装甲板の解体終わったのね」
作業用ドローンに任せていたタスクが、ひとつ終わる。艦艇の装甲などの重量物は作業用ドローン任せで解体や塗装落としをするしかなくて。中々の時間がかかる。その分売ればお高い値段を付けられるんだけれど。
「じゃそれは目視検査の待機列に回してー。ドローンには防空レールガンの砲身取り出させてー。ん? メール?」
マサトミから『買い取り価格が高過ぎないか?』というメールが来た。
「『相場通りですよ』と」
メールに返信して作業に戻る。
オウルズヤードでは、ジャンクを買い取った時点で、一トンあたり一一〇〇〇クレジットを売却してくれたお客さんの口座に振り込む。
買い取ったジャンクは、選別・洗浄・修理が終わり。一通りジャンク部品として値段が付いた時点で、売却してくれたお客さんの口座に追加での振り込みをする。
そんな感じでジャンク売却希望のお客さんに支払いをしているので、後からマサトミのようなメールが送られてくることもあるのだ。大抵は喜びの声だけれど。
「昨日のジャンク買い取りで一〇〇万ちょっと使った分はもう回収終わって買い取り用資金に回ってる。利益も中々出てるから、ジャンクを売ってくれるお客さんへの還元も順調。後は私の頑張り次第だねー」
夢の第一段階が叶っているこの環境は嬉しいけれど。
「次の段階に行くために必要な『資格』取れる時間が確保出来そうなさそうのがなあ……」
仕方ない。
「予定通り、平日はログアウト中の自動ジャンク選別以外は、余裕が出来た場合のみジャンク修理やって。普段は『資格』取るのに必要な『講座』受講したり、貢献度稼ぎ頑張るかあ」
地味に貢献度稼ぎに貢献していた、ログアウト中の自動『ジャンク分別クエスト』を受ける余裕を作れなくなったので、そうするしかない。
「『エネミー品無力化資格』の『講座』を受けられるだけクエストはやったから、後は時間作って『講座』受講して勉強するだけ。
それが取れたらエネミージャンクの取り扱いも出来るようになるけど、そこで次のイベント来そうだなあ」
BGFD初のイベント『アギタリア星系争奪戦』まで、残り三週間。公式サイトと軍属NPCの情報からすると、大規模戦闘が起こるらしいこのイベントまでには、エネミージャンクを取り扱えるようにしておきたかった。
「でないと、絶対『US2サーバー』みたいなことが起こるだろうからね」
アメリカの『US2サーバー』で、鹵獲したエネミーをステーション・ワンに秘密で持ち込んで。『エネミー無力化』の知識もないキャスタニカが、エネミーの解体を試みて。
結果『US2船団』のステーション・ワンはエネミーに侵食されて船団は全滅し。『US2サーバー』がリセットされる、という『事件』が発生していた。
「エネミージャンクは自前で一トン無力化する毎に貢献度一貰えるし。馬鹿なことしでかすキャスタニカが出る前に、『エネミージャンクの処理が出来る』ってアピールしとかないと。やっばいことになる。絶対」
『Battle Galaxy FullーDive』は、船団の利益を考えた、利他的なプレイングを求められるゲームだけれど。それが分かっていないプレイヤーはまだいる。そんなプレイヤーの『しでかし』の対策のためにも、ここは頑張り時だ。
「その前に、このジャンク処理しないとねー……」
好きなこと、やると決めたことでも、しんどさはある。本当、リアルな『マゾゲー』だ。




