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教室の片隅で世界征服  作者: 中川リョウ
2/3

悪い気は無い

2


先日のあの一件以来、私は西野さんの行動を観察をしている。世界征服と言う物騒な言葉が出た以上、クラス委員として監視する必要がうんぬん…と言うのは建前で、本当の所は単純に気になるからそうしている。どのような動機が可憐な彼女を突き動かしているのか…私は西野有(にしのたもつ)に興味があるのだ。しかし残念ながら彼女に話し掛けても無視される為、遠巻きに眺めるしかない。


彼女は今日も教室に一番乗りだったらしい。朝練をしている運動部に話を聞くと、朝登校すると彼女は必ずいるそうで、最初のうちは何をするでもなくただ座っている彼女を気味悪がっていたが、最近ではそれが当たり前になっていて、彼女がいない日は調子が出ない事もあると教えてくれた。天使と言うより座敷わらし系かな?


チャイムが鳴り朝のHRの為担任の先生が入室すると、私はハッとした。彼は頭髪の調子が芳しく無く、以前某育毛剤cmの歌を歌っていた生徒に激怒した事もある自他共に認める薄毛系男子なのだ。そんな彼に露骨な育毛系用品が見つかってしまえば、1日説教コースになってしまう。私はなんとかして彼の気を逸らす術はないかと考えを巡らせるが、良い案が思い浮かばない。そのうち西野さんは机の右側のフックに掛けてある通学カバンから何かを取り出すと、机の上に堂々と置いてしまった。私はそれを見ると咄嗟に大きい声を出した。

「ん、どうした日下部?何かあったか?」

「えっあ、あの。あったと言うか…。」

「なんだ?」

「ないと言うか…。」

「何でもないのか?」

「いや、無くなった…かな?」

私は彼の頭皮に目を奪われ、そう答えてしまった。

「ん?まぁ良い。それより西野、机の上にあるのはなんだ?」

私の抵抗むなしく、それはあっさり見つかってしまった。私は心の中で、彼女を守れなかった事を後悔した。先生はそんな私の気持ちなど御構い無く徐々に彼女に近付き、机の上のそれを手に取った。

「なんだ西野、朝飯食ってこなかったのか?」

彼女は首を横に振る。そして、手の平を上に向けて、どうぞ、と譲る仕草を見せた。

「いや、流石に生ものは没収しないぞ。腹減ってるなら休み時間にでも食えよ。それ俺も最近ハマっててな。美味しいよな、サラダチキン。」

サラダチキン?私は呆気に取られた。塗る系でも載せる系でも振りかける系でも無く、サラダチキン?彼に必要な物はそんなダイエット中のOLやジム通いの青年が口にするような爽やかなものでは無く、もっと露骨なものではないか?沢山の疑問が湧き上がる中、西野さんはこちらの視線に気がつくと、小さく頷き、控えめなドヤ顔を見せた。私は彼女の様子から、確かな意志を持ってサラダチキンを選んだのだと、スマートフォンで検索をする事にした。


すると、あるサイトにたどり着いた。そこは科学的に発毛や抜け毛のメカニズムを説明して、増毛への最善のアプローチを目指すサイトだった。色々な情報が書かれている中、必要な栄養素の欄に「タンパク質」の文字を見つけた。髪の毛の主成分はタンパク質で、良質なタンパク質を積極的に摂取する事で健康な毛髪を作る。サラダチキンの主成分はタンパク質で、健康な髪の毛を作るのに必要だったのだ。おそらく彼女は先生にサラダチキンをサブリミナル的に見せる事で、積極的なタンパク質の摂取を促し、健康な毛髪作りに貢献していたのだ。


私は尊敬の念を持って彼女の方を再度見た。すると机の上には先日のカミソリがあり、彼女はこちらを向きながら口を小さく動かした。私は彼女が何を言ったのか瞬時に理解し、声を上げた。

「もう毛は無いよ!」

その言葉に反応した担任の先生に連行された私は、生徒指導室で昼前まで説教を受けるのだった。

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