出会いは恋愛の必需品
ある日のいつも通りの朝。
私は、如月 凛華。
「フフン…フン…フン……フーン…フフフフ…フーン…」
鼻歌を口ずさみながら、朝の支度をしていた。
「ヨシッ…支度OK!」
着替えを済ますと、私はなんとなく時計を見る。
「あ、ヤバイヤバイ…遅刻しちゃう…。」
と、2階にある私の部屋(自慢じゃないけどJKぽっい部屋)を出て、すぐ横にある、階段を駆け下りる。
そこに、
「支度した?大丈夫?凛華。」
と、エプロン姿の私の母が声を掛けてきた。
「支度したよ、お母さん。遅れるから行くねッ!」
靴を履き、いつも通りに学校へ向かう…。
「今日もいい事ありますように…」
私はそう言いながら、ドアノブに手をかける。
「行ってきますッ!!」
そう、いつも通りの朝だった…。
家を出て、住宅街の狭い道に進む、まではいつも通りだった。
「危ないっ!!」
誰かの悲鳴に近い叫び声。反射的に顔を上げると、目の前にトラックが迫っていた。クラクションが鳴っている。
避けきれない。
そう思ったのと、真白い光が視界いっぱいに広がったのは、ほとんど同時だった。
あぁ、死んだんだ、私。
友達もそれなりにいたけど、最も気がかりなのは、シングルマザーの私のお母さん。女手一つで私を育ててくれた、お母さんだ。
どうやら、お母さんも私が事故ったことに、気づいたようで、裸足で駆けつけて、私に向かって泣き叫んでる。
悪いことしたなぁ…私。
私は、後悔した。安全確認くらいしとけばよかった…。と。
そう、思いながら、儚く、短い、私の人生は終えた。
と、思ったんだが…気がつくと、知らない場所にいた。
どうやら、寝ていたようで、誰かが毛布をかけてくれたようだ。
私は、急に起き上がった。
「え?どこよ…ココ。森?」
横には、焚き火があるから、誰かが助けてくれたようだけど…。
ああ、ダメだ、考えても、分からないッ!と思ってると。
「お?気がついた?」
と、かなり離れた距離から謎の男性が話しかけてきた。
見た目は、かなりカッコイイと、思うんだけど、なんか、暗い。
黒尽くしのファションに、黒の髪型。
いや、それよりも。
「助けてくれたんですか?ありがとう。」
とりあえず、感謝の気持ちを伝えた。
すると、
「ああ。礼は良いよ。当たり前のことをしただけさ。」
「いえ、そういう訳には…。
「あ、名乗ってませんでしたね。私、如月凛華と言います。」
「………。俺の名は、ラードだ…。
「それにしても、見ない格好だな?どこから来たんだ?」
と、流暢に話してくれた。どうやら、性格が暗いという訳ではなさそうだ。
「いえ、それが……。」
私は、これまでのことを話した。
死んだと思ったら、ここにいた、ということを…。
ラードは、少し悩んだ後。
「にわかには、信じられないが…。要は異世界に転生したということか?」
「やはり、ここは、私の知る世界とは違う世界ですか?」
「ああ。違う世界だろう。トラックとかクラクションとか。初めて聞いたからね。」
「元の世界に戻れますかね?」
「分からないな。現時点では。
「とにかく、このことは、他のやつに言うなよ?」
「なんでですか?」
「なんでって。そりゃ、面倒なことになりそうだからね。」
「分かりました。
「てかッ!さっきから思ってたですけどッ!ガマンできないので言いますねッ!!」
「なんだ?急に?」
「なんで?こんなにも離れて話すんですか!?
「話しづらいでしょうがッ!!」
そう、この男、あれから、ずっと。
私と距離をとっていた。
心理的ではなく、物理的に。
私は、イラついたので、ラードに近づこうとした。
そのとき、
「近寄るなッ!死ぬぞッ!!」
と、ラードが叫んだ。
え?死ぬ?聞き間違いだよね?
「今、なんて?」
と、恐る恐る、私は聞き返した。
「死ぬって、言ったんだ…。
「俺は無意識に死の魔法を周りにかけてしまう。見てみろ、俺の周りの草が枯れているだろ?」
確かに、ラードの周りの雑草は枯れていた。
「あなた、何者なの?」
と、少し怖かったが、勇気を持って問いかけてみた。
「俺か?呪われた黒き魔導師のラード・ゼフィルスだ。」
「呪われた?」
「ああ。とある魔女に呪われてな、勝手に死の魔法が作動する、呪いをかけられたんだ…。この魔法は、半径50センチ以内の周りの生物を殺す魔法だ…。」
「え?じゃあ、どうやって?私を助けたの?
「それじゃあ、近づくことも出来ないじゃん?」
「言ったろ?俺は魔導師だって。物を浮くとか、そういう魔法も使える。」
「それじゃあ、どうやって?生きてきたの。1人で?」
「ああ、1人で…。今まで、野宿してきたさ。
「もう、良いだろう?この話は…。」
と、ラードが痺れを切らしたような口調で言った。
それにしても、なんなの、その呪い。
私だったら、そんな呪いをつけられたら、死にたくなるよ。
だって、好きな人にも触れることが出来ないってことじゃん。
嫌だよ、そんなの…。悲しすぎるよ…。
「なぁ…、如月…。」
「………。うん…?凛華で良いよ?」
「じぁ、凛華さ。
「お前、魔法とかスキルとか使えないのか?」
「え?」
考えたことも無かった…。
確かに、ラノベでは、こういうとき、チート系のスキルが使えるんだっけ?
「分からないよ。使えるかは…。」
「確認出来ないのか?自分のことだったら、どれが使えるか。確認出来ると思うだが…。」
確認?どうやってするのかな?
心で思えばよいの?
私は、
『私が使えるスキルや魔法はなに?』
と、心の中で私は念じた。
すると、
ステータス?見たいな物が目の前に現れた。
どうやら、自分自身にしか見えないらしい。
『如月凛華』
<スキル>
魔法無効化
<魔法>
無し
「あれ?ねぇ、ラード。レベルとか攻撃力とかそういうモノないの?」
「あ?ゲームじゃ無いんだし、ある訳ないだろ。
「それより、なんか使えそうか?」
「魔法は使えないみたい。」
「そうだろうな。ま、魔法は直に覚えるさ。」
「スキルは、魔法無効化の1つだけだよ。」
「んんん?魔法無効化?なんじゃそりゃ。聞いたことないスキルだな。」
「効果を確認するね。えっと、常に半径1メートル以内のみダメージ系統以外の魔法を無効化する?」
「えっとな…。この世界の魔法は、ダメージ系統の魔法しかないんだ。あるとしたら、強化効果や麻痺効果、催眠効果のある魔法くらいだが…。強化効果を無効化するって…完全にデメリットだしな…。しかも、麻痺効果や催眠効果の魔法は元々成功する確率は低いから、メリットがあまり無い…。
「ま、要するに使えないな…。」
と、ラードは私のスキルを酷評した。
私だって、好きでこのスキルを覚えたわけじゃないのに…。
でも、魔法を無効化か…。
あれ?これって…。もしかして…。
私は、あることに気づいた。
その事について質問することにした。
「ねぇ、あなたの死の魔法って、これで無効化できないかな?」
「…………………。分からない…。」
ラードは、驚いていた…。
まさか。そのような活用法があることに気づいてなかったんだろう。
「死の魔法って、ダメージ系統なの?」
「即死だから、違うと思うが…。」
「試して見ようよッ!!」
「ダメだッ!万が一の可能性が…。」
ラードは、焦っていた…。
死の魔法を無効化できるとは、確信できなかったから…。
自分の手で、人を殺すのは、嫌だったから…。
トラウマがラードの焦りを募る…。
私をそう感じた…。
だから、なるべく、笑顔で…。
「大丈夫だって。」
と、言うと…。
私は、ラードに向かって走り、体にタッチしてみた。
「あぁッ!バカッ!!」
と、ラードは怒ったが、私の体には何も起こらなかった。
「大丈夫みたいだよ?」
「嘘だろ?」
ラードは驚いてた。目ん玉飛び出るくらいは、嘘だけど、それくらいに…。
「一緒に歩いてみよう?」
と、ラードと手を繋いで、少し歩いた。
「草が枯れないだと…?ありえない…。」
「やった、やっぱり、大丈夫じゃん?」
「ハハハ…。普通に生きるのは、俺…。無理だと諦めていた。」
と、悲しげな表情で言った。
「まさか、さっき、酷評したスキルに助けられるとはね…。」
「そうだね、このスキルは、あなたのためのスキルだったんだよ。きっと。
「私たちは、出会って当然の運命だったのかも?それとも、神の気まぐれかな?」
「恥ずかしいことを言うな。凛華…。でも、ありがとう。」
その表情は先程の悲しげな表情とは違い、明るい表情だった。
まるで、未来を取り戻したような、そんな感じがした。
「ねぇ、私と旅をしない?」
「え?」
私も驚いた。自分でもこんなこと言うとは思ってなかったからだ。
でも、後悔していない。
私は、この人と居たいと思ったからだ。
恋愛感情ではないと思うが…。
一緒に居たいという、この気持ちは本当だ。
「私、この世界ことよく知らないし。あなたにとっても、その方がメリットになるでしょ?」
「フッ。お人好しだな…。お前は…。」
「それは、お互い様でしょ?
「そんな呪いあるのに、私を助けるなんて…。」
「ありがとう。一緒に旅をするよ。」
こうして、私は黒き魔導師と旅をすることになった。