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7 エリシアちゃんの言うことは〜『絶対!』

エリシア視点です。


 わたしがその事(・・・)を知ったのはパーティーを脱退してニ日後。夕飯の買い出しに街へと出掛けたときだった。


 ……レオンと偶然会っちゃったりなんかして、どうしてもって言うならパーティーに戻っても良いかな。

 ……なんて、都合の良い馬鹿なことを考えながら、レオンが帰ってきそうな時間を狙って、冒険者組合の通りにある商店街をうろうろしてた。……何時間も。


 そして、通り掛かったカフェテラスで、変な噂話を耳にした。話していたのは冒険者っぽい二人組の男。


「Aランク冒険者のあいつ。依頼放棄の違約金500万Gだってさ」

「やっば。馬鹿だねぇ〜」

「でもさ、一括キャッシュで即日払いよ」

「うへぇ。やっぱ金持ってるなぁ。さすがはAランク冒険者ってやつか。あいつ変わり者だしな」


 すごく、嫌な予感がした。


 この国『リズロッテ』にはAランク冒険者のパーティーは2つしか存在しない。


 Aランク冒険者になると、ギルドや騎士団から勧誘話が持ちかけられるため、登竜門的なランクに位置付けられているからだ。


 Sランクには余程のことがない限り昇級はできない。そのため、Aランクとは実質的な冒険者のゴール。


 名門ギルドから落ちてきた英雄(・・)元剣聖(・・・)などが、EからAランクを経由せずSランク冒険者になったり。


 だから……Aランク(・・・・)冒険者(・・・)のあいつ(・・・)と言われると、レオンのことしか……思い浮かばなかった。


 気付いたら走っていて、切らした息のまま冒険者組合の扉を勢いよく開けた。


 〝バタンッ〟


「はぁはぁはぁ」


 辺りはすっかり暗くなっていたため、仕事を終えた者で賑わっていた。けど、わたしの姿を見るや否や、空気は一変。ざわついた。


 そしてわたしが声をかける前に、受付のお姉さんが飛び出してきた。


「あー、あなたねえ! レオンくんのところの‼︎」


 ものすごい剣幕だった。


 その瞬間。疑いは確信に変わった。


 腰が抜けて、目の前が、真っ白になった。


 あの日、わたしのせいで500万Gの違約金が発生したんだ。


 レオンは自分のために殆どお金を使わない。いつだって貯金してた。


 酒も飲まない、煙も吸わない。

 武器や防具も新調しない。


 新しいアジトを買うんだとか、いずれはギルドを作りたいとか。嬉しそうに夢だけを語ってた。


 それを、わたしが奪った。


 レオンの夢、奪っちゃった。


 バカだわたしは。

 取り返しのつかないことをした。


 ほんとはあの日、着替えのスカートを持ってきてた。ただ一言、似合ってるよと言って欲しくて。そしたらすぐに着替えるつもりだった。


 そんな、くだらないことで……わたしは……。


 …………お金。稼がないと。500万G稼がないと。レオンに合わせる顔がない。……ううん。お金だけの問題じゃない。……もう。


 それでも、お金だけは。絶対に。


 ◇

 500万Gなんて大金まともな仕事をしていたらいつになるかわからない。


 だから聖女派遣センターに登録してお金を稼ぐことにした。使い捨てヒーラーセンターなどとも言われている。その分、金払いは良い。


 登録した翌日、さっそくギルドからのオファーが何件か来ていた。


 その中で一際わたしの目を引いたのは、この国の三大トップギルドの一つと言われる『銀翼の宴』。ここだけお給金が段違いに高かった。


〝最低保証日当10万G〜、他、諸手当あり。ギルド内施設、無償で使い放題、寮食事完備〟


 つまり生活費が掛からないことを意味した。

 無駄遣いしなければ、毎日最低10万G貯金できる。休まず働けば二ヶ月掛からず500万Gになる。


 わたしは迷わずここに行くことを決めた。


 ◇

 オファーが入ったとは言え、依頼主との面談を経て正式な雇用となる。


 銀翼の宴は武闘派ギルドと名を馳せ、国の自治が届かない辺境の地にある。


 見知らぬ土地に心細くなった。


 エントランスを通されると、視線がいっぺんに集まった。


「女だ」「ああ女だ」「おいおい女じゃねえかよ」「何の用だよ」「ここは女禁制じゃねえのか」「ちっ目障りな」「ふーん。女じゃん」


 蔑む目と卑猥な視線。

 所詮は使い捨てヒーラーセンター。覚悟はしてきた。……こんなのなんとも思わない。


 〝パンッ〟〝パンッ〟


「おい、大事な客人に対して失礼だろ」


 手を叩き、騒がしい場を一瞬で納めた。

 その人は七三分けにメガネ、後ろで髪を束ねていた。

 知将って感じの人。……面談してくれる人かな?


「え。客?」「聞いてない」「俺も聞いてない」「うん、俺も俺も」「通達あった?」「ねえよ」


 え。わたしって大事なお客なの?

 と、似たような疑問を抱いた。


「悪いね。まったく。うちのギルマスは気が利かないのか、まわらないのか。通達くらいしとけってんだよ」


「い、いえ。慣れてますのでお気遣いなく」


「慣れてる……ね。そんな顔には見えないけど。うん。でもギルマスの読み通りだ。美しい」


「……え?」


 美しいと言われれば女として、嫌な気はしない。けど、今、この場でそれを言われることに、不信感を抱かずにはいられなかった。


「ああっと。女性と話すのは久々でね。それもこんなにも美しい。言葉を選ぶのを忘れていた。非礼を詫びよう。私はサブマスターを務めている。名をアスラインと申す。二十九歳、独身だ。よろしく頼む」


 そう言うと、握手を求められた。


 手を握られると、全身から寒気がした。

 わたしは、レオン以外の男の人の手を……握ったことがなかった。


「……大丈夫?」


「えっ? あっ。はい。大丈夫です」


 困り顔をして首を傾げられてしまった。


 使い捨て。ヒーラーセンター。

 覚悟は決めてきたはずなのに。今更になって後悔した。……それでも。わたしには守りたい想いがある。


 まっすぐギルド長室に案内された。正直、え。って思った。


 たかだかヒーラーの面談にギルドマスターが直々に? しかも三大ギルドの一角。そうやすやす会える人じゃない。



 ……会えちゃった。なにこれ。


 その扉が開くと男が一人、座っていた。


 少し焼けた肌に、銀髪ロン毛。

 第一印象はチャラいだった。でも、この人が剣聖と並ぶにも劣らないと言われる三大ギルドの一角。そのギルドマスター。


 わたしのことを一瞬見ると、興味なさそうに煙を吹かした。


 その目は、人を見るような目じゃなかった。


 見た目に反して、禍々しいオーラのような雰囲気を帯びている。挨拶しなきゃいけないのに、すぐには声が出てこない。


「マスター! 面談の子来たよー。エントリーシート持って来てるみたいだから、ちゃんと面談してあげてね」


「面談? なんの話だ」


「覚えてないの? ていうかちょっと。煙はやめなよ。ちゃんと、面談しなきゃダメだよ?」


 そう言うとアスラインさんが葉巻を取り上げた。


「あー、もう、わかったようるせえな」


「ウィングが話聞かないからだろ? これは没収」


 そう言うと葉巻をシュッと燃やした。


「わぁーっ、ったくお前は。ささっと出てけ。くっそ、母ちゃんかよ」


「ああ。母ちゃんだよ」

「お、おう、そうか。お前は、俺の母ちゃんだったんだな? アスラインよ。三十路間近のおっさんなのにな?」

「ああ。何度も言わせるな。わかったらちゃんと面談しろ」


「ちっ。わぁーったよ。わぁーった、わぁーった。ったくお前ってやつは」


 いや、ちょっと!

 アスラインさーん!

 と、突っ込みたくなるようなやりとりだった。


 クスっと笑みがこぼれるようなそんなほんわかした空気。


「良かった。緊張は取れたみたいだね。じゃあエリシアさん。頑張ってね」


 気遣ってくれたのかな。良い人なのかも。と、思ったのだけれど。


 キィィー。バタンッ。


 アスラインさんは出て行き、密室に男の人と二人きりになった。……しかもギルマス。急に怖くなってくる。


 葉巻を取り上げられたことで不機嫌を纏い、ため息を二度三度ついた。


 そして、再度、わたしに視線を向けると、親指で唇を触り、険しい顔をしながら近づいて来た。


 目の前まで来ると、無言で全身を舐め回すように見てくる。


 震えが……止まらなかった。


「わぁぁっと! すまんすまん。でもこれは、ビンゴ! 思い出したよ。君だったか!」


 先ほどまでの険しい表情からいっぺん。笑顔が生まれていた。


「え。あの、わたしをご存知で?」


「ああ。無論。完全再生魔法。天から祝福された数少ない存在。だろ?」


「いえ、そんな。ただの回復魔法ですし」


「まあ、そうだが。でも、その魔法はうちのギルドでは重宝する。ここには馬鹿が多くてな。ポーションで治らない傷を負ってくる者も少なくない。何度言ってもわかりゃしねえ」


 ヒーラーが使い捨てとされる所以はポーションの存在が大きい。上級職のヒールも100Gあれば三本セットが買えてしまう。


 ポーションを飲めば事足りる。

 生産性のない職業。それが、この世界のヒーラーだ。


「あの、完全再生と言えど、その場で早急に魔法を発動しないと……なのですが」


「そう。だからそういう場面で活躍してもらえたらなと思って、君にオファーをかけた」


 そういう場面ってなんだろう。

 そう思い、返答を躊躇っていると、確信につくようなわかりやすい言葉で教えてくれた。


「死ぬか生きるかの戦場ってことだ。わかりやすく言うと過酷な戦場。ドラゴンだって相手にするぞ」


 正直、驚いた。

 適当に嘘をついて連れて行ってしまえばいいのに、この人はそれをしない。


 お金が欲しい。今のわたしには他にこんなに稼げる場所はない。だから、答えは最初から決まってる。


「やります」


 たった四文字の言葉。

 これにわたしの命が乗る。


 なにしてるのかな。でも、わたしはそれだけのことをした。自分勝手な行動でレオンの気持ちを踏みにじった。


 やるしか……ない。

 じゃないと、もう、二度とレオンに顔向けできない気がするから。


「いい目だ。強い目をしているな。気に入った! えーと、エリシアちゃんって呼んでもいいかな?」


 ちゃ、ちゃん?


「あ。はい。お好きな呼び方でどうぞ」


「じゃあエリシアちゃんって呼ぼう。んと、自己紹介がまだだったな。俺は『銀翼の宴』のギルマス。名前はシルバーウィング。三十八歳独身だ。気軽にウィングと呼んでくれ」


 そう言うと握手のために手を出してきた。


「……はい。ウィングさん。こちらこそよろしくお願いします。エリシア・ア・エルリシアです」


 二回目でも慣れない。レオン以外の男の人の手の感触。……なんかやだ。


 それに、独身とか言われると……尚のこと。


 この挨拶の仕方は間違ってると思う。うん。



「それで、エリシアちゃんは彼氏居るの?」


 は、はぁ?


「あの……この質問も面談ですか?」

「いんや、個人的に! もう面談は終わってるよ。でもその様子だと、彼氏持ちかなぁ?」


「……い、居ませんけど」


 一瞬、言葉に詰まった。

 好きな人は居る。でも、その人は彼氏じゃない。それに、いまのわたしは……。そう思うと、胸が締め付けられて……。


「おおっと。これは聞いちゃまずかったかな。いやね、見ての通りこのギルドには男しか居ない。そういう気を起こす者が居ても不思議じゃないんだ。でも、そうか。心に決めている相手が居る。そうだね?」


 言葉にされると、尚、苦しい。

 コクリと頷くので精一杯だった。


「かぁぁぁ! 青春だ! エリシアちゃん。俺は君の幸せを願おう! ギルド組員に全通達。エリシアちゃんに手を出したらぶっ殺す。これでいこう! わはははは!」


「お……、お気遣いありがとうございます」


 たぶん。誰にでも優しいってわけじゃない。

 最初、わたしのことを見たとき、あれは人を見る目じゃなかった。


 でも、幸か不幸か、一人の人間として扱ってくれるみたい。


「おっし。じゃあとりあえず、ギルドの中を案内したいんだけど。今日、このあと予定は?」


「ありません」


「じゃあ行こう! っと、その前に飯食うか! まずは食堂から案内しよう。あ、ちなみにパパって呼んでもいいぞ! ふた回りくらい歳の差あるからな! はっはっは」


「はい。ウィングさん」


「いいね、その媚びない姿勢! そういうところもますます気に入った」


 悪い人ではなさそうだけど。

 むしろ良い人そうだけど。


 ……すごい苦手なタイプかも。距離感の詰め方が……異常!


 媚びないんじゃなくて、媚びたくないだけだし。色々とズレているような、そんな気がした


 ◇◇◇


 さっそく翌日から仕事に就いた。

 そして今日は五回目のお仕事。ちょっと慣れてきたかな。なんて思う頃。


 所詮は派遣。いざとなれば捨てられる覚悟もしていたけど、最後衛、さらに護衛を3人も付けてくれた。


 ……金銭面以外も、意外と高待遇なのよね。


 正直、TOPギルドの連中なんて貴族や王族連中と癒着して稼いでいるだけだと思っていた。でも、このギルドは違った。


 誰からの依頼もない見捨てられた地域の魔獣討伐によく赴く。


 それもとびきり凶暴な。

 最果ての地や小さな村や町など。そういうところへ積極的に赴き、無償で討伐をしている。


 遠征や討伐だって費用が掛かる。

 資金の出所は不明。色々と闇がありそうなので気にしないことにした。


 そして、わたしが一行を共にするのは毎回必ず、ウィングさん率いる本隊だった。計五十人を超える大所帯。


 そして、今日、初めてドラゴンと対峙した。一目見て死を意識するほどの迫力。


 でも、それを超える強さがこのギルドにはあった。……異世界に迷い込んでしまったような非日常の連続。



「さっきのブレスはやばかったな! もろに直撃! エリシアちゃんが居なかったらまじで死んでたわ!」

「エリシアちゃんまじ天使!」

「ノンノン。大天使! ただの天使だなんてエリシアちゃんに失礼だろ!」

「だな」「そうだそうだ」


 他のギルドメンバーもわたしのことを〝ちゃん〟付けで呼んだ。

 初めてギルドの門をくぐった時は酷い言われようだったけど。ウィングさんが気を計らってくれたのか、なんかよくわからないけど、みんな良くしてくれる。


 でも〝ちゃん〟呼びは嫌だ。


 エリシアさんと呼んでくれたのはサブマスのアスラインさんだけだった。今にして思うと、唯一良識のある人なのかもしれない。のに、ここには居ない。基本的には戦場には出てこない。ギルドの金庫番らしい。


 それに、わたしは〝ちゃん〟ってキャラじゃないと思うんだけどな……。



「おいお前ら、少し休んだら、次行くぞ!」


 あとは帰るだけ、そう思っていたらウィングさんがとんでもないことを口にした。


 え。さっきドラゴン倒してたのに?

 あの……もう無理なんだけど。


「あの、ウィングさん……」


「お。どうしたエリシアちゃん」


「はい。完全再生は使えてあと三回。完全再生を二回にすればヒールを三十回。それでわたしの魔力は尽きるのですが」


「いいねえ! 十分、十分!」


 待って。話が通じてない。


「おい、おまえら! そういうことだ! 完全再生はあと三回。使い切ったら、たとえどんな状況であろうと、即撤退。いいな?」


 「「「うおおおおおお」」」


 待って。本当になんで?

 どうしてここで指揮が高まっちゃうわけ。もう、意味わからないんだけど……。


 普通に絶望的な状況なのに。


 三回目の完全再生使ったらわたし、もう動けなくなっちゃうんだよ。


「あ、あの。その三回目を使ってしまうと、わたし──」


「大丈夫大丈夫。そん時は俺が、おぶってやるから! なにも心配はいらないよ。こいつら見捨ててでもエリシアちゃんを一番に助ける」


「そーだぜエリシアちゃん。むしろこのおっさんがへばっても、俺がエリシアちゃん最優先に運ぶわ!」

「俺も」「俺も俺もー!」

「ギルマスよりエリシアちゃん優先!」


「くぅ〜、ほんとお前ら最低だな! 俺はギルマスだぞ? もうちっと労われないのか!」


 「「「あははははは!」」」


 いい人たちなのはわかるのよ。

 良くしてくれてるのもわかる。感謝もしてる。


 けど、色々とズレてる。


 それに、レオン以外の男におぶられるとか……。


 ……やだ。


 レオンにお姫様だっこされたいな。


 でも、わがままばかり言ってられない。

 死ぬか生きるか。ここはそういう場所。


 500万Gを集めるまでは……挫けない。絶対に。


 ◇◇◇


「おっ、起きた起きた。悪かったねエリシアちゃん。この通りだ。すまない」


 目が覚めるとウィングさんが深々と頭を下げてきた。


「あれ、わたし。……ここは」


 見知らぬベッドで寝ていた。


 ……記憶がない。


「うん。三日三晩寝てたよ。ここはね、ギルドの医務室だよ」


 そんな……。三日あれば最低でも30万G稼げたのに。

 早くレオンにお金渡さなきゃいけないのに。


「ど、どうしたのエリシアちゃん? 大丈夫だよ。もうドラゴンは居ないよ」


「はい。すみません。大丈夫です。びっくりしちゃって」


 わたしがそう言うと、ウィングさんは普段見せないような温かい顔つきで「うんうん」と何かを決めたような素振りをみせた。


「もう少しラクな現場にするかい? エリシアちゃんならどの現場でも、大歓迎さ」


「大丈夫です。迷惑じゃなければ、変わらず今のレートの任務でお願いします」


「ひゅー! ナイスガッツだね! いいよ。好きだよそういうの。俺の嫁にもらいたくなっちまうな。なんつってな!」


 俺の嫁……。レオンに会いたいな。


「ちょぉ! 冗談だよエリシアちゃん! そんな顔しないで!」


 やだ。わたし顔に出ちゃってたの?


「す、すみません。別にそんなつもりじゃ」


「えーとっだな。エリシアちゃん。君はね、俺にとって娘みたいなものだ。だから、センスの悪い親父ギャグ程度に聞き流してくれると嬉しいかな」


 親指立てて歯をにぱぁ! とさせた。


 そして、手が出される。

 グッ。握手をした。


 やっぱりまだ慣れない。レオン以外の男の人の手。でも、大きくて温かい。強者の手。そんな気がした。


 ◇◇◇


 とは言いつつも、ウィングさんの冗談は日に日に増していき……。あの日、握手なんてしなければ良かったと、ひどく後悔した。


 親父ギャグとは言うけれど、度を超え始めてしまった。


 ◇

 今日は十回目の任務。


 ここは人界と魔界の境界線。

 最果ての地と呼ばれる場所。ギルドが使役するワイバーンに乗ってここまで来た。


 まだお昼頃だと思うのだけど、焼けた夕日に荒廃された土地。最近、度々ドラゴンの群れが入ってくるらしい。


 ここには朝も夜も来ない。

 永遠に夕暮れ時の場所。正直、不気味。


 戦闘が始まる前に、ウィングさんが指揮を高めるのが恒例なんだけど、最近、おかしなことになってしまっている。


 全身をオリハルコンの鎧で武装したウィングさん。普段とは違う気の入れよう。フルアーマーウィングの二つ名を持つ、本気モードだ。


 ただ、今日もあれをやる。

 この人はブレないから。たぶん、やっちゃう。


「よぉーし、お前ら集まれ! あれやるぞ、あれ」


「もうそんな時間か」

「よっしゃ!」「っしゃあおらぁ!」


 ウィングさんの掛け声にぞろぞろとメンバーたちが集まってくる。もう〝あれ〟で通じてしまう……。


 ウィングさんが大きく息を吸い込むと、大声をあげた。ついに、あれが始まる……。


「今日、俺らはなんのために此処へ来た?」


 「「「エリーシア!」」」


「誰のために、この身を捧げる?」


 「「「エリーシア!」」」


「この身、滅びようとも、必ず守る、ただ一人の女神の名前は?」


 「「「エリーシア!」」」


 うん。全てがおかしい。

 右手を胸に当てて言うことじゃない。だってそれって、心臓を捧げるポーズ。……この身を捧げるとか言ってるから、それどころの話じゃないんだけど。


「はい、じゃあ、俺の嫁にして女神様のエリシアちゃんから一言!」


「おーいおっさん! 何言ってんだよ! エリシアちゃんはあんたのじゃねーぞ!」

「ギルマスー、キツイっす!」

「親子の間違いじゃねーの!」


 「「「あははははは」」」


 うん。本当に笑えないんだけど。

 それでも、この人たちは脳筋過ぎるから……。聖女として、ヒーラーとして。


 役目は果たさなければならない。


「みなさん。なるべく直撃は避けてください。完全再生は回数が限られてます。命は一つしかありません。一人一人がその意識をしっかり持ち、連携を高めていきましょう。大丈夫。私たちは必ず勝利します! ただ一人の犠牲も許しません。誰か一人でも欠けたら、その時は敗北だと思いなさい」


 こうやってちゃんと、言葉にしてあげないとわかってくれない。実際、戦闘の前にわたしが一声かけるようになってから回復量は目に見えて減ったくらいだ。


「よぉーし、エリシアちゃんから神の声を頂いたぞ! お前ら、恒例のいくぞ! エリシアちゃんの言うことは〜?」


 そう言うとウィングさんは耳に手を当て、場に居る全メンバーを煽る。すると、


 「「「言うことは〜?」」」


 と、復唱する。本当にもう笑えない状況。



 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ。


 計、六回。

 剣やら盾をリズミカルに地面に叩きつける。


 そして……、


 「「「絶対!」」」


 言葉に合わせるようにラスト一回。

 〝ドンッ〟と叩きつける。


 その衝撃は凄まじく、大地が大きく揺れる程。


 験担ぎなのか、なんなのか、はっきり言って謎。


「我ら、エリシアちゃん親衛隊に加護があらんことを〜‼︎」


 「「「うおおおおおおお!」」」


 そうして、指揮は最高潮になる。


 ほんと、頭が痛くなる。

 なんなのよこれ。親衛隊って何よ。ここはトップギルドの銀翼の宴でしょ……。


 そして、わたしの護衛も十人に増えた。


 十人で円を組み、その中心にわたしがいる。


 ヒーラーってそんなに重宝される職業じゃないのに。


「姫に何かあったらウィングさんにぶち殺されるからな」

「抜かせ! お前のところを機にお姉ちゃんに擦り傷一つ、つけてみろ。その時は真っ先に俺がお前をぶっ殺してやるよ」

「ああ?」「んだてめぇ?」


「あー、もう。仲良くしないとダメだよ。喧嘩はだめって何回も言ってるでしょ?」


 「「にぱぁ!」」


「ついつい、高まった指揮のせいで。姫、申し訳ございません」

「お姉ちゃんごめん。見苦しいところ見せちゃった。こいつ、存在自体が見苦しいから」


「あ?」「事実だろ?」


「あーもう、だから仲良くすること!」


 「「にぱぁ!」


 いったいなんのルールがあるのか。

 わたしが注意すると必ず「にぱぁ!」とする。


 この笑い方には見覚えがあって、ウィングさんが一枚噛んでるような気がした。


 この子たちはわたしよりも年下。十五、六くらいかな。


 姫呼びしてくる子がテトくん。

 お姉ちゃん呼びしてくる子がニアくん。


 二人とも学校を飛び級して既に卒業済み、自らの意思でこのギルドの門を叩いた。言ってしまえば超エリート。


 でも、子供っぽさがまだ抜けない。

 だから、わたしの護衛役になってるのだと思う。たぶん、ウィングさんの優しい采配。


 わたしの近くに居れば、万一の時はすぐに回復魔法がかけられる。そして護衛が増えることによってわたしの安全も増す。


 ふざけた人だけど、本当に色々考えてる。


 とは言え、ほんとに。

 わたし、何してるんだろう。


 姫でもないしお姉ちゃんでもない。

 下民の教会出の元シスターだよ。


 でも。本当にみんないい人たち……。だから困る。心底困る。


 文句の一つや二つ、思っても言いたいとは思わない。それくらい良くしてくれてる。


 なんでだろ。意味わからない。


 ……はぁ。



 ねえ、レオン。元気してる?

 ちゃんとご飯食べてるかな?


 ◇ ◇ ◇



 それから数日後。


 目が覚めると見覚えのない部屋に居た。

 ベッドの上にひとり。わたし以外誰も居ない。


 確か昨日は月に一度の強制参加の飲み会とかで、銀翼のみんなと酒場に行ったんだっけ。


 ここに来てもうじき一ヶ月。

 ギルドの人たちとも最近はよく話すようになった。


 だからって、……うぅ。頭痛いかも。


 飲み過ぎちゃったかな。


「………………」


 それで、あれ……?


 ここは、どこ……?


 昨晩の記憶が、ない……。


 辺りを見渡すと少し散らかっていて、……なんだか無粋な部屋。


 ……それにこのベッド、埃臭いかも。


 なんていうか生活感に溢れてる……。


 そう思った瞬間、心臓がドクンッと大きく脈打った。……とてつもなく、嫌な予感がした。


 だってここ、男の人の部屋みたい。


 ──そんな、嫌な予感は的中した。



 バタンとドアが開くとウィングさんが入って来た。それはもう当たり前のように。


 この部屋が誰の部屋なのかを悟るには十分過ぎた。


「おお、起きたのか。ちょうど珈琲が切れててな。取りに行ったところだ。どうだ。付き合ってくれるかい?」


 普段とは違うラフな格好。

 それは、今までに見たことのない“オフモード”のウィングさんだった。


 なに、この状況……?


 え。これって……。


 一気に不安が押し寄せてくる。とても珈琲だなんて呑気なことは言ってはいられない。


 そんな心境が顔に出てしまっていたのか、ウィングさんの笑い声が響いた。


「はははっ! そんなに焦らなくても大丈夫。一切手は出してないよ。安心しなさい」


 その言葉を聞いて心底ホッとした。

 それと同時に失礼な態度を取っちゃったなとも思った。


 ウィングさんに限ってそんなこと、あるはずない。戦場を共にしたからわかる。わかってたはずなのに。……冗談は過ぎるけど、優しい人。


「なんだかすみません……。ウィングさんがそんな人じゃないってわかってるのに……」


「それはどうかな。昨晩、君に何かしているかもしれないよ? 言わなきゃバレないのだから」


「絶対にありえません。笑えない冗談はやめてください」


「あー、もう! すぐそうやってツンケンするー!」

「当たり前じゃないですか!」


 この人は本当に冗談の絶えない人だなぁ。……なんて、思っていたけど、

 冗談を言う顔から一変、真剣な眼差しに変わった。


「でも、なんというか。お酒は気の許した相手とだけ飲みなさい。危なかっしくて見てられない」


「……はい」


 なんだか無性に恥ずかしくなって返事をするので精一杯だった。


 ◇◇


 男の人の部屋で朝を迎え、珈琲を飲む。


 なにもなかったとは言え、なかったから良いってわけじゃない。


 わたし、なにやってるんだろう。こんなこと、レオンには絶対言えないなぁ。墓場まで持ってこ。


 なんて事を考えながら珈琲を飲むわたしに対し、ウィングさんは味わい深く飲んでいた。


 そして、珈琲を飲み終わる頃には普段のギルドマスターとしての顔付きに変わっていた。


「さて、と。そしたら俺はギルド長室に行くかぁ〜。のんびりし過ぎるとアスラインの野郎にドヤされるからな。エリシアちゃんは今日休みだろう。後で来てくれるかい? 少し話したいことがあってね」


「……話、ですか?」

「あぁ。ギルマスとしての話だ。ここじゃなんだ。向こうでな。午前はアスラインと用事があるから午後以降で頼めるか」


「わかりました」


 話ってなんだろう。そんなことを思っていると、鍵を渡された。この部屋の……鍵。


「よしっ。この部屋にあるものは自由に使っていいから。ゆっくりしていきなさい。まだ眠そうな顔してるからな」


「……はい?」


 わたしは首を傾げながら返事をした。


 でも、そんな様子にもお構いなしに「はっはっはっ」と笑いながらウィングさんは部屋を後にした。


 待って。おかしくない?

 なにもなかったのはわかるけど。なんかこれ合鍵渡されたみたいで、やだ!


 一秒でも早くこの部屋から去ろう。今すぐ!


 とも思ったんだけど。少しだけ部屋を掃除してから出て行くことにした。


 ◇◇◇


 休みといっても特にすることはない。

 次の任務に備えて一日中寝てるだけ。


 のんびり過ごして午後を待つ。


 そうしてギルド長室に向かう途中、テトくんとニアくんに会った。


 普段通りに挨拶をしようとすると、ニアくんが突如として声を荒げた。


「お姉ちゃんのバカーッ!」


 それはもう突然のことにビックリした。


「ずっと、ずっと一緒に居るって約束したじゃんか!」


 続けてそう言うとニアくんはバッとわたしの手を掴んできた。目には涙を浮かべて。


 理解の追いつかない状況にあたふたしていると、隣に居たテトくんが跪いた。


「姫。ニアの馬鹿が取り乱してしまい申し訳ございません。すぐに黙らせますので騒がしくすることをお許し下さい」


 そう言うと即座に立ち上がり物凄い剣幕でニアくんの胸ぐらを掴みに掛かった。


「表に出ろ! 姫を困らせる奴は例えお前でも容赦しない」

「ああ。全力でぶっ殺してやる」


「ちょ、ちょっと! 二人とも‼︎」


 声を大にして二人を止めようとしたとき、肩をポンッと叩かれた。振り返るとそこに居たのはアスラインさんだった。


「放っておいて大丈夫だよ」


「え。でも、このままじゃ……」


「あれで二人はお互い認め合ってるから。大事には至らないよ」


「そういうものなんですかね」


「そういうものなんだ。それに今、あの二人にとっては必要な事なんだろうさ。やり場のない思いを互いにぶつけ合う。決して止めてはいけないよ」


 その言葉はとても意味深だった。


 嫌な予感が……する。


「あの……もしかしてわたしが──」


 アスラインさんは人差し指を口に当てると「しーっ」と、その先を言うことを拒んだ。


「ウィングに呼ばれているのだろう。さぁ、行った行った! ……エリシアさん。短い間だったけど、ありがとうね」


「え。あのそれってどういう──」


 そして今度は言葉を遮るように背中を押された。


「行けばわかるよ。エリシアさんにとって、とても良い話だからね」


 良い話とは言うけどアスラインさんの顔は悲しげに曇っていた。


 とても、とても嫌な予感がした。

 だってそれは、さよならを言っているようだったから──。



 ☆☆




 ギルド長室に入るとウィングさんは机に足を掛け煙を吹かしていた。大きく煙を吸い込みスゥゥゥと鼻からゆっくり出すと「よしっ」と火を消した。


 そして、机に掛けていた足を床に戻すとゴホンと軽く咳払いし話を始めた。


「うちのMVP制度は知ってるね? 今月はエリシアちゃんに決まった。それがこの報酬だ」


 ウィングさんが腰掛ける机の上に『白金貨』2枚『金貨』8枚が置かれると、そのままわたしに差し出された。計208万G。


 MVP制度……。

 この人は嘘を吐いている。直感的にそう思った。


 だってそれは、わたしの手持ちと合わせるとちょうど500万Gになる金額だったから。


 こんな都合の良い話、ありえない。


 昨晩、飲みの席で何があったのかなんとなくわかってしまった。


 わたし、何やってるんだろう。

 

「……いただけません」


 本音を言えば喉から手が出るほどに欲しい。けど、こんなのは違う。絶対にダメ。


「そう言うと思ったよ。でもね、これはギルドの総意として、しいてはギルドマスターである俺の決定でもある。銀翼のメンバーである以上、エリシアちゃんに拒否権はないよ」


「……それでも、拒否します」

「そうか。なるべく穏便に済ませたかったのだがな。……仕方ない」


 ウィングさんは困り顔でため息を吐くと、首を横に振った。

 そして椅子から立ち上がると、鋭い眼差しを向けてきた。


「エリシア・ア・エルリシア。君を《銀翼の宴》から追放する。そのお金を持って直ちに立ち去れ!」


 その言葉を聞いて、事の深刻さを悟った。


 単にお金の話をしただけじゃない。

 もっとなにか、ウィングさんがこうまですることを、しちゃったんだ。


 それなら、尚更……。


「……嫌です」


「困ったな。ギルドマスター命令なんだがな。強制的に追い出すようなことはしたくない。どうかその足で、自らの意志で、このギルドから去ってくれ」


「こんなのってないです……」


「意固地になるな。レオン君とやらの元へ帰りなさい。帰る場所があるのなら、こんなところに長居をしてはいけないよ」


 ドクンッ。

 背筋からゾッと冷たさが迸った。


 ウィングさんの口からレオンって言葉が出た。ただの一度もその名前を言ったことなんてないのに……。


 ……でも。

 やっぱりそうなんだ。とも思った。


 あの日から、わたしの頭の中はいつだってレオンのことでいっぱいだった。

 お酒に酔って枷が外れた心で何を喋ったのか。……もう、全てわかっちゃった。


 レオンに会いたい気持ちが溢れ出して、きっと止まらなくなったんだ……。


 本当、なにしてるんだろう……。



「ダメなんです。ちゃんと働いたお金じゃないと……。ただお金があれば、いいってわけじゃないんです。こんなズルしたら、わたし……もう二度とレオンに顔向けできない……」


「……すまんな。この決定に関してはエリシアちゃんの是非は問わない。これは今日までの働きに対する正当な評価であり対価。報酬だ。受け取らない場合は実力を持ってして受け取らせるまでだ」


 駄々をこねるわたしに対し、ウィングさんが折れることはなかった。


 きっと、わたしが思うのと同じようにウィングさんも決めてしまった事なのかもしれない。


「わかりました」


 だからわたしはお金を受け取ることにした。

 これ以上、なにを言っても無駄だとわかったから。


 机に並べられたお金を全て手に取り、ゆっくりと窓へと向かった。


「窓、開けてもいいですか?」

「ああ。こんなやり方しかできなくてすまんな。君は頑固だから」


「……頑固。本当にその通りだと思います。……ウィングさん、このお金はもうわたしのってことでいいんですよね?」


「無論。それはもうエリシアちゃんのお金だ。好きに使いなさい」


「ありがとうございます。そうさせてもらいます」


 これはもうわたしのお金。

 だからどう使おうとわたしの自由。



 地上10階。窓から顔を出し下に目をやると、都合(・・)の良いことにテト君とニア君が居た。実は居るだろうなと踏んでいた。


 まさに喧嘩の真っ最中。


「テトくーん! ニアくーん!」


 二人の耳に届くように大声で呼び掛けると、テト君はピタッと止まり跪いた。ニア君はキョトンとして首を傾げて見上げてきた。


 ギルドの最上階に位置するこの場所から声を掛ける事。言葉なくしても、この二人ならきっとわかってくれる。


「これあげるー!」


 手に持っていた金貨を二人めがけて全て投げた。白金貨。一枚あたり100万G。それを二枚も窓から投げる。おまけに金貨も八枚。


 きっと、この先の人生において二度とない。


 だからなのか、手が震えた。

 投げ終わっても震えが治らない。


 バカなことをしてるって自覚はある。

 このお金があればレオンの元に帰るきっかけにはなる。


 でも、お金の問題だけじゃない。


 自分のことが許せない。

 あの日、考えなしにわがまま突き通した自分が、ひどく許せない。


 それは今も変わらず、この先も変わることはない。


 けど、だからこそ。

 500万Gだけは自分の力でどうにかしたい。


 他の誰かに与えられるような形で遂げたくない。


 きっと、本音とは矛盾しているのだと思う。

 酔ったときに溢れたであろう言葉が本音なのだから。


 ウィングさんは優しい人だから全てをわかった上で、わたしにお金をくれたんだ。



 だから(・・・)、投げた。

 こんなお金、わたしはいらない──。


 ☆



 ウィングさんはバサっと椅子から立ち上がると、眉間にシワを寄せながら近付いて来た。


 そして、窓から覗き込むように外を見下ろした。


 テトくんとニアくんが素早い動きでなにか(・・・)を広い集めている。


 首を傾げわたしの手に視線を移すと、あっけらかんとした表情で問いかけてきた。


「え、投げちゃったの?」


 わたしは笑顔で頷いた。


「っっ⁈ は、白金貨だぞ? 白・金・貨! 正気か⁈」


 そう言うと窓に足を掛け飛び降りようとした。


「おいガキ共──」


 ウィングさんの怒号に近い叫び声が響き渡った。それに対しテトくんとニアくんは笑顔でグーポーズを向けるとくるりと回り走り出した。



 「超超超重力操作(ダウンズ・ホール)


 ウィングさんはすぐさま得意とする黒魔法を唱えた。右手から円球状の黒い空気の塊が出現する。


 おそらく重力の檻に入れて拘束するのだと思う。……でも、大丈夫。


 ウィングさんとテトくんニアくんとの間にはそこそこの距離がある。手加減と手心を加えるであろう今のウィングさんの目を誤魔化すことは、きっと容易い。


 『空間屈折魔法(エア・デモリッション)


 心の中で光属性の魔法を唱えた時だった。



「ははっ、はははははっ!」


 ウィングさんは声高らかに笑い出した。


 勘付かれたと、そう思った。

 まだ発動前だった。それなのに気付いちゃうんだ。


 ウィングさんの凄さはわかっているつもりだった。でも戦っている姿はいつだって対ドラゴン。


 それに普段、冗談交じりにおちゃらけてる姿ばかりを見ていたから、誤解していた。


 この人の目を欺くなんて、不可能だ……。


「まったく。君って子はむちゃくちゃだな。ギルド長室では俺以外の魔法行使は禁止だというのに。銀翼の一員(・・・・・)なのだから守ってもらわないと困る」


 そう言うとわたしの頭をポンっとした。

 そのまま膝を曲げ、視線を合わすとにぱぁと笑った。


「エリシア・ア・エルリシア。君の追放を、今この場を持って取り消そう」


「……はい。ありがとうございます」


 ◇

 いつからだろう。

 初めて会った時は手を握っただけで寒気がしたのに、今はとても温かく感じる。


 ウィングさんなら怒らず、こうしてくれるだろうと心の何処かで思っていた。


 それは現実に起こり、追放を取り消してくれた。

 何も言及せず、わたしの意地も通してくれた。


 黙ってお金を受け取ることよりも、よっぽど甘えている。好意を踏みにじったはずなのに、笑ってなかったことにしてくれた。


 わたしはこの人に、なにを返せるのかな──。


 もらってばっかりだ。




 ◇◇◇


 それからウィングさんは朝に続きまたコーヒーを淹れてくれた。少し話を聞かせてくれと、対面してソファーに腰を掛けている──。



「とはいえ、この件に関しては不可解な点も多い。たかだか魔獣の討伐をすっぽかしただけで500万Gもの損害が出るわけがない。そんなに大事なら冒険者組合ないし、ギルドや騎士団に緊急で依頼をかければ済んだ話だ」


「それは、一階の冒険者風情が貴族様との約束を蔑ろにしたから……だと思います」


 わたしの後にリリィちゃんとレイラさんまでもが出て行ったことを考えると、確かに不可解な点はある。ここまでの違約金になることを誰一人として想定していなかった。


 そして、高貴な出で顔の利くレイラさんでも介入できなかった。


 そう考えると、首を突っ込んでいい話じゃない。


「それが常識か。やはりこの国は腐ってるな。貴族は腐敗している。表向き、魔獣討伐で依頼したのだろう。あいつらがそんなことに興味があるとは到底思えないからな。冒険者組合もろともこれを機に潰すか」


「…………え」


「確か、元剣聖が天下ってたか。その辺に今回の裏がありそうだ。あぁ、殺すか」


 背筋がゾッとした。

 普段、温厚でおちゃらけてて優しいはずのウィングさんからとてつもない憎悪と殺気を感じたからだ。


「あ、あの……お気持ちだけで」


「おぉぉっと、これはすまん。怖がらせちゃったかな」


「……い、いえ」


「これはその、あれだ。やがて生まれてくる、エリシアちゃんの子供たちのために何か出来ないかなと思ってね。こんなことがまた起こるようなら、結婚生活もままならないだろう?」


 それはなんだか、誤魔化しと訂正のような気がした。それなら、わたしは普段通りにしよう。


「あの! そもそも結婚する予定ないですからね!」


「予定ならあるじゃないか。レオン君とは結婚しないのか?」


「……な! やめてくださいよ。笑えない冗談ばかり」


 そうなればいいなとは思うけど。

 想像したことは何度もあるけど。


 でも、今はそれどころじゃないし。


「冗談とは失礼だな! 君はそれだけ魅力的な女性だ。大丈夫。未来は確定している。でもそうなると、俺はお爺ちゃんになってしまうのかな。エリシアちゃんのパパを自称しているわけだし」


「あー、もう知りません。勝手に言っててください!」


 最近、からかわれてるような気がするのは気のせいかな。


 でも、追放を言い渡されて、大金を窓から投げて、追放を取り消されて。それでもこうやって、何事もなかったように接してくれる。


 これもウィングさんの優しさだ。

 ただ強いだけじゃない。みんなから慕われるのはきっとこういうところなんだろうな。


 ……なんて、思ったのも束の間──。



「そうだ。明日からギルド内で新たなルールが施行される。エリシアちゃんには直接的には関係のないことだがな」


 なんだろう。追放は取り消されたのだから、わたしだって銀翼の一員なのに……。


「あの、それはどういう意味ですか?」


「うん。見た方が早いな」


 そう言うとにぱぁとして壁にかけられた額縁を指差した。


 そこには十の盟約とやらがあり、十一行目に、新たな盟約が追加されていた。


☆《我ら銀翼の宴、最高顧問にして真のギルドマスター『女神・エリシア』の幸せと安寧を願い、一日三度の祈りを欠かさぬこと。これ、絶対‼︎》☆


「…………え?」


「なぁに。エリシアちゃんは祈る必要ないからな! 自分で自分を祈っても仕方がないだろう! わっはっは!」



 ……素直に追放されておけば良かったかも。




 ☆



 翌日、昨日の出来事が嘘のようにみんな普段通りに接してくれた。


 むしろ知らない? って思うくらい何事もなく任務に就き、ドラゴンの討伐を終えた。


 荒廃した辺境の地。あとはギルドに帰るだけ。なのに、誰もワイバーンに乗ろうとしない。


 そして、ゾロゾロとウィングさんの周りに集まりだした。


 みんなが集まり終わると、ウィングさんはまるで予定していたかのように「うしっ始めるか」と口を開いた。


「エリシアちゃん、ちょっといいかな」


 え、わたし?

 自分を指差して首を傾げると、優しい顔付きで頷いてきた。


 昨日の今日だ。良からぬ企みが脳裏を掠める。

 その場にきょとんと立ち竦むと、みんなが声を掛けてきた。


 「ご指名だぞ! エリシアちゃん」

 「よっ! 戦場の女神様! 壇上へ行った行ったー!」

 「「「エリーシア! エリーシア!」」」


「そういうの恥ずかしいんで、本当にやめてくださいっ!」


 「「「あはははははっ」」」


 笑い声と笑顔で溢れ、なんだか温かい雰囲気に。

 昨日、ウィングさんから追放を言い渡された時とは全然違う。


 いったいなにが、始まるっていうの……。


 ──そんな不安は、的中することとなる。


 ウィングさんはとんでもないことを口にしたんだ。



 ◇


「再度、皆の者に問おう。此処にあるは《認識阻害の首飾り》。これを我らが女神、エリシアに捧げることに異論のある者は前へ」


 「あるわけないだろー! 早くしろおっさん!」

 「格好付けなくていいぞー!」


 認識阻害の首飾り。

 これには聞き覚えがあった。

 確か、SS+の国宝級に該当するアイテム。


 さすがにこれは冗談じゃ済まされない。女神だのなんだの言ってからかうのとは訳が違う──。


 ウィングさんの手がわたしの目前を掠めた。

 首飾りが、わたしの頭を──。


「ちょっ、ちょっと待ってください‼︎」


 とっさに、ウィングさんの体を両手で押しのけた。


「おぉぉっと。まぁ、そう来るよな」

「当たり前じゃないですか! こんな高価なもの、いただけません!」


 わたしが断ることをわかっていたかのように、ウィングさんは落ち着いた装いで「ゴホン」とわざとらしく咳払いをすると、用意していたであろう言葉を並べた。


「まー、あれだ。この首飾りはエリシアちゃんの魔法と相性がいい。昨日俺に行使しようとした空間制御魔法と合わせれば目眩しも可能だ。あの時、ピンっとひらめいちゃってな!」


 あの時って、あの時……?

 笑ってたのはそういう意味だったの?


 違う。あの時の笑いはそんなんじゃない。それにこのアイテムをもらったところで、わたしがギルドに貢献できることは何もない。


「ドラゴン相手には通用しないはずです。いただいたとしても宝の持ち腐れです」


「俺がいつ、ドラゴン相手に使えと言った? 会って来なさい。レオン君に」


「……え?」


 「そうだぞ! 女神様っ!」

 「ドラゴンとかどーでもいいから!」

 「俺たちはエリシアちゃんの笑顔を守りたい!」


「あ、あの……! え、ちょっと待って……」


 レオン? レオンって言ったの?

 なんでここでレオンの名前が出てくるの?


 理解が……追い付かない……。


「もう待てないよエリシアちゃん。君はもっと自分の気持ちに素直になりなさい」


 その言葉は胸を抉るようだった。

 本音を言えばレオンに会いたい。会いたくて会いたくて……とにかく会いたくて。


 でもそれと、国宝級アイテムになんの関係があるの……。


 まさかレオンに会うためだけに使えって言ってるの?……そんな馬鹿なこと……あるわけ……。


「本当に困ります。わたし、こんなこと望んでない」


「そうか。これの使い道を理解できてないんだな。つまりだ、レオン君に気付かれることなく近づける。側に寄り、温もりを感じて来なさい。たった(・・・)それだけ(・・・・)のために(・・・・)とか言うのは無しだからな。俺らにとっては今、それが全てだ!」


たった(・・・)それだけ(・・・・)のために(・・・・)国宝級のアイテムを渡すなんて、どうかしてます」


「はははっ。それを言うのは無しって言ったはずなんだがな。このアイテムを使えば、エリシアちゃんの体裁(・・)は守られるだろう? これ程までに価値のある使い方はこの世のどこを探してもないだろうさ」


 「その通りっ!」

 「よっ、我らがギルマス!」

 「よく言った!」



「……………………」


 この人は冗談抜きで、わたしの通したい意地のためだけに国宝級アイテムを持ち出してきたんだ。……馬鹿だよ。馬鹿過ぎるよ……。


 言葉にならない想いが溢れて来る。

 もう、どうしたらいいのかわからない。


 どうしてここまで優しくしてくれるのかも、なにもかもがわからない……。



「そんな顔をするな。君はレオン君のお日様の香りが好きなのだろう?」


「んなっ、なんの話ですか?」


 ──ドクンッ。


 えっ。何言ってるのこの人!

 澄まし顔で悟ったような顔して何言ってるの!


 「バッカ! ギルマス! それは言わない約束だろ!」

 「それ言っちゃダメなやつ……」

 「だぁー、これだからおっさんは。デリカシーがねえや」


 バサっとみんなの顔を見るも誰一人として目を合わせてくれない。


 嘘……でしょ?


「いーや。俺は言うぞ。ここを逃したらこの子はずっと我慢をし続ける。レオン君の温もりを感じてきなさい。……って、かぁぁぁ! 言ってるこっちが恥ずかしくなっちまうな! おい!」


 本当に恥ずかしいんだけど。

 確かに、レオンの隣は好き。レオンの匂いも好き。レオンの温度もなにもかも、……好き。


 でも、どうしてその事を?

 酔っ払ったわたしはそんなことまで口にしてたの……?


「あの晩、酒場でみんな見てるんだよ。レオン君に会いたいって泣き崩れる君の姿を。言葉にならない声で必死に気持ちを吐き出す君の姿を。それは普段の君からは程遠いものだった。気付いてやれなくてすまん」


 「ダメだぁ。この男、まじでデリカシーの欠片もねえや」

 「お、俺は何も見てないぞ」

 「俺もエリシアちゃんの泣き顔とか一切見てない。知らない! 初耳だぁ!」


 なんだろ。今すぐ消えちゃいたい。


 でもそっか。全てが繋がった。

 涙を晒したことに、同情してくれているんだ。


 それなら尚更、たったそれだけのことだよ。わたしはこの人たちになにも返せない。


 近い将来、レオンの元に帰ることは決まっているのだから。……だから、だから……ダメだ。


「アイテムは受け取れません。お気持ちだけいただきます。でも、レオンには会って来ます。なので首飾りは閉まって下さい。返せないですから。ウィングさんにもみんなにも、優しくしてもらってもなにも返せないですから……」


 そう言った直後だった。

 わたしの頭の上を掠めてウィングさんの手が通った。そして、認識阻害の首飾りはわたしの首元に。


「あの、わたしの話、聞いてました?」


「あぁ、聞いてたよ。君からは既にたくさんのものを貰っている。命の尊さを教えてもらった。とかな。それこそ命そのものをもらった者もいる」


「意味わからないです。わたし、そんなの教えた覚えもあげた覚えもないです……」


「自己評価が低いってのも困ったものだな。エリシアちゃんが加入してから死傷者ゼロ。死者はおろか負傷者すら出ていない。これを功績と言わずなんとする。ここはドラゴン討伐の為なら死すら恐れない馬鹿どもの集まりだ」


 「ははっ。その通りだ」

 「ギルマス、あんたもその馬鹿の一員だがな!」


「ドラゴンを相手にする以上、死は当たり前だと思っていたが、違った。それを教えてくれたのは君だ。エリシアちゃん。たとえ君が近い将来このギルドから去ることになろうとも、ここでの経験は未来永劫刻まれる。死傷者が出た際は『敗北』と知りなさい。これは君が常々口にしていた言葉だ」


「そんな……わたしはただ……」


 当たり前のことを言っただけで……。


「だからこれは、俺だけじゃなくギルドの意思として頼む。嗅いで来なさい! レオン君のお日様の香りを!」


「……な! か、嗅ぐとかそういうのじゃないですから!」


 本当にふざけてる。いい事を言った後にだってすぐそうやって……。


 でも、だから。素直になれる。


 張らなくていい意地を張らずに済む。


「わかりました。行きますから。もう二度とそんな恥ずかしいことは言わないでください……!」


「はははっ! よぉし行くぞ! 野郎共! 俺たちもレオン君のお日様の香りを嗅ぎにー!」


 そう言うとウィングさんはワイバーンに跨った。と、同時に、


 「いやいや、おっさんはこっちだろ!」

 「なにちゃっかり着いて行こうとしてんだよ!」


 みんなに取り押さえられ降ろされた。


「おっとこれは失敬。娘が彼氏の元に行くと聞いてついうっかりな」


 もう本当の本当にふざけてる。冗談ばかりの人。……それに、レオンは彼氏じゃないし。


 でも──。


「ウィングさん、ありがとうございます」


 にぱぁとしてわたしの頭をポンっとすると、みんなの方を向いた。


「よぉしお前ら! 我がギルドの女神を送り出すぞ!」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ウィングさんが剣の鞘を地面に叩きつけるとその場に居るみんなも各々の武器を叩きつけた。


 〝ドンッ! ドンッ! ドンッ!〟

 〝ドンッ! ドンッ! ドンッ!〟


 「「「エリーシア! エリーシア!」」」


 大地が激しく揺れた。

 まるで戦地に単身で赴く戦姫。それを送り出すかのような、過度な演出。


 この人たちは本当に……。


 恥ずかしさのピークはとっくに過ぎていた。


 それが勇気になったのか、気付いたら迷うことなくワイバーンに跨っていた。


 この子のスピードなら王都まではあっという間。


 レオンの元まで、あっという間。



 わたしは飛び立った。

 レオンの住む街へと──。



 ◇ ◇ ◇


 そして、懐かしい場所へと帰ってきた。


 正確には帰ってきたわけではないけれど、見慣れた景色が心を温める。


 でも、そんな時間は長くは続かなかった……。


 


「……どこに居るのよ。レオンのバカ」


 途方に暮れ、橋の上にひとり。川を眺めていた。


 銀翼の皆に盛大に見送られたのはいったいなんだったのか。どうしょうもなく、ひとりよがりな現実を目の当たりにしていた。


 陽は落ち、あたりはすっかり暗くなっている。

 仕事なら帰ってきてもいい時間。それなのにアジトにも家にもいない。


 レオンはお酒も飲まないし煙もやらない。……そういう男。


「なら……。夜だって言うのにどこほっつき歩いてるのよ‼︎」


 ……わかってる。

 わたしにはこんなこと言う資格はない。

 レオンにはレオンの人生がある。今後どうするのか、それはレオンが決めること。

 あれから一ヶ月が経つんだ。

 今後の身の振り方を決めるには十分過ぎる時間。


「嫌だよ……レオン。そんなのやだ……」


 よくないことで頭の中がいっぱいになる。

 レオンはひとりじゃ戦えない。

 良き理解者のリリィちゃんもレイラさんも居ない。


〝じゃあ、レオンは今……どうしてるの?〟


 考えると俯き加減になった。

 橋の手すりに頬枝をつき、流れる川をただ眺める。

 後悔しても、もう遅い。

 レオンは新しい女(・・・・)とよろしくやってるんだ。

 考えてみれば当たり前のことだった。

 啖呵を切ってパーティーを脱退したのはわたしだ。

 そのわたしがこうやってレオンに会いに来るなんて都合が良過ぎる。


 あの日、わたしとレオンの関係は終わったんだ。


 そのことに、今更ながら気付いた。


 どうして、気付かなかったんだろう。

 どうして、考えなかったんだろう。


「…………どうして」


 本当にバカだ。わたしは。


 手すりにもたれ掛かり、必死に涙を堪えていると、橋の下に人影が見えた。

 ここからだと暗くてよく見えない。

 けど、そのシルエットはとても懐かしくわたしの心を一瞬で温めるに足るものだった。


 急いで橋の下へと駆け下りると、居た。……レオン見つけちゃった!


 でもそれは、先ほどまで悩んでいたのはいったいなんだったのかと、拍子抜けするほどの再会だった。


 ジョッキを大切そうに抱えて茂みの上で仰向けに寝ているんだ。

 仕事帰りで疲れて眠っているのかと言われればそう見えなくもない、けど……これは違う。


 レオンのことはずっとみてきたから、そういう雰囲気じゃないことくらいわかる。


 少し痩せたかな……?


 髪の毛もボサボサだし、服もしわくしゃ。おまけに髭も処理されてない。


 ほのかに漂ったのはお日様の香りではなくお酒の匂い。


 その姿はとても、だらしなかった。


 まさかにも他の女とよろしくやってるようには見えない。


 元々めんどくさがりなところはあったけど、そっか。こんなことになっちゃってたんだ。


 レオンがどういう状況にあるのかを察するには十分だった。


「そうだよね。こうなるよね……」


 こんなことならまだ、他の女とよろしくやっててくれてたほうが良かった。そっちのほうがレオンは幸せだもん。


 それでも、他の女とよろしくやってなくて良かったと思う自分がいる。


 結局わたしは、どこまでも自分勝手な人間だ──。


「ごめん。ごめんねレオン……」


「ふぁ~あ。むにゃむにゃ。酒くれぇ……。飲ませろぉ~。金なら、あるぞぉ」

「っっ?!」


 び、びっくりした。ただの寝言ね。


 うん。大丈夫。

 レオンは魔術の適性ないから魔法干渉には疎い。

 自分の首元に手をやる。

 認識阻害の首飾り。

 これがある限りは大丈夫。

 街を歩いてみてわかったけど、風景の一部に溶け込んでしまうかのような強力な効果。


 ウィングさんの言う通りわたしの光魔法とは相性がいい。

 

 レオンのスキルとも相性いいかも。

 もしわたしがレオンのことを認識できなくなったとしたら、スカートの中を見られても……。


 って、そうじゃないよ。そういう問題じゃない! レオンのことを認識できなくなっちゃうなんて、絶対にいや。


 って、そういう問題でもなーい!


 あーもぉ。スカートの中は窮地の時だけ。

 仕方のない時だけしか見せないんだから。


 それに結局のところ、このアイテムは微量ながらに魔力を必要とする。だからレオンには使えない。


 なにより!


 下民出のわたしたちには過ぎた物。これはあとでウィングさんに返そう。必ず!


「う、うん。ってことで。いいよね」


 何もいいことなんてないけど、もう……我慢できない。だって、久しぶりのレオンだもん。我慢なんてできないよ…………。


 安眠魔法を掛けて膝枕。

 聖女の加護を右手に宿して頭を撫でる。

 起きてるときにやる勇気はないけど、レオンが疲れて寝てるときにはこうしてコッソリよくやってた。


「わたしはやっぱり、この場所が一番落ち着く。…………好き。大好きぃ」


 過去にも何度こうして耳元で囁いたのかはわからない。安眠魔法を掛けている以上、レオンの耳に届くことは絶対にないから、こそ!


 唯一、素直になれる時間。


「すきぃ。レオンのこと大好きぃ」


 絶対に起きないことがわかってるから言えること。


「ねえレオン。気づいてよ……大好きだよ。返事してよ」


 返事なんてあるわけない。

 でも、こうしている時間が何よりも幸せだった。


「…………すきぃ」



 ◇ ◇


 そんな幸せな時間は長くは続かない。

 やがてレオンは起き上がると大急ぎで走りだした。

 「はっ! エール飲まないと」って真に迫る表情をして──。


 見失いそうになりながらも追いかけ辿りついた先は、酒場だった。


 わかっていたんだ。


 だらしない格好でジョッキを大切そうに抱えて眠っていたのだから。寝言で「酒くれえ」って言ってたもんね。


 今のレオンはただの飲んだくれなんだ。



 大好きな男のそんな姿をみて、心が揺らいだ。


 ◇ ◇ ◇



「おばちゃん酒くれー!」


 レオンはお店に入るとカウンター席に着くであろうその足で開口一番にお酒を注文した。

 

 一秒でも早くお酒が飲みたい。そんな様子が見て取れた。


 わたしはというと、お店には入らず窓の隅から眺めることにした。本当はもっと近くに、それこそレオンの隣に座りたいけど、ぐっと堪えた。


 きっと、我慢できなくなるから。


 時間が許す限り膝枕をして頭を撫でたというのに、全然足らなかった。


 もっと、レオンがほしい。

 もっともっとレオンに触れたい。


 もっともっともっと……たくさん、ずっと──。


 愛する人の変わり果てた、飲んだくれの姿をみると、その想いが強く込み上げてくる。


 でも、…………それはだめ。


 認識阻害の首飾りがあると言えど、起きている相手に触れれば気付かれるかもしれない。


 だからここから。この距離で。


 これが今の、わたしとレオンの埋めてはいけない距離なんだ。


 ◇ ◇


 ここにはレオンに連れられて何度か来たことがあった。


 おばちゃんは眉間にしわを寄せると、カウンター席に座るレオンのことを食い入るようにみた。


「あんた、ジョッキはどうしたんだい?」

「おばちゃん! 酒だよ! 酒! 酒! 早く酒くれー! ジョッキをココに! 早く!!」


 そう言うとレオンはテーブルの上をバンバンッと叩いた。ジョッキという言葉にのみ反応したようだった。


「はぁ……。まったくもう。しょうがない子だよ」


 その様子を悟ってか、おばちゃんはそれ以上追求しなかった。その姿はどこか優しく、温かいものだった。


 そしてレオンの元へとお酒が運ばれると、目を輝かせながら勢い良くジョッキを口へと運び、


「プハァ! うめぇ! これだよこれこれ! よっしゃ! おばちゃんおかわりいっちゃおー! 二杯目いくぞー!」

「あんた! バカ言うんじゃないよ! まだひと口飲んだだけだろう!」

「……あ。本当だ。ごめんおばちゃん」



 全てが衝撃的だった。


 レオンが酒場に来店して数分。


 わたしが思っている以上に、愛した男は飲んだくれのボロボロだった。

 

 でも……。

 いまのわたしには……。


 手を差し伸べる資格はない。


 ただ、窓の外から、レオンが飲み終わるまでずっとみていた──。


 みていることしか、できなかった──。


 ◇ ◇ ◇




 結局レオンは夜が更けるまで、酒場が閉店するまでカウンター席で飲み続けた。わたしはそれを遠くからずっと、眺めていた。


「もう、店じまいなのかぁ! まだまだ、飲み足りないぞぉ……。金なら、あるぞぉ……」

「なに馬鹿なこと言ってんだい! とっとと帰っておくれ。後片付けの邪魔までされたらたまったもんじゃないよ。それにあんた! 今日も一晩中居たくせに二杯目も飲み残してるじゃないか!」


「二杯目……?」


 そう言いながら不思議そうな顔をするレオンは本気でわかっていない様子だった。


 ずっとカウンター席に座り、ちびちびと飲んでいるような素振りをしていたけど、その実、二杯しか注文していなかったんだ。


 当たり前だ。

 レオンはお酒なんてやらない。

 今日初めて、飲んでいる姿をみたくらいだ。


 飲めないくせに、飲んでいるんだ……。そう思うとレオンの心境が痛いほどに伝わってくる。


 それでも、わたしは……ただ、見ていることしかできない。



 おばちゃんは帰りたがらないレオンの背中を叩き半ば強制的に退店をうながすと、それを察してか重い腰を上げるようにカウンター席から立ち上がった。


「……あはは。ごめん。また明日来るよ。おやすみおばちゃん」

「はいよ。あったかくして寝るんだよ」


「ありがとう。おばちゃんもな。……じゃあ、また……」


 酔いが覚めたように肩を落とすと、レオンは酒場を後にした。


 おぼつかない足取りで家路へと向かう。


 廃れた簡素な住宅街の一本道。

 レオンの家は街の外れにある。


 月夜に照らされるその姿は哀愁が漂っており、酒に溺れた人間の一日の終わりを映し出しているようだった。


 よろつき、何度も転びそうになりながらもゆっくりと確実に前へ進む。


 転びそうになるたび、出ていきそうになる気持ちをぐっと堪えながら後をつけた。


 そして、ついに。そのときは訪れてしまう。

 レオンは石に躓き、顔から真っ直ぐに地面へと転んでしまったんだ。


「レオン……!」


 思わず声が漏れてしまった。

 ほとんど無意識に、反射的に。


「エリ……シア?」


 そう言うとレオンは辺りをキョロキョロしだした。


 レオン、私はここだよ。ずっとここにいるよ。

 心の中で答えるのが精一杯で、手を差し伸べることは叶わない。


 わたしがいないことを悟ってか、レオンは大きなため息をひとつ吐いた。


 するとそのまま地べたに大の字に寝転がり、突如として大声で叫びだした。


「バカヤローー! ふざけんなぁ!! ふざけんじゃ……ねぇよ!!!!」


 寝転がったその体でドンッと握った拳を地面に叩きつけた。


 ドンッ! ドンッ! と、立て続けに何度も……。


「ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな……ふざ、けんな…………うああああああ」


 誰よりも真面目で、誰よりも前向きで。

 いろいろなことを我慢して、ひたむきに夢だけを追いかけてきた。


 そんなレオンが目の前で泣いていた。


 それは、初めてみる涙だった。


 その瞬間、私の中で大切ななにかが切れる音がした。


 プツン。と、頑なに張り詰めていた意地や体裁、その全てを繋ぎ止めていたなにかが切れるような、そんな音。


 もう、止まれなかった。

 全部自分のせいだとわかっていても、あまりにも都合の良すぎることだとわかっていても……止まることなんてできなかった。


 そして、超えてはならない一線を、大きな一歩を踏み出したときだった。


「…………えっ?」


 わたしの体は踏み出した方向とは真逆に、倒れ込むように仰け反った。



 一瞬、何が起こったのかわからなかった。


 力強く腕を引っ張られた……?


 …………誰?





 振り返ると、そこに居たのは……………ウィングさんだった──。



「やめておきなさい。ここで手を差し伸べれば、君はきっと後悔する」


 理解が追いつかなかった。

 どうしてここにウィングさんが……?


 その身体は闇夜に紛れるように、高度な闇魔法を纏っている。


 いつから、居たの?

 そう思うもそんな疑問は二の次だった。


 目の前で泣き叫ぶレオンのことをもうこれ以上、放ってはおけない。


 だからわたしは、その手を振り払う。


 今、わたしが取るべき行動はそれだけ。


「放してッ! 後悔したっていい!」


「いいや、離さない。ここで離してしまうほど、俺は君のことを見てこなかったわけじゃない」


「いやだ。やだ……放して……」


 どんなに振り払っても、その手は離れてくれない。

 強く、とても強くわたしの腕を握って離れない。


 お金を渡してきたり追放を言い渡したり会いに行けって言ったり。それでどうして今度は……。


「わかんない。もう、わかんないですよ……」


「本当にわからないのか? それがわからない君じゃないだろう?」


 ウィングさんは少し困り顔で切なさを帯びた表情だった。


 …………本当はわかってるんだ。

 今ここで、レオンに手を差し伸べることの意味を。


 だけど、愛した男の泣き叫ぶ姿を前にしたら……もう、止まれない。


 通したい維持もプライドも体裁もなにもかも、捨ててしまってもいい。


 あの日から今日までのわたしの気持ちが全て無駄になったっていい。


 こんな意地、レオンの涙と比べたら通す価値もないのだから。



「嫌だ! わたしはレオンの元に帰る。だから放して。ウィングさん……お願いします……」


 やっと素直になれた気持ちはどうしょうもなく間違ったタイミングで、それを抑えることはできない。


 気持ちだけがただ、先行してしまう。


 やっと素直になれた、はずなのに……。


 そんなわたしのことを見透かすように、ウィングさんは強い口調で再度、言葉にした。

 

「いいや離さない。絶対にだ」


 力ではどうすることもできない現実に、諦めが芽生えていた。ウィングさんはこの手を放してくれない。言うとおり絶対に。


 こうしてる間もレオンは地べたで泣き崩れている。


 こんなにも近くにも居るのに、届かない。


 いつの間にか、こんなにも遠くなってしまった。


 ううん。元からきっと、この距離だったんだ。


 いつだって素直になれない。

 言葉と気持ちが真逆になる。


 レオンとはそういう付き合い方をずっとしてきた。だからあの日、レオンの頬を叩いてアジトを飛び出した。


 そうして、こんなことになってしまった。


 その元凶であるわたしが、今、レオンに手を差し伸べるなんて間違っている。


 わかっているからこそ、ずっと我慢してきた。


 我慢、してきたんだ…………。



 もう、無茶苦茶だった。

 ここまでわかっているのに、気持ちがそれを許してくれない。


 自分で自分のことがわからなくなる。



 ただ、ウィングさんが邪魔するせいでレオンに手を差し伸べることができない。


 このことだけはハッキリしている。


 およそ間違ったことだとわかっていても、

 気付いたときには、ウィングさんの胸の中で泣いていた。


 そして…………、


「バカ! バカ! ウィングさんのバカ!」


 ぐーの手でウィングさんの胸を叩きながらこんなことを口にしていた。


「バカ! バカ! バカーッ!」


 何度叩いたのかわからない。

 何度バカと言ったのかもわからない。


 そんなわたしをウィングさんは受け止めてくれた。




 それは初めて、ウィングさんに気を許した瞬間だった。



 ◇ ◇


「……悪かったねエリシアちゃん。レオン君がこんなことになっているとは、まさかにも思っていなかった。辛い思いをさせてしまったね」


 止めどない思いが溢れてくる。

 ウィングさんはなにも悪くない。それなのにわたしは…………。


 散々バカと言い放ち叩いてしまった。

 ……どうしたらいいのかわからない。


 そんなわたしの心境すらも見透かしたのか、ウィングさんは続けた。


「帰ろうかエリシアちゃん。彼に手を差し伸べるのは今じゃない。さぁ、パパと一緒に帰ろう!」


 その言葉を聞いてふいに笑みがこぼれた。


「もうなんで……どうして……ウィングさんの、バカッ! パパじゃないし!」


「ははは。君がなんと言おうと俺はとっくにパパ宣言しているからなぁ! わっはっは!」


 本当にふざけた人……。

 いつだってすぐにおちゃらけて冗談に変えてしまう。


 でもだから、素直になれる。……間違わずに済む。



 重たい空気は何処へと。

 和んだところでウィングさんも安心したのか、安堵な表情を見せるとこんなことを言い出した。


「ふぅ。でも間に合って本当に良かった。帰りがあまりに遅いからね。ギルド総出で君を探していたんだ。認識阻害の首飾りは伊達じゃないな。女の子ひとり探すのにここまで手こずるとはな。わはは!」


「……はい?」


 ギルド……総出? ……まさか、ね?


 あたりを見渡すと、闇夜に紛れながらもギルドのみんながいたるところの物陰に潜んでいた。


「え…………?」


 みんな、どうして…………。


「過保護だと笑うか? でもみんな、エリシアちゃんのことが好きなんだ」


 こんなにも多くの人に心配をかけてしまったのだと思うと、胸がはち切れそうになった。


「いいえ。そんな……。心配かけてすみませんでした」

「おぉっと! 謝ることじゃないだろ! 君は少し遠慮しがちなところがある。娘はな、わがまま言ってパパに甘えるものだ。ほら、パパはここだぞ!」


「そーいうのはいりませんッ!」


 もぉ。本当にこの人は……。


「ははは。いつかパパと呼ばせてみせるからな! おっと、彼はもう大丈夫そうだな」


 そう言うとウィングさんはレオンに視線を向けた。


 先ほどまで確かに聞こえていたであろう、レオンの泣き叫ぶ声はいつの間にか止んでいた。


 レ……オ……ン?


「ちょっとあんた! 何時だと思ってるんだい!」

「あ、おばちゃん。おはよ」


 そこに居たのは酒場のおばちゃんだった。


「バカタレ! おはようじゃないよ! 近所迷惑だよ!」

「あれ、俺何してたかな。寝ちゃってた……みたい?」


 泣いていたときの記憶がすっぽり抜け落ちているようだった。


 弱い自分を受け入れられないのか、生存本能がそうさせているのかはわからない。


 でも、目の前に映るレオンはとても落ち着いた表情をしていた。


「まったくもう。しょうがない子だよ。明日のランチの仕込みもあるっていうのに。家まで送っててくよ。ほら立てるかい?」


「ははは。大丈夫。一人で帰れるから」

「帰れなかったからこうなってるんだろう。ほら行くよ」

「……ありがとう。おばちゃん。俺……」

「何も言わなくていいよ。言っとくけどね、今日が初めてじゃないよ。昨日もその前もあんたは! どうせ明日になったら忘れてるのだろうさ。まったくもう。二杯目も満足に飲めないくせに一丁前に酔っ払ってるんじゃないよ! バカタレが!」


「……いつも悪いなおばちゃん。そうだ、これ取っときなよ。お礼」


 そう言うとレオンはポケットから小銭を取り出しおばちゃんに差し出した。


「いらないよ。いつも言ってるだろう」

「でも、これくらいしか、俺……」


「これくらいもヘチマもないんだよ。明日もちゃんとお店に来な。元気な顔を見せにくるだけでいいんだ。約束できるね?」


 その言葉を聞いて、レオンは静かに頷いた。


 そうしておばちゃんの肩を借りながらゆっくりと歩きだした。


 一歩一歩、確実に。ゆっくりと。


 その後ろ姿は、明日もレオンは生きていると思えるだけの背中だった。


 戦ってるんだ。レオンはまだ諦めてない。


 ふわっとどこかに消えてしまいそうな危うさがあった。それを感じたからわたしは居ても立ってもいられなくなった。


 でも、大丈夫なんだ。……まだ。


 二人の姿が見えなくなるまで、わたしとウィングさんは黙って眺めていた。


 そうして完全に見えなくなると、わたしの頭をポンッとした。


「彼は一人じゃない。必要なときに必要な人間が居る。世の中、そういう風に出来ているんだ。俺たちの前に君が現れたように。そして今日、君の前に俺たちが現れたように、な!」


「ウィングさん……わたし……」


 途中まで言いかけて、続く言葉が出てこない。


「大丈夫だよエリシアちゃん。なにも気に止むことはない」


 言葉にしなくても伝わってしまう。

 でも、これは……言わないとだめなこと。


 近い将来、ウィングさんの前から居なくなる。


 そのことをまだ、はっきりとは話していない。

 そこに少なからずの、後ろめたさをずっと感じいた。


 それでも、いざ言葉にしようと思うと詰まる……。


 暫しの沈黙のあと、ウィングさんは優しく微笑んだ。


「大丈夫。わかってるさ。だから、最後の日まで、俺たちは君の笑顔を守りたい。離れたあともずっと君が、笑顔でいられるように」


 にぱぁと笑うとウィングさんは続けた。


「さぁ、帰ろう。たとえ別れが近くとも、今の君が帰る場所は『銀翼の宴』だ!」


 その優しさに思わず涙がこぼれ落ちそうになった。先ほどまでとは違う、別の涙が。


 でも、それを流すのはきっと今じゃない。

 わたしはそれを堪えるように、ひと言だけ返事をした。




「……はい」



 ひとこと返すだけで、精一杯だった。


 


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[良い点] 昨日読んだ 一章のサブタイトルが秀逸過ぎて吹いた 故人のハズなのに爺ちゃんネタに不謹慎感が無いがスケベ流なのかと間違った関心をしてしまう [気になる点] 金はあるのだからスケベ担当のお姉ち…
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