仕事と恋人。そこから始まるストーリー
「社長。こちらが今進めているマレーシアでのリゾート開発の進捗状況の資料です。現地の地上げ業者から先ほど連絡があり、ビーチ周辺の土地を全て買い占めることに成功しました。今後は現地の建設業者に設計図を送り、現地神奈川グループの駐在員に監視させながら、適正価格範囲内での価格交渉をさせます。見積もりが上がれば、こちらに稟議をあげさせますのでご安心ください。目標の来年5月に向けて着実に進んでいますので、ご安心ください。」
太郎はそつなく仕事をこなしながらも着実に神奈川社長の右腕に育っていた。
「さすが山田くんじゃないか。君がうちのグループに来てから、海外事業は本当にうまくいっているよ。まだ28歳なのにすごい成長だな。将来のうちは安泰だな。はっはっは!」
神奈川社長から全幅の信頼を受けている太郎。今でこそ給与も新卒の時から5倍はもらっているが、1年目は他の社員と一律でヒヤヒヤした。今では数十億単位の開発のプロジェクトのマネジメントを行い、多大な貢献をし、他の部署や同期からも一目置かれる存在となった。
しかし、学生時代に稼いでしまった200万という収入には程遠い。しかもサラリーマンなので給与額に課税されてしまい、意外と手取りは多くない。学生時代は法人に対して収入が200万あり、一人社長で色々なものを経費参入していた為、使えるお金が今よりも圧倒的に多かった。やはり、自由もあり、ストレスもなく、お金を持っていた学生時代が一番のユートピアだ。大きい仕事をやっているが、私は実際やりがいよりも、自由なお金持ちになりたいだけだったのかもしれない。そういう虚無感と常に戦う日々であった。
「ところで社長。本日の予定ですが、、、」
私はなぜか社長にとても気に入られ、海外事業部責任者と共に社長直々の秘書のようなこともするようになっていた。社長の予定を確認したり、アポイントメントを切ったり、社長の個人的な裏金づくりの橋渡し役まで担うようになった。それだけ信頼を得ているということだ。
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ブーン。
心地よく揺れるベンツのSクラス、運転手は別にいたが、いつも太郎は社長と同席をし、ほとんどの商談で一緒に付いて回るのだった。
「山田くん、例のハーベストライフという会社の買収の件だが、あの会社の専務はどうにも好かん。ただわが社とのシナジーを考えるとどうしても、買収しておきたい。あと聞いたこともないチンピラがあの会社を嗅ぎ回っているという噂を耳にしてね。山田くんはどう思う」
「チンピラとはどういう人種ですか?」
「ヤクザだと思うが、どこの看板にも属さない連中と聞いてね。探偵に色々と嗅ぎ回ってもらっているのだが、まだ素性が読めないのだ。おそらくうちが買収するという噂を聞いて、向こうも買収話に乗ってきて一儲けを企んでいるのだろう。」
そこまでわかっているのであれば、別に他の企業でも良いのに。と太郎は考えながら、社長が私に質問を投げかけてくるときは、女のあれと同じでうなずいて欲しいだけだと知っているので、白々しく
「社長、ハーベストライフは当社のデベロッパー事業を進めやすくなり、さらに自社での住宅ローンや不動産融資をする時に手数料も取れるので、一石二鳥の利がある買収になると思います。その為、チンピラがいようと、この買収は絶対に成功させなければいけません。」
ハーベストライフは簡単にいうとノンバンク、金融機関である。特にこの会社の特徴として不動産に対する融資を主力商品としている会社である。解説しておくと、不動産会社が金融機関を持っていると、住宅ローンを借りる人の融資審査の面で融通が効く為、本業の業務にシナジーがあるのである。神奈川社長は前々から金融機関を欲しがっていた。そこで、私が和瀬田時代の同級生で外資系ファンドで勤めている翔太に探してもらった案件なのだ。もちろん彼に対するお礼という名の接待は多少かかったが。
「うん。そうだな。山田くんがいうなら間違い無いな。君はもう僕の跡取りにしたいくらいだよ。」
「ありがたいお言葉胸に刻ませていただきます。」
それにしても、チンピラというのが気になる。
どうせ、うちが買収することを嗅ぎつけて、ハーベストライフの専務をたらしこんで、買収額を釣り上げる囮をやろうとしているのだろう。そうやって、適正価格より高いM&Aを行うかませ犬であろう。
そんなことは容易に想像できた。ただ、反論すると神奈川社長が不機嫌になるので、それは面倒だから、何も言わなかった。
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「星野専務、見事に神奈川グループが乗ってきましたぜ。これで専務の思い通りに株価の釣り上げを行えそうでんな。」
不敵な笑みを浮かべたチンピラ、駒田は嬉しそうに星野専務に語りかけた。
「駒田くん、君はあくまで表に出てはいけないんだよ。君たちのところで持っているファンドが偶然、神奈川が名乗りをあげたときに、同様に買収を仕掛けるという算段だ。向こうが引こうが買おうが知ったこっちゃ無い。わしは売れれば、自分の株が高値で儲かるし、もし君たちが買ったら、わしがこの会社の社長になりやりたい放題だからな。ハハハ。」
「星野専務も悪よのう〜。」
駒田は明らかに冷やかしたようにこう言ったのだった。
「星野専務、もし向こうが買ったら、高値で儲かるっていう以外にもええ話がありますねん。今極秘理にわしらの息のかかったハーベストの偽装社員に少しづつ持株会で株を渡してますんで。
これをもし、神奈川が買えば、すぐにでも、その株をわしらが買い占める。そうすれば、わしらのような反社会勢力が上場企業の株を持ったことになる。それを週刊誌にでも金を渡し、記事をいいように書かせて、リークして、株価暴落に備えて空売りすれば、儲かるっていう算段ですわ。まああいつらはハーベスト買いますわ。」
駒田は実は有名暴力団の山王組幹部で、闇ファンドに出資している反社会勢力だったのだ。
神奈川社長が掴んだ、チンピラという情報は駒田のことではなく、闇ファンドに出入りしているチンピラのことで、この山王組、駒田が絡んでいるとは思いもしなかったのである。もちろん、太郎もこのことには一切気づいていないのであった。
恐ろしい話が迫っているにも関わらず。。。。。。。
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「マスターもう一杯!」
太郎は仕事のストレスを発散するために、バーに来ていた。恋人の花子と。
「もー飲み過ぎよ。そんなに飲んだら体に悪いから。もうやめてよね。」
「いいんだよ。花子。これ以外に楽しみはねえんだ。ほっといてくれ、ゲフ。」
「ひどい、これ以外に楽しみはねえって、私がいるでしょう。何を言っているの」
「それはすまんかった。だけど、実際仕事のストレスが半端ないんだよ。あの神奈川って社長のお守りばっかで、封建社会の武士かって感じだよ。」
「何言ってんの、他の同世代でこんな仕事できてる人なんていないよ。しかも海外事業の責任者やってるじゃない。」
「海外事業の責任者なんて、結局ただの報告者だよ。海外の業者に丸投げして、ただ進捗追わせてるだけだって。英語ができりゃ誰でもできる。それよりも、反論できないあの独裁的な雰囲気が嫌だわ。」
「まあ、一代であの大企業を作ってまだ第一線で働いてるから仕方ないじゃない。」
「まあな。」
「第一、あなたそんな文句ばっかり言ってたら、今度の大きな山もうまくいかないわよ。ハーベストとの買収話。」
「ん?なんでハーベストのこと知ってんだ?、買収するっていう話はしたけど、会社名は言ってないと思うんだが、、、?」
「・・・もうあなた酔っ払いすぎよ。前言ってたわよ、会社名も。。。」
太郎は酔っ払っていただけなのであろうか。ただ5年以上も付き合い、結婚も考えている花子を疑う余地はなかった。昔から記憶力はよかった。
まあ、酔っ払った勢いで言っただけだろう。やべえな、企業機密普通に喋ってたみたいだよ。
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太郎が好きになった花子はとても優しく、美人であった。
すごく知的で同じ和瀬田であり、年下ではあったが、とても話があった。自分が起業してうまくいった時も一緒にいた。自分があまりうまくいっていない時も一緒にいた。それを支えてくれていた恋人であった。
花子は卒業後、野豚証券で働いていた。英語も堪能で頭脳明晰、就職の時のウェブテストの成績は野豚で一番だったそうだ。
「花子ー!今日夜暇?私の友達が花子さんの話をしたらとても会いたがっていたわ。」
「えー本当?それ男??」
「男だけど結構なおじさんだよ!」
花子の同僚の夏菜子は小さい声でそういった。
「えーなんで私がその人と会うの??だって、私太郎くんがいるのを知ってるでしょう?」
「うん!知ってる。ただ、別に変な意味じゃなくて、花子私と一番いい友達じゃない、しかもキャリアアップしたいっていってたじゃない!?その人、外資系投資ファンドのディレクターよ!」
「えーーーー!なんでそんな人と繋がってるの????」
「実は私のこれなの。」
そういって、夏菜子は小指を突き立てた。
「最近パパ活アプリって流行ってるでしょう?私そこで出会ったの。同じ証券系だし、しかもぶっちゃけ高収入で会ってみると話もあって、今じゃ恋人よ!」
「なるほどね。まあそういうことなら、私もキャリアアップしたいと思ってるし、ちょうどいいかもしれない。」
こうして花子は外資系ファンドのディレクターである夏菜子の男と会うことになった。
さてこの先はどうなるのか!
駒田との絡み
花子とファンドの人間
てかいつになったら超能力発揮するの!?