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キルの矛盾と整合は、生か死か  作者: きゆたく
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奴隷屋とエルフの関係


 キルは道を歩いていた。そこで、たまたま一台の馬車と遭遇する。その馬車は車輪が轍にはまったのか、動けないでいた。



「すいません、そこの旦那!もし良かったら一緒に馬車を持ち上げてくれませんか?」


「僕?良いよ」


「あっありがとうございます!」



 そこには、その男と馬番、そして二人の男女のエルフがいた。男と馬番は身なりが整っているが、エルフはボロボロだ。それに、首輪や重りを付けられている。だが、キルは何も気にせず、飄々と馬車を持ち上げる。



「えっ?」


「嘘だろ…」


「凄い…」


「本当に…?」



 四人は驚く。おそらく四人と協力して、五人で持ち上げるつもりだったのだろう。だがキルはあっさりと、一人で持ち上げたのだ。



「はい。じゃこれで…」


「ちょ、ちょっと待って下さい!せめて、お礼だけでも…」



 すぐ立ち去ろうとするキルに対して、男は呼び止めた。流石にお礼はしたいだろう。それに何かの縁でもと、思ったのかも知れない。



「じゃあ、何か飲み物でも…」


「わかりました!」



※※※



 キルは馬車に乗り込み、酒を飲みながら次の街まで移動する事になった。男がお礼と言うので、付き合う事にしたのだ。馬車には、馬番を除く四人が乗っている。奴隷業を営むレイリー、奴隷エルフのカターニャとガロン、そしてキルだ。



「ふーん。奴隷屋ね、儲かるの?」


「多少は。でも奴隷より働かなきゃいけない時もあって、以外と大変ですよ」


「なるほどね。エルフは高いの?」


「そうですね。エルフは美しい者も多いので」



 キルは後ろに乗っている、エルフ達を見ながら話す。



「君達は何で奴隷になったの?」


「「……」」



 二人は答えない。こちらを少し睨み、黙ったままだ。



「あいつらは姉弟で、二人して冒険者をしていたんですけど、仕事で失敗して借金を背負ったんです」


「あれは…貴様の仕組んだ…」


「姉ちゃん!」


「へぇ、騙されたんだ。残念だったね。まぁ、頑張って」



 二人はレイリーに騙されたのだろう。そして奴隷となった。でもキルは、そこまで興味が無い。なので三人はその反応に戸惑う。



「なんだ貴様のその反応は!」


「姉ちゃん!止めなよ!」


「お前ら静かにしろ!」



 三人は少し騒がしくなる。そしてキルは、溜め息を付きながら話し出す。



「プライドだけは高そうな、実力の低い馬鹿が奴隷になって、僕はどんな反応をしたら良いの?」


「何だと!」


「姉ちゃん…」


「だっ旦那…」


「奴隷屋の君は、少し黙ってて…」


「はい…」



 そして改めてキルは語りだす。



「君達は無能だから騙された。プライドが無駄に高いから力を過信した。そうだろ?」


「そんな事は!」


「弟くんは気付いてるんだろ?」


「えっ…」


「どうせ、お姉さんが実力を過信して、仕事を取ってきたんだろ。きっといつもそうだったはずだ。ねぇ弟くん、わかってるよね」


「ガロン、本当か…」


「いっいや…」



 ガロンは少しおどおどする。その通りなんだろう。



「まぁ、それに気付きながらも、お姉さんに何も言わなかったのだから、弟くんも駄目だけどね。そして、何にも理解してないお姉さんは、遥かに無能だ」


「そんな訳…」


「きっと奴隷屋の彼は、いつもお姉さんの仕事振りを見て、騙せると思ったんだね。良く観察して、どういう仕事が良いか、お金はどれぐらいチラつかせば良いか、とかね。馬鹿そうだから、簡単だったんじゃない?もしかしたら、エルフ全体が馬鹿なのかもね」



 レイリーは黙っているが、少し頷いている。きっとその通りなのだろう。ガロンも口を挟めないでいる。



「我々は誇り高いエルフだ!馬鹿にするな!」


「馬鹿にはしてないよ。馬鹿だって言ってるの。事実だから」


「何をっ!」


「お姉さんの言う、誇りの高さと、実力の高さが見合って無いよ。だから奴隷みたいな、間抜けな事になる」


「ぐっ…」



 カターニャは、言い返せなくなっていく。



「結果、弟くんが一番迷惑してるしね。どうせお姉さんが、里から連れ出したんでしょ。断れない性格を良い事にさ。一人じゃ少し不安だったのかな?弟くんも、世話焼きな性格が仇となったね」


「「……」」


「昔からエルフは、プライドだけは高い人が多いからなぁ。今みたいな時代には、都合の良いカモだね。馬鹿は罪だよ。奴隷はお似合いさ」



 もうカターニャのプライドは、ズタズタにされている。ガロンも自分を情けなく思っている様だ。



「因みに、もし最初に助けて下さいと、お願いしてきたら、助けたかもしれないよ。まぁ無いだろうけど」


「「「えっ」」」



 その言葉に三人は驚く。



「素直に自分の無力を訴え、真摯に丁寧に懇願してきたら僕は助けたよ。まぁそれが出来る人なら、そもそも奴隷になってないと思うけどね」


「そっそんな…」


「君達はさ、僕が馬車を持ち上げた時に、少し目配せをして助けてくれないかな、みたいな雰囲気を出した。あれは駄目だよ。人に頼るなんてね。プライドは高い癖に、然り気無く頼ろうとするその精神は、かなりいやらしいよ」


「そっそんな…」


「その点、奴隷屋の彼は良いよ。奴隷屋は決して良い商売とは言えないかもしれない。でも彼は悪い事を、悪いと知りながらやっている。君達と違ってね。君達は悪い事を、良い事と勘違いしてやっているんだよ。馬鹿だから、いつも勘違いしている。きっと気付けないんだろうね」



 何故、奴隷業を営むレイリーが褒められる。レイリーも含め三人共、呆然とする。



「身の丈にあった仕事をしているよ。目的もはっきりしている。お金を稼ぐという事に必死だ。だからとことん考え、騙す人もしっかり選び、入念に作戦を立て、そして実行する。素晴らしいじゃないか。君達は何も考えず、人もお金だけで判断し、行き当たりばったりで、そして何も出来ない。どちらが優秀?」


「「「……」」」


「彼は奴隷業に、真摯に取り組んでいる。成功する為にね。下手なプライドも無く、自分の実力をしっかり理解した上で、過信せずに行動している。だから君達は負けたのさ。この世界の生存競争にね」


「わっ私は…」


「ただの間抜けで、馬鹿で、実力不足で、気も使えず、無駄に弟を巻き込み、誇りと埃を間違えてそうな、何も出来ない奴隷エルフだよ」



 そしてエルフ達は泣き崩れる。レイリーも騙した側なのに、何故か少し同情してしまう。



「あっ、この辺で良いよ。僕は少し森に入るから」


「そっ、そうですか…」



※※※



「悪いね。お酒貰っちゃって」


「いいえ、面白い話も聞けましたから」


「そう?当たり前の事を、言っただけだけど。まぁ良いか。それじゃあね」



 そしてキルは去っていく。それを見ながら、レイリーは安堵する。キルの事は、結局何もわからなかった。でも、彼は理解していた。絶対に敵にしてはいけない相手だと。自分は責められ無かったが、かなりの恐怖心も抱いていた。



「出来れば、もう会いたくは無いな…」



 そして後悔もしていた。何故なら一人のエルフが、もう売り物にならなそうだからだ。そうカターニャだ。彼女はあの僅かな時間で、綺麗だったエメラルドグリーンの髪は真っ白になり、顔付きも老けて目の焦点もおかしくなっていた。それを見ていたガロンにも不安が残る。お礼で馬車に乗せなければ…。あの場で助けを求めなければ…。そもそもあの二人を奴隷にしなければ…。こんな商売をしてなければ…。答えは永遠に出ない。



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