犯人「オッサンのケツに時限式ダイナマイトを埋め込んだ。命が惜しくば1000万円用意しろ」
春の公園は、散歩や運動をする人で賑わっており、ベンチでうたた寝をする老人も、春の喜びに満ち満ちていた。
しかし、そこに似つかわしくない表情の二人と、冷えた脂汗を止め処なく流し続けるオッサン。三人は公園の隅で何やら怪しげな動きを見せていた。
「先輩何ですかコレは!?」
「見れば分かるだろ! オッサンのケツにダイナマイト! ダイナマイトから赤と青の導火線! どっちか切ればハッピーエンドだ!!」
偶然現場に居合わせた警官二人は、可哀相にもうたた寝中にケツに時限式ダイナマイトを入れられたオッサンの処理に当たっていた。
本庁に問い合わせても犯人からの犯行予告は出ておらず、処理班が到着するまで、二人は暫しその場で待機を命じられた。
「先輩」
「何だ?」
退屈しのぎに後輩が口を開いた。
「最初に赤切って、爆発しそうだったらくっつけて青切れば良いんじゃないですかね?」
「頭の良い後輩を持って俺は幸せだよ…………」
先輩警官は深いため息をつきながら、公園をジョギングする老夫婦に目をやった。平和を乱す愉快犯を許してはおけない気持ちで事に当たる。そう誓った午後であった。
「──本庁より告ぐ、本庁より告ぐ」
二人に無線が入り、二人は緊張の面持ちで耳を傾けた。
オッサンに時限式ダイナマイトを仕掛けた犯人より犯行声明が届き、午後二時に爆発するとのこと。止めて欲しければ1000万円を用意せよ。それが犯人が要求だった。
二人が安い腕時計に目を落とすと、時刻は13:54分。後五分程度しかなかった。
「先輩、処理班間に合わなくないっすか?」
「ああ……恐らくこのオッサンは最初から犠牲にするつもりだったのだろう」
コソコソと話し合う二人の隣で、脂ぎったオッサンは、生きた心地もしないまま、己の末路を悟った。
後五分で爆発するのなら、オッサンは助からない。しかし如何なる状況であっても、二人はオッサンを見捨てること無く、最後の最後まで手立てを考えた。
「トイレで出せば良いんじゃないすか?」
それはふと後輩が漏らした一言だった。
「…………お前」
「えっ、あ、ウソですよ。ウ ソ !」
「それだ!!」
後輩の肩を叩き、先輩警官はオッサンをトイレへと連れて行った。
「出せ!! 出してスッキリしろ!!」
オッサンを公園のトイレへと押し込め、ケツからダイナマイトを出させようとする作戦である。後は池にでも放り込めば、小魚が浮くぐらいで被害は最小限で済む。と言う訳だ。
オッサンは命に代えられる物も無く、ただひたすらに己の命のために気張った。
「出たら教えろ! 池に投げるからな!!」
二人はトイレの入口で鼻を摘まみながら声を発した。
オッサンは今までの人生を振り返るかのように、深い瞑想の最中で必死にケツのダイナマイトを放とうとしていた。
「真智子……俺はまだ死ねん!!」
妻の名を呼び、今朝の些細な喧嘩を心の中で悔いた。そしてダイナマイトはオッサンの体から放たれた!!
「出ました!!」
オッサンは喜びの声を上げた!
二人の警官がトイレの個室へと全力で駆けた。
──ジャジャーッ!
水の流れる音がした。
「──!!」
「おい!! まさか流してないだろうな!?」
警官のよびかけに、オッサンは静かに答えた。
「……すみません。クセで流しちゃいました…………」
警官はお互いに顔を見合わせて、笑顔で逃げ出した。
オッサンも慌てて逃げ出し、三人が近くの茂みに伏せた瞬間──トイレは跡形も無く吹き飛んだ。
空には暗黒物質が激しく乱れ飛び、大地には黄金の雨が降り注いだ。