勇者リュウキの戦い
「ここか…リリル、ナーミ、シェリー、行くぞ!」
「うん!」
「はい!」
「……わかった」
彼は、勇者リュウキ。この世界に召喚された、日本人だ。そしてそれに付き従う、三人の女性。聖女シェリー、獣人ナーミ、魔女リリル。彼らが、これから何をするのか…。ここは人里離れた山の城の中…。通路を抜けて見付けた、大きな扉を開けて彼らは入っていく。
「お前が、キルか?」
「…そう呼ばれてるみたいだけど、あなたは?」
「俺はリュウキ。この世界に召喚された勇者だ。この世界の礼儀も知らないから、口は悪いけどそれは許してくれ」
「ふうん。それで?」
「お前が、多くの人を殺しているのは知っている。魔王もお前だけは、避けてたみたいだしな。だから、俺が退治させて貰うよ。悪いな」
「僕を?そうなんだ」
彼は『キル』と呼ばれている。本名は誰も知らない。いつの間にかそう呼ばれていた。彼も全く気にしていない様で、そのままにしている。キルは黒髪短髪で、執事の様な格好をしている。そして今は玉座の様な場所に座り、本を読みながら受け答えをしている。
「リュウキがいっている事が、わかんねぇのか?てかちゃんと聞けよ!」
「ナーミ、止めろ!」
「僕は、殺されなきゃいけない様な事を、したつもりも無いけどな…今は本を呼んでるだけだし…」
「てめえっ!」
そう言って、獣人のナーミはキルに飛び掛かる。彼を倒し、殺す為に。でも…。
「えっ…なっ…ぐっ……ギャアァァァ!」
「なっナーミ!」
ナーミの手足は、いつの間にか無くなった。そして血が吹き出して、痛みに悶絶を打っている。キルが何かをした様には見えない…。
「シェリー!エクストラヒールを!」
「今すぐやります!エクストラ…」
「その必要は無い」
キルがそう言うと、血は止まり傷が閉じる。ただし、手足は無いが。
「エクストラヒール!」
「手足が戻らない…もう一度!」
「エクストラヒール!」
「なっ何で…」
「…?何でって、そういう風にしたからだけど」
「エクストラヒールが効かないなんて…」
「だからそういう風にしたの」
彼等にキルが「そういう風にした」の意味はわからない。ただ、そうしただけなんだ。彼にとっては。
「もっ戻せ!」
「何を言ってるの…そっちがいきなり、飛び掛かってきたんだよ」
「くっくそっ!」
「大事なの?」
「当たり前だ!愛する女の一人だ!」
「そうなんだ…こんなに露出の多い装備をしている、破廉恥な女が趣味なの?」
「何を言ってる!?」
リュウキは、彼との会話の中で何とか模索する。ナーミを治す方法、理解出来ない彼を倒す方法、来た時の油断はもう無い。だが、彼の話で良くわからなくなる。
「だって腕や腿、胸もそんなに隠れてないし…ちゃんと装備してればもしかしたら、さっきのやつは防げたかもね。これだから露出狂は嫌だよ」
「あっアタシはっ!そんな!」
「ナーミ!無理するな!今俺が倒してやるから!」
「そっちの回復魔法の女の子は?」
「わっ私は聖女シェリーです!勇者の妻になる者です!」
「あれ?そっちの獣人と、付き合ってるんじゃ無いの?」
「違う!リリルも合わせて、三人共愛している!」
「へぇ、一番好きなのは?」
キルはただ聞いていく。興味があるから。その状況に勇者一行は戸惑う。どうして良いかわからないが、会話の中で模索しナーミを治す可能性を探る。
「そんなの皆同じく愛しているさ」
「手足が無いその子も?」
「えっああ勿論だ。治して見せるしな」
一瞬の戸惑いに女性は気付く。ナーミは少し悲しい顔をする。
「そっちの聖女も君の事好きなの?そうは見えないけど」
「何を!私はリュウキを愛してます!」
「なら、何でそんな胸がパッツンパッツンした服を着てるの?胸の大きさを、自慢したいんでしょ?多くの人に、見られたいんでしょ?獣人の子もそうだけど、変態じゃん」
「ちっ違います!」
「嘘付かないでよ…天然ぶって、わざと小さい服も着るんでしょ?見られたいが為にさ。気持ち悪いなぁ」
「わっ私はそんなんじゃ…」
皆は、何を言われてるのか理解出来ない。そして思い当たる部分もあって恥ずかしい。何でこんな話をするのか…。
「もう一人の子は普通なのかな?」
「…私は普通…」
リリルはあまり喋らない。いつも無表情で、無口に過ごす事が多い。
「何だ、無口キャラか。それがカワイイと思って、やってるのか。そうすれば、男の気を引けると思ったんだ」
「そっそういう訳では…」
「ほら、喋れるじゃん。無表情も崩せるじゃん。キャラを男の為に守るのも大変だね。他の子に負けない為に、クール系でいこうと決めたんだね。でも他の二人よりは、好感が持てるよ。変態では無さそうだからね」
女性陣は、どうして良いかわからない。もう動けない。訳のわからない恐怖に…。
「さっきからお前は、何を言ってるんだ!」
「誰を君は残したい?」
「だから何を!」
「君達は僕を殺しに来たんだろ?なら殺される覚悟もあるよね。順番にしてあげるよ。誰がいらないの?」
「そんなのある訳…!」
「ギャッ!」
その瞬間にシェリーの胸が無くなる。
「これで自慢の胸も無いからね。誰かの気を引く必要も無くなったね。それに安心して、獣人の子と同じ様に治してるから」
「何をしているんだ…」
「だから誰を殺して欲しくないの?さっきから聞いてるじゃないか」
「ぜっ全員に決まってるだろっ!くっくそっ!くらえジャッジメント!」
いきなりのリュウキによる、全力の魔法攻撃が炸裂する。だけど…。
「あれが効かないなんて…」
「当たり前だよ。そうしてるからね。で、話の続きだけどさ、何で自分ばかり死なないつもりなの?バカじゃん」
「私がっサンダーボルト!って…出来ない?」
「無口キャラさん…もう魔法は使えないよ?ていうか、結構喋るキャラなの?」
「何で…」
「何でって…そうしたからだよ。もう、大人しくしてれば良いのに」
「こんな事…あり得ない…」
勇者一行は、どうして良いかわからない。魔王も倒した、この世界の最強のパーティの自分達が、何もさせて貰えない。そして何をされているかもわからない、この状況に震える事ももう出来ない。
「答えが出ないなら、取り合えず無口キャラの子を…」
「やっやめて!」
「キャラを守りなよ、嘘付きは良くないよ」
「ギャッ…ゴボッ…」
リリルの下顎から下が無くなる。彼女は本当に喋れなくなる。
「コフーッ…コフーッ…」
「これでキャラを守ってね。さあ次はどうするの?誰を守りたいの?」
「だから全員って言ってるじゃないか!」
「ふぅ~っ…そんな訳無いでしょ。必ず物事には順位が出来るんだよ。本当はわかってるんでしょ?誰が一番大事なのか…その子だけは回復してあげるよ?その子と二人で、ここから帰れば良いさ」
その発言にリュウキは戸惑う。一人を救い、二人を見捨てる…。それとも、何とか全員で脱出する方法を探す…。答えは出ない…。
「君はさぁ…召喚する前は、大した事の無い平凡な男だったじゃない。それがチート能力で強くなって、何か勘違いしてるんじゃないの?君は凡人だよ。元の世界じゃ不良とかにペコペコ頭を下げてさ、学校でも特に目立つ訳じゃないのに」
「それはっ!」
「それでいい気になって、恥ずかしいなぁ。いきがって敬語も使わなくなったんでしょ?身の程をわきまえなよ。この世界に来てから、急に女に優しいキャラになったり、気怠い雰囲気出してみたりさ、恥ずかしく無いの?」
「うっうるさい!」
「そんな話はともかく、どうするの?三人共、生かしておく?それなら何にも治さないけど」
「どうしたら…」
「君は、あの子達の手足が無いと愛せない?胸が無いとダメ?顎が無いと気持ち悪い?」
「そっそういう訳じゃ…」
そういう要素もありそうだ。勿論、今後の生活を背負う訳だし、リュウキは大変だろう。
「さっきから言ってるのに、一人なら完璧な状態で帰してあげるのに…」
「選べる訳無いだろ!」
「嘘を付くなよ…君は世間を気にして、その変態聖女だけでもと考えているじゃん。他の子よりも、スタイルも良いんだろう?」
「うっ嘘だろリュウキッ!アタシはっ!?」
「フゴッ!フガー!」
「そっそんなの嘘だっ!ナーミ、リリル信じるな!」
「私は、どっどうしたら…」
明らかに動揺が見える。さてこれからキルはどうするか。それは誰にもわからない。