開始一日目は情報収集1
『Battle Galaxy FullーDive』
通称BGFD。ちょっと変わったフルダイブゲーム。
ゲーム開始時に、プレイヤーは一隻の宇宙船『船』を選んで。滅亡しかけの地球から脱出する船団の一員となって、新天地を探す、というゲームだ。
面白いのは、こういった宇宙系SFゲームにありがちな超光速航法はエネミーからの離脱時の『奥の手』のため、頻繁に使えないことだろう。
また、亜空間通信も、使い方によってはエネミーに探知される要因となるので、下手に使えない。
だけでなく。船団から離れて『遠征』した際にアバターが得た経験値は、一旦船団に帰らないとセーブされず。遠征先で船が沈めば、セーブ時点のアバターデータが適用された上で、船の建造にゲーム内通貨『クレジット』の他に『船団保有資源』が消費される。
そしてオープンベータテストでは、ヨーロッパの『EUBEサーバー』中国の『CN3サーバー』カタールの『QA1サーバー』がテスト中に船団が全滅し、サーバーが初期化された。
中々スリリングなゲーム。正式サービス開始前から『クソゲー』『マゾゲー』と名高いこのゲームを、私は遊ぶことにした。
***
「おおー」
正式サービス開始前から、ソロモードで遊んで自分の船の感覚や外見、その表現力の凄さは掴んでいたのだけれど。
「すっごいなあ」
土星軌道上に日本サーバー『JP1船団』の船が集結しつつあるのは、見ていて壮観だ。これを見られただけで、BGFDを遊ぶ甲斐があった、と思えるほどだ。
「っとと。早く『ステーション』とドッキングしないと」
『ステーション』は、プレイヤーにとって最もお世話になる軍属NPCの船だ。
全長一〇〇〇キロメートル、全幅三〇〇キロメートル、全高二〇〇キロメートルの船団最大級の白い船は、キャスタニカ達の拠点となり、補給・修理・建造等々が行われ、中に入ればレクリェーション施設や生産工場も豊富にある。
「えっと。私の船の名前は『マーユ・ワン』だね」
《マーユ・ワンよりステーション・ワン。ドッキング申請します》
《ステーション・ワンからマーユ・ワン。ドッキング申請承認。右舷2番03ー02ドックへアプローチしてください》
《右舷2番03ー02ドック了解。マーユ・ワンアウト》
マニュアルに従って手続きをして、モニターに表示されたガイドラインに従ってアプローチ。目標から五〇〇キロメートル地点でオートパイロットに切り替わり、私が操縦する必要はなくなった。
「あ」
ここで私は、とある大切な作業をド忘れしていたことを思い出して。慌ててサブパネルをタッチして、確認。
「クエストが……、クリア出来るね」
ほっとしつつ、通信を入れる。
《マーユ・ワンよりステーション・ワン。納品クエストについて報告があります》
《ステーション・ワンからマーユ・ワン。納品クエストですね?》
《はい。『レゴリス一〇トン』を三件、『氷一〇トン』を一件達成出来ます》
《達成出来る納品クエストがあるのですね? では、ドッキング後カーゴから運搬します。その他カーゴはありますか?》
《ジャンクが六〇トンありますね》
《ジャンクですね? それはどうなさいますか?》
《船団に売却します》
《ジャンクは船団に売却ですね?》
《はい》
《分かりました。早速の人類への貢献、ありがとうございます》
《いえいえ。マーユ・ワンアウト》
「ふう」
これで私の所持クレジットと『貢献度』、そして『船団保有資源』が増えた。
「サービス開始前のソロモードで集めた資源を納品出来るとか、知らなかったらそのサーバーでのゲームプレイがしんどくなるよねえ」
BGFDでは、資源はとても貴重だ。そんな資源をサービス開始前に集め、納品出来ると判明したのは、オープンベータテスト時のイギリスサーバー『GB1サーバー』のプレイヤー『GSTQ208』がたまたまその仕様に気付き、時差でテストが遅くなったアメリカサーバーのプレイヤー達が検証したからだ。
「私はテストやれてないから、その時のテスター達の興奮はよく分からないけどね」
ガシャン、と音がしてオートパイロットが止まる。
「ドッキング完了、ね」
サブパネルを操作して燃料と推進剤の補給を要請して、リンクを切る。すると私は、四畳半の狭い部屋の真ん中に置かれた椅子に座っていた。
『相変わらず狭いなあ』
椅子のロック機能を切り、立ち上がって船の外、非与圧のタラップへ向かう。
私が選んだ初期の船『まるゆ一型改』は『次元潜航輸送艦』に分類される船だ。全長三〇〇メートル、直径三十メートルに流線型の艦首と円柱の船体を持つこの船は、資源を一〇〇トン積めるカーゴを持ち。採掘機を四種類一基ずつ、偵察ドローンを八機と作業用ドローンを一二体入れられる区画、がある。
特筆すべきは次元を『潜る』ことが出来る能力で、これを使うとエネミーと遭遇しても安全に逃げ回ることが出来る。
代わりに一切武装を持たず、与圧区画も存在せず、カーゴも同サイズの輸送艦からすると半分も積めないんだけれど。私としては、『沈まない』ことと『資源を集められる』ことが何よりも大切なので、これで問題はないのだ。
『キャスタニカの種族は何種類かあるけど。なんで『アンドロイド』不人気なんだろ?』
キャスタニカは、『クローン』『コーディネイター』『ホムンクルス』『アンドロイド』の中から種族を選べる。
『クローン』はそのまま人間のクローンで、全てが平均的なステータスにスキルに得意不得意がない種族で、どのサーバーでも一番人気がある。
『コーディネイター』はコーディと略される獣人で、ステータスは物理攻撃系が高い反面、ファンタジーで言うところの魔法みたいな特殊能力が低い。スキルの得意不得意もそんな感じだ。
『ホムンクルス』はホムと略される耳が尖っている、ファンタジーで言うところのエルフで、ステータスは特殊能力が高い反面、防御力系が低い。スキルも、特殊能力の成長がかなり早いけれど、防御系はそもそも習得出来ない。
『アンドロイド』はドロイドと略される機械人間で、特殊能力は一切使えず、物理系ステータスを上げるには、お金をかけてボディを改造する必要がある。その代わり、生命維持装置を必要としないので、船の空きスペースやエネルギーに余裕を持てる。
「やっぱりボディがお高いことと、食事が出来ないことが嫌なのかなあ?」
アンドロイドのエネルギー源は電気で、定期的に充電しないと活動限界が来る。けれどそれは、ログアウト時にちゃんと充電施設に行けば問題にならない。ただ、フルダイブゲームの楽しみのひとつな『食事』が、お高いボディに変えないと出来ない、というのが嫌なプレイヤーは多いのだろう。