目標への第一歩3
『私の城』なお店『オウルズヤード』は、両脇の壁にタッチパネルと空中投影機が置いてあることもあって、人が四人横に並べばいっぱいな横幅と。奥行きは一〇歩も歩けばカウンターに着く程度の広さしかない。
このカウンターの向こうに立って接客することになるんだろうけれど、お店にいる間は椅子に座って待つことが多くなりそうだ。
(繁盛するようだったら、私はガレージに常駐する形で、ここには接客ロボットを買って置かないとなあ)
飛んでいくクレジットに想いを馳せていると、マサトミが店内を見回してつぶやいた。
「結構狭いな」
「まあねー」
何故こんなに狭いのか、説明をしておく。
「ジャンク売却の受付は、明日には船団ネットワークからも出来るようになるの。
で、ジャンクを買いたい! って時も、船団ネットワークから出来るようにしてるの。
このお店は、自分の目でジャンク部品の確認をしたい! って人用の案内所みたいなものなのよねー」
「つまり、売却も買取も船団ネットワークから出来るのだな」
「だね」
「で、一日に何トンまで、ジャンクを買い取ってもらえるのだ?」
マサトミの疑問に、私は「うーん」とうなってから説明する。
「キャスタニカが商品の買取をする時は、面白いシステムになっていてね。保有している倉庫がいっぱいになったら、買い取り出来るのはそこまでなのよ」
「ふむ?」
「オウルズヤードの場合、倉庫二つとガレージひとつと半分、そして展示場を半分持ってて。で、買い取ったジャンクを置いておく倉庫はひとつ。
倉庫ひとつに無選別のジャンクなら一〇〇トン置けるから、今日買い取れるのはそこまでだね」
「ふむ」
マサトミは左手で顎を撫でてから、言う。
「それなら、私のフレンド全員分のジャンクの買取をお願い出来るな」
艦艇のうち、戦闘に特化している艦のカーゴは少ない。デフォルトの駆逐艦なら一〇トンまでしか入らないし、コルベットなら五トンも入らないだろう。
だから、ジャンクを貯め込んでいたマサトミのフレンドは最低九人いることになる。
「んー、ならサービスコード送るから、人数教えて?」
「私含めて一五人だな」
「一五人ね。……送ったよ」
「届いたな。これはどう使えば良い?」
「オウルズヤードのホームページのアドレスにコード送信して。使い捨てのコードだけど、それ使うと色付けてジャンク買い取るから」
「ほほう! それは助かるな」
マサトミは笑みを深め、しみじみと言う。
「戦闘艦は稼ぎも大きいが、支出も大きくてなあ」
戦闘用の艦艇は、とにかく損耗する。エネミーと戦うのが仕事なんだから、それは当然だ。
損耗するということはそれだけ修理が必要、ということで。つまりそれだけ支出も多いのだ。
「倉庫に余裕がある限り、買い取るので」
ニンマリ笑うと、マサトミも笑みを深める。
「ああ。これからよろしくな」
「ええ。どうぞご贔屓に」
その瞬間、ピロン、とシステムアラートが鳴った。
「うん?」
アラートを確認する。
《キャスタニカ『ズゴーッ』からジャンク四トンを買い取りました》
「早っ!」
驚いている間にも、システムアラートは鳴る。
ピロン。
ピロンピロン。
ピロンピロンピロンピロン。
「……もしかしてだけど」
「うん?」
「マサトミさん、移動中にフレンドさんにメール送って周知してました?」
「だな」
「会話してたのに?」
「だな」
「で、もうコード送ってますよね?」
「そうだが?」
「失礼かもしれませんが、マサトミさん、って、『並列思考』出来る人ですか」
「まあ、そうだな」
並列思考は、システム的な【スキル】ではない、本人が出来る能力【リアルスキル】のひとつだ。
並列思考を出来る人は中々貴重だと聞いていたのだけれど。まさかこの目で見ることになるなんて。
「凄いなあ。私、並列思考出来る人と初めて会いました」
「よく言われるな。だが、これに振り回されることも多くてなあ……」
マサトミは深々とため息をつく。私にはよく分からないけれど、彼なりに悩んだり、悩んでいたりすることがあるのだろう。
「まあ、そういうこともありますよね」
と、私は軽く言う。
「困った時は助けてもらえばいいだけですし。で、助けられる時に誰かをその能力で助けたらいいんじゃないですか?」
私の言葉を聞いたマサトミは、キョトンと目を開く。そして、肩を震わせて笑いだした。
「ハハハハハハハハ! その通りだな! オウルはよく分かっている!」
「まあそうですね。私も『顕微眼』持ちで色々経験してきてますし」
「顕微眼……。確か、近くのモノを顕微鏡並みの視界で見ることが出来る【リアルスキル】だったな。オウルもまた珍しい能力を持っているな」
「まあ、よく振り回されてますけどね」
なんだかおかしくて、二人同時に笑う。
「ハハハハ。他人からはよく羨ましがられるのだが。振り回されることも多いとは、中々理解してもらえなくてなあ」
「フククク。ですね。【リアルスキル】なんて、そんなに良いものでもないんですけど。『隣の芝生』ってやつですね」
「だなあ」
マサトミは軽く咳払いをして、言う。
「そういう訳でだな。私のフレンドには、ここのことを周知しておいた。出来れば、多くのジャンクを買い取ってくれ」
「ですね。このままだと、次のイベント厳しいみたいですし。私も気合い入れて、ジャンクを使えるようにしますね」
「頼んだ」




