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9−10





「風紀、起きた?」


目を開けると、文化祭ではよく見ることになった保健室の天井が目に入る。


この光景は何度目なのだろうかと、俺は一瞬考えてしまった。


「あぁ、ごめんな」


文化祭でこれだけ倒れる奴も少ないだろう。どうしてかは知らないが、保健の先生は俺が倒れる理由については何も質問してこない。


多分、亮平が何か上手いことを言ってくれているのだと思う。


それか、本当のことを言ったか。


それにしても、何か違和感を感じる。いつもはそこに居るのに居ないもの。


「明日香だけか?」


俺は尋ねると、明日香はコクンと首を一回縦に振った。


「亮平君たちは、体育館でお客さんの相手しているよ。もう30分切っちゃってるからね」


「そ…っか」


亮平が俺達に気遣ったのかと思ってビックリしてしまったではないか。


「立てる?」


明日香は上から覗き込む形になって、俺の顔色を伺ってくる。


「お、おう…」


この約3年間見慣れた顔が間近にある。


大好きな明日香の顔が。


「明日…香」


俺は名前を呼ぶとニッコリ笑った。すると、明日香もはにかんでくれる。


この愛しさがきっと、俺の幸せなのだろう。


心が喜ぶように跳ね回っているのが分かる。


なぁ、明日香。


お前は、俺のそばに居ても、心から後悔しないか? 俺とずっと一緒に居てくれるって誓えるよな?


俺は…。





「ふ、風紀…大好きだよ」


突然飛び出した明日香のその言葉。


俺はビックリして、さっきよりも心が爆発しそうになって…。


「ふ、風紀?」


「へ?」


目の横を何処からかあふれ出た雫が流れ落ちるのを俺は感じた。


「どうしたの?」


俺のことを心配したのか、明日香も一緒に泣きそうになっていく。


「風紀、嫌だった?」


明日香のその優しい言葉全てが、俺の心にしみこんでくる。


「そ、んなわけない!」


ただ、驚いた。


まさか、涙を流すなんて考えていなかった。


「何かあったの?」


「…好きって言われて嬉しかったから」


涙が出たんだ。


「へへっ! 風紀ってば可愛いんだからぁ」


明日香は顔をちょっとだけ赤くして笑顔になった。俺もその明るさを感じて、自然と笑みがこぼれてくる。


幸せだと、感じられる。


「何度でも…言ってあげるんだから。これからずっとね」


「…あぁ」


その言葉が何よりも嬉しかった。



『これからずっとね』



「…気絶、しないでね」


明日香はベッドの上で寝ている俺に顔を近づけてきた。


「風紀、生きてるかぁ?」


ガラッと勢いよくドアが開くと共に、最悪なタイミングである人物の声が聞こえてきた。


「……」


「……」


「……」


俺も明日香、そして悪魔と呼べるタイミングで入ってきた亮平でさえも言葉を失っている。


「お、お前等…」


やっと口を開いた亮平からは、驚くような声しか聞こえない。いつものクールな亮平は何処へ行ってしまったのやら。


そんな俺も焦っていた。亮平にこんな危険ゾーンなシーンを見られるなんて。


「ま、まだ未遂だ、未遂。学校でそんな行為を俺達がするわけないだろっ!」


「……」


その言葉が悪かったのか、亮平の体は完全に固まったかのように動いていなかった。


俺の隣で座っている明日香は、ただ恥ずかしそうに俺の寝ているベッドのシーツで必死に顔を隠していた。


それから何もしないまま数分が過ぎると、俺は明日香に声をかけた。


「た、体育館に行くか?」


「だ、だね!」


真っ赤になった顔をあげると、明日香はすっと立ち上がって、一人先に保健室から出て行く。


俺は、いまだに固まっている亮平の襟を掴んで、引っ張りながら歩き始めた。










俺達3人が体育館に付くと、用意された席はほぼ満席になっていた。


「こんなに人気なのかよ…」


毎年、映画を見る抽選であふれ出て泣き出す女子高生を見てはいたが、ここまでとは思っていなかった。


「風紀、そろそろ離せ…」


体が動き始めたのか、亮平はゆっくりと歩き始めた。


それにしても、亮平には悪いことをしてしまった。


好きな人が誰かにキスするところなんて見たくないに決まっている。


「…悪かった」


俺は小さく言うと、亮平は一度鼻で笑ってから答えた。


「なんで謝るんだよ」


「だって…」


「もういいんだよ。お前達がラブラブな証拠じゃないか。ほほえましい限りだ。俺はそっちのが嬉しいからな」


ニッコリ笑う亮平は本音を言っているのかどうか分からなかった。


「さて、そろそろ放映するぞ。俺と明日香とお前は前に出て一言挨拶するからな。大丈夫! お前は今回、ただ立っているだけでいい。俺がちょこっと喋るだけだから」


じゃあ、俺はいらないんじゃないかと思ったのは、俺だけじゃないはず。


「さて、明日香の真っ赤な顔を治してやって来い。あれじゃ何かあったと優華さんに感づかれてしまうだろう?」


ニヤニヤしてくる亮平の頭を一発殴ってみた。


「いってぇ!」


「何もしてねぇよ」


俺はそのまま明日香の下へと歩いていき、少しリラックスさせると、すぐ顔は普通の色に戻った。


時間になると、会場の明かりがふと落とされる。すると、俺達の映画が始まった。









そして、俺が決断をするカウントダウンも始まっていた。



















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