表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/61

2−2






「木村 朝美です! 映画は大好きなんですけど、演技のほうは全く経験がないので、ご指導のほどお願いします!」


「手取り足取り教えるからねっ!」


ニヤついた顔で飯塚(いいつか) 克己(かつき)は朝美に言った。


「「お前は教えなくていい」」


そして、俺と亮平の声がハモる。


ここは特別教室。あの何百人と居た中で選ばれし一年生が自己紹介をしているところだ。


8つの細長い机を四角形になるように合わせ、一年生、二年生、三年生と固まるように座った。


トップバターは俺の隣に座っている朝美。


…というわけで、なぜか朝美は選ばれた。俺がとてつもなく点数を低くしたというのに…。まさか亮平、最初から俺の点数を含めていなかったのか!?


百田(ももた) (いちご)です…。えっと、その…あの! よ、よ、よろしくおぎゃいちまつ!!」


朝美の隣に座っていた女の子が、その場に立ってみんなに頭を下げる。最初に見たイメージではクールぽかったのに。あの時は演技中だったからだろうか?


それにしても、この子を幸助が獲物を狙うかのように見ている。


…幸助の餌食となるか、どうなるか見ものだ。


「次は俺っすね。篠井(ささい) (しゅん)です。まぁ、演技は得意としているんで、よろしくおねがいします」


演技が上手いのは知っている。選考会のとき、一段と目立っていたのがこの子だった。


俺も確か一番高い評価をしたはずだ。


…まぁ、性格はどうこう無しにしてだが。


今年の一年生はこの三名が選ばれた。去年よりも応募者数が多かったというのに、たったの三人とは亮平も厳しい。


でも、その中で朝美を選んだのは間違いだろう!?


「じゃあ、二年生も自己紹介しよっか」


亮平は俺には絶対に見せないような笑顔を、二年生達に向けた。


「じゃあ、俺からいっきまぁす!!」


勢いよく立ち上がったのは、もちろん克己。それにしても、そのテンション気をつけろ。


ほら、一年生のみんなお前を人間じゃないように見ているぞ。


「飯塚 克己と申します! 現在彼女はいません! 好きな子のタイプは」


「「「言わなくていい」」」


俺と亮平と悠太の声がハモった。


「酷いっすよ、せんぱぁい」


涙目になりながら、俺達に訴えてくるがとりあえず一通り無視だ。


「僕は天春(あまかす) 高良(こうら)です。去年は主人公の友人役と、大事な役を任されました。一年生の皆さん、よろしくおねがいします」


高良はイケメンの部類でも、かなり上位のほうだと思う。学校的に言うと、亮平の次に、この学校の顔になれる存在なのではないだろうか?


ちなみに、去年の主人公はもちろん亮平。一昨年のような痛い目に会うのは嫌な俺と明日香は、まっさきに部長である由美先輩のところへ行った。


そのせいか、なぜか由美先輩がメインヒロインに。この美男美女のおかげで、去年の映画はすごい人数が訪れたという。


「私は佐原 神子です」


「そんでもって、明日香のおもちゃね」


俺がニシシと笑いながらそういうと、神子はプクっと頬を膨らませた。


「風紀センパイ! 変なことを吹き込まないでください!」


明日香が俺の隣で笑うと、ますます神子の顔が赤くなった。


そういうところが面白いんだけどね。


「私、小倉 海」


その場に立ちもせず、海は一年生のほうをチラッとだけ見た。


こんな海だけど、演技となると人が変わる。


去年のこいつは、気の強い役だったから無理だと全員が思っていたというのに、なんとビックリするほど、役に入り込んでいた。


それからは、三年生の自己紹介に移る。


一人、一人順調に…とは言い難いが、なんとか終わることが出来た。


帰り、俺達三年生が提案して、歓迎会を開くことになった。俺はそんな面倒なことが嫌いなので、先に帰ると言ってその場を後にした。


その途中、カラスの鳴く声が聞こえる。


嫌な予感が、俺の脳裏を過ぎった。


一緒に行っておけばよかっと思ったのは、俺がベッドから目覚めたその日の19時半ごろ。


携帯の着信音が鳴る。


「もしもし?」


『あ、風紀!? ご飯食べた? 食べてないよね? うん、食べてないんだ! じゃあ、今から迎えに来てぇ』


楽しそうな明日香の声が、電話越しに聞こえてくる。こいつ、なんでこんなハイテンションなんだ? お酒でも飲んでんじゃねぇだろうな?


「場所はどこだよ?」


仕方なく、迎えに行くことに決めた俺は明日香に問う。


『えっとねぇ、場所はデザニィだよ! 早く、早くぅ』


プープープー


って、切るの早っ!!


俺は迎えに行くために、準備を済ませると一息ついてから家を出た。




デザニィに着くと、明日香たちが楽しそうにまだご飯を食べているのが目に入った。


そして、いらないものも目に入る。


一年生の俊が、明日香の肩に手を回していたのだ。


プチッ。


何かが切れる音がした。


「おい」


俺は出来るだけの笑みで、明日香たちに俺が怒っていることを悟られないようにする。


「あ、風紀ぃやっと来たぁ!」


明日香はいつもの笑顔で、俺を迎えてくれた。しかし、俊はまだ明日香の肩に手を伸ばしたまま。


プチプチプチッ。


亮平は俺が怒っていることに気付いたのか、少し顔をゆがめる。


「あ、俊君だっけ?」


「そうだよ、何?」


面倒くさそうに俺にそういう俊を見て、俺は耐え切れなくなった。


「こら、俊君。ちゃんと目上の人には敬語を使いなさい」


明日香が俊のほうを見てそういうと、俊はニッコリ笑って「ごめんなさぁい」と謝る気のないような言葉で俺に言って来た。


我慢の限界だ。


「ちょっと来いよ」


いきなり声色が変わった俺を見て、俊もやる気になったようだ。


三年生達(明日香を除く)は俺が怒っていることに、もう気付いているらしい。そして、こいつらは俺の喧嘩の実力も知っている。


「いいっすよ、やりましょうか」


俊はふっと笑うと、店の外に出ていった。


「おい、風紀っ!」


亮平が止めに入る。


「あ?」


このとき、俺は相当切れていた。明日香の肩に手を回していたことを注意しない、こいつ等にも腹が立っていたからだ。


「いや、なんでもない…」


亮平はその後、警察沙汰は勘弁だぞ。とだけ呟いた。


明日香は何がなんだか分からないようで、俺と亮平の顔を交互に見ていた。


「んじゃ、行ってくるわ」


俺は最後にニッコリ笑って、俊の後を追った。














「なんですか? 風紀先輩」


さっきの小悪魔的な笑顔はどこへいったのか。俊の顔には、悪という文字が合うような顔をしていた。


「あまり言いたくないんだけどさぁ、明日香に近づかないでくれるかな?」


俺は精一杯の笑顔で俊に言う。


ここで帰らなきゃ、お前ぶちのめすからなと心の中で呟きながら。


「あれ? もしかして風紀先輩、明日香さんのこと好きなんですかぁ? 無理無理、そのルックスじゃ。諦めたほうがいいですよ」


「お前のその腐った性格じゃ、明日香を落とすなんて一生かかっても無理だと思うがな」


俺は俊がムカつくように言ってやると、案の定俊は俺に殴りかかってきた。


「遅いっつぅの、馬鹿が」


俺はそう言って、一発俊のパンチをよけると、腹に思いっきり右拳を打ち込んだ。


「ぐはっ」


そして足を払う。


その場でうつぶせになる俊のうえに乗りかかる。


「明日香は俺の彼女だから。今度明日香に触ってみろ? 生きて帰れると思うなよ」


耳元でそっと俺が呟くと、俊は降参したのか何度も頷いた。



























本日、Double Life の番外編を2話公開しました。

よろしければ、そちらもご覧ください。

評価、感想お待ちしております。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ