隣の席に座る黒瀬君が、気になってしょうがない!
私の名前は栗山舞。学校一の美少女だとか、暗い過去が、なんてそういう話は一切ない今年入学したばかりの何処にでも居るような女子高生、じぇーけーだ。
そんな私だが、今とても困った事態に陥っている。それは――
「この黒瀬工に解けない問題など存在しない」
「っ……」
――隣の席に座る黒瀬君の呟きに、困っているのだ。
「バカな、なんだこの問題は……」
「ぷふっ」
「栗山ー、テストに笑えるところなんてあったかー」
「……すみません」
クラスの事情を知る友人達がクスクスと笑っている。いや、本当は皆分かっている。先生だって、何となく察している、と思う。
でもね、みんな? テスト中だよ? 笑い事じゃないんだよ? 困ってるんだよ?
「ふっ……他愛ない」
「くふっ」
………………。
困ってるんだよ?! 本当だよ?!
私の思いも知らず、黒瀬君はこちらに顔を向けて、小声で話しかけてくる。
やめて、黒瀬君、そんな純粋な瞳でこっちを見ないで、笑っちゃうからー。
「どうした、栗山さん。俺の助けが必要か?」
「んっ……ううん、大丈夫、ありがとう」
その言葉にも笑い声が漏れそうになったけど、必死に耐える。耐えてみせる。
……うん、普段からこんな感じなんだよね、黒瀬君。
そうか、困っているなら俺に相談しろ――なんて言って、テストに視線を戻すその横顔は、結構イケメンなんだけど、クラスの評判(side女子)は――
――あーイケメンだよねー、黙っていれば。
――黒瀬君? 良い人だよね、喋るとあれだけど。
――慣れれば不快じゃなくなるよ? 慣れれば。
等々、辛辣な意見多数である。
といっても今のは一部抜粋でしかない。困っている人が居ると、すぐに手を貸したり、こけそうになった女の子をさらりと救ってみせたこともある黒瀬君は、中身もイケメンで、結構人気者なのだ。
スポーツも中々万能だし、まぁ、勉強は普通――
「そんな……まさか」
「んっ」
ふぅ、危ない、危ない。……えっと、何だっけ? そう勉強、成績。いや、うん。普通だよ、普通、普通……のはず。
「さっぱり、わからない」
「んん!」
何で急に素なの?! ビックリするから?! 笑っちゃうから?!
真剣な表情でテストに向き合う黒瀬君には申し訳ないけど、発言の一々に笑いそうになる、いや、認めよう……笑っている。なんか知らないけど、ツボる、ツボに入ってしまっている。
と言うか、これ中学の復習だから、そんなに難しくないはずなんだけど……。
「あっ……そういうことか」
「んふっ」
だから?! 急に素になるのやめて?!
「栗山ー」
「……すみません」
黒瀬君、君は真面目に記入しているだけなんだろうけど、私が先生に怒られているのは、君のせいなんだからね? わかってる? わかってないよね、知ってる。
「栗山ー、余所見すんなー」
ごめんなさい、今のは、私のせいです。
……はぁ、最近黒瀬君ばかり見ている気がする。恋とか愛なんてものじゃないけど……うん、そう、決してそんなものじゃないけど……よく目があう。
黒瀬君がよく見てくるから視線があうんじゃなくて、私の視線に気づいた黒瀬君がこちらを見て言うのだ、俺の助けが必要か?――いや言葉のチョイスがおかしいよ? 黒瀬君?
「ふっ……他愛ない」
「……」
それ、さっきも言ってたよ、黒瀬君……。
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「おー、黒瀬ー、満点じゃないか、すごいなー」
ウソでしょ?!