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2−1





「では、今年も入部希望者が多いため、急遽選考方式とさせていただきます」


映画研究部の部室である特別教室…の隣にある視聴覚室で、亮平はマイクを持ちそう言った。


亮平が言ったとおり、今から一年生の選考会を行うらしい。


詳しいことは全くもって聞かされていないが、俺の目の前の机に置かれているプリントを見る限り…


「選考会はポイント方式となっております。ここにいる、俺と明日香副部長、そして香坂風紀の3人で審査をします。名前を呼ばれた人は、直ぐに前へと出てきてください」


言われてしまった。


今、俺の右隣には明日香、左隣には亮平という形になっている。完璧に俺の存在が消されているようだ。


それにしても、ここに集まっている一年生達の目は光っているな。


ん? 新たな道を切り開こうとかいう、輝かしい意味ではない。もっと、汚れた意味で。


なんたって、明日香と亮平が務める部活だからな。


女子は亮平とどうやって仲良くなろうかという目。


男子は赤ずきんちゃんを狙う狼のような目。


まぁ、中にはこの部活に興味を持って入ろうとしている奴もいるのだろうが。


そんなことを考えながら、俺は審査をしていると、見覚えのある人が現れた。


「次の方どうぞ」


亮平がそういうと、その人は大きな声で返事をし、前へと出てくる。


面倒すぎると思っていた俺はボケーとしてたので、彼女が前に出てくるまで全く気付かなかった。


「あ…」


しかし、俺の目は見開かれた。


「…朝美?」


え? みたいな顔を亮平はする。こいつ、気付いていなかったのか?


明日香は全く意味が分からないような顔をして、俺を見てきた。


俺の存在にやっと気付いた朝美は俺の名前を呼んだあと、俺のほうに突進…してくるはずだったのだが、もちろん俺達の前には机があるわけで…。


ドスンッ!!


ものすごい音をたてて、朝美は机に突っ込んだ。


「だ、大丈夫か?」


俺は朝美が心配になり、少し立って様子を伺う。


「う、うん」


大丈夫、大丈夫といいながら、俺にピースをしてきた。


本当に大丈夫そうだな。


「知り合いなの?」


明日香がよやく口を開き、俺に質問を投げかけてくる。


「あぁ、えっと、簡単に言うとだな…」


俺が朝美を説明しようとすると、朝美が自ら自己紹介を始めた。


「木村 朝美です! いつも姉がお世話になってます♪」


ペコっと朝美は頭を下げた。


亮平はもう分かっていたのか、あまり驚く表情は見せなかった。


明日香は少し考えた後、何か思いついたかのようにポンと手を叩いた。


「凛ちゃんの妹さん!?」


やっと気付いたのか。


「全く気付かなかったよぉ」


明日香はエヘへと笑いながら、朝美と会話をしていた。


まぁ、気付かないのも無理は無い。この二人、全く似ていないからな。


それよりも明日香、今、選考会中なんですけど! 気付いてますか!


「明日香」


俺がゆっくり明日香の名前を呼ぶと、この天然さんは「なにぃ?」と極上の可愛い笑顔で言ってきた。まぁ、見慣れてはいるが、やはりいまだに心が落ち着かない。


「えっと、選考会始めよう…」


俺はしどろもどろになりながら、明日香にそういうとコクコクと頷いてきた。

「スリーサイズ…じゃなくて応募した理由は?」


朝美はいつの間にか、元の場所に戻っており、亮平からの質問に答えた。


「はい。私は、映画大好きで、とても演技が好きなもので、映画研究部に入りたいなと思いました」


真直ぐな目の朝美。


そういう目が、凛とは違うんだから。


それから色々質問をして、朝美の番が終わった。


選考会にきた一年生に、俺と亮平と明日香は、それぞれ10段階評価であらわす。


俺は、なんとなく朝美とは一緒の部活にはなりたくないから6にした。


しかし、こっそり隣の明日香と、その向こうの亮平を覗くと、明日香が10で亮平も10。


あの朝美には高すぎる!


「じゃあ、次の人」


亮平がそういい、次の人へ順番がまわった。


それから2時間以上立ったのだろうか。最後の一人も終わり、選考会はやっと終わった。


「つ、疲れた…」


さすがの亮平も疲れたみたい。机に伏せる形になっている。


「それにしても、凛の妹がいるとはな」


そのままの状態で亮平がポツリと言った。


「あいつの家族は…色々あるからな」


と俺は言って、詳しくは説明しなかった。


説明すると話が長くなるし、なにより話すのが面倒なのだ。


亮平ならそこらへんは、調べてあると思ったのだが。


これまたひとつ、亮平の調べ損ねたことだろう。


「風紀ぃ! 早く帰ろうよぉ」


後ろから俺の肩に触ろうとする明日香。


そんな簡単に、俺の身体に触れられるとでも思ったか!


俺はすぐさま椅子から横に跳んだ。


「そんなに、逃げなくてもいいのにぃ」


ウルウルした目を覗かせる。


おいおい泣くなよ。


泣くなって!


「ご、ごめん! 俺のせいだから、泣くなよ」


涙を手でふき取り、言葉を発しないまま縦に首を動かす。


その行動が、ものすごく可愛く思えた。


明日香を今すぐ抱きしめたい。でも、俺は…


「あ…明日香。帰るぞ」


また、縦に首を振る。


俺は自分の鞄を持ち、特別教室を出た。


この体質、本当に最悪。


明日香は涙を拭いながら、俺の後ろをちょこちょこついてきた。


「ふう兄! ふう兄ってばぁ!」


なんか、居るぞ。


「ふう兄がこんなところ居るなんてねぇ」


「ふう兄って、彼女いないんでしょ? でしょ?」


聞こえない、聞こえない。


「まさか、明日香様と付き合ってるの?」


「え? 明日香…様?」


一瞬言葉を失った。


明日香様だって! 明日香様。


「ち、違うよね? 付き合ってないよね?  風紀」


言葉に迷ってる俺を見かねてか、明日香は俺にそう言ってきた。


「う、うん」


「もう、凛お姉ちゃんって、何も教えてくれないんだから」


「そうそう、学校来たら凛の所に行ってろって。久しぶりのご対面なんだろ?」


こいつら姉妹は、何かと複雑な関係らしい。


凛と朝美はお父さんは一緒。


そう、お父さんは。


お母さんは別々だけと言う、血は繋がっている姉妹。


「え〜、久しぶりじゃないよ。今、一緒の家に住んでるんだもん」


ブーと何故か頬を膨らます朝美。


「早く帰れ。その凛お姉ちゃんとやら待ってるぞ」


俺がそういうと、朝美も観念したのかブンブンと大きく腕を振って、俺達のはるか先に行った。


そんな、さよならをしてくる朝美を俺は無視をした。明日香はもちろん、手をブンブン振り返していたけれど。


誰が嬉しくて、あんな行動する奴と関わらなければならないのだ。


恥ずかしいったらありゃしない。


そして、俺達は朝美という悪魔から解放された。


「つ、疲れたね、風紀」


「う、うん」


やっぱり、彼女は映画研究部に入れないべきだろう。


そう思ったのは、俺だけじゃなかったと思う。










…だと、思う。






















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