表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/61

9−9





夜になると、どんどんと学校からも人がいなくなっていく。


俺達映画研究部の2回目の放映は終わった。


残るは明日の2回のみ。


そして、それが終わり…最後の行事を迎えたときには、もう決めていなくてはならない。


明日香の未来を。


俺の気持ちを。


「風紀、私たちも帰ろうよぉ」


映画を無事放送し終えて暇になったのか、明日香は駄々っ子のような口調で俺に言ってきた。


そんな明日香を愛おしく思うのは、俺が明日香中毒の証拠だ。


もう、俺は離れることは出来ない。


こんなにも愛おしい人から。


「風紀、なんかニヤニヤして気持ち悪いよぉ?」


明日香がケラケラ笑いながらそう言ってくる。


「うっせぇ」


こんな絡みでさえ大好きだ。


落ち着いてくる。明日香と一緒にいるだけなのに。


笑いあっているだけなのに。


もし、俺が明日香を女優の道へと送り込んでしまったら、もうこんな幸せを味わうことはないだろう。


女性恐怖症の俺に、もう恋なんてものが出来るわけがない。


明日香が最後だと…本能が言っている。


「ほら、行くぞ?」


俺の顔を見て、まだ笑っている明日香にそう言った。明日香はいつものように笑顔で答える。


こんな普通で、楽しい毎日。


当たり前のように感じていた。


明日香がいて、亮平がいて、俺がいて。


いつも笑い合っていられると信じていた。


「あ、風紀待ってよ!」


俺は明日香より一歩前を歩く。こんなことを考えた今、きっと俺の顔は泣きそうになっているだろう。


「風紀ってば!」


「はいはい」


心の中で大きく息を吸って、俺は振り返った。


もちろん、満面の笑みで。












文化祭4日目の昼すぎ。映画研究部の俺達は準備に追われていた。


急遽、校長先生が言い始めたことだ。


なんでこんな人が校長になったのかと今でも思う。


いきなり体育館で放送するなんて…。


椅子を準備したりするのは、文化祭実行員の人がしてくれるらしいが、そのほかの映画館系の準備は全て俺達がする。


スクリーンだって下ろすのは大変だ。


体育館の明かりを全て消すために、みっちりと閉めるように黒いカーテンを張る。


音や、映像の乱れがないかチェックをした後、俺達は休憩に入った。








その日の朝、学校に着てみると、俺達映画研究部は部室に集合させられた。


亮平が朝一番に先生に言われたそうだ。体育館で放送をやると。


もちろん、収容人数は今までの何倍もあるため、最終日の映画は1度きりとなった。


夕方の4時スタート。


今の時間は3時だから、あと1時間後には放映される。


こんな場所で、俺の演技が見られると思うと恥ずかしい気持ちになってしまった。


「楽しみだねぇ」


明日香がワクワクしながらそう言ってくる。何をワクワクしているのかはさっぱり分からない。


これが俺と明日香の差というものなのだろうか。


「どんな人が見に来てくれるのだろう?」


お、今度はワクワクからニヤニヤに変わった。きっと有名人でも期待しているのだろう。優華さんだけで十分だと思うんだけどな。


「きっと、すごい人が見に来てくれるわよっ!」


いきなり後ろから聞こえてきた声に、俺は冷静に反応した。彼女の神出鬼没はもう慣れてしまっているみたいだ。


「優華さん、すごい人とは誰なんですか?」


彼女とはもちろん、優華さんだ。来るのは知っていたけど、こんな早くから来るとは思ってもいなかったな。


何せ、俺達が会うのは文化祭終了後だと思っていたのだから。


「えっとねぇ…そりゃ、もう! すごい人よ!」


すごいアバウトだな。突っ込みどころが満載で笑えて来ない。


「そんなにすごい人なんですか!?」


「そうなのよ!」


この二人は似ていると思ったけど、馬鹿さまで似ているとは…。


「姉貴、風紀が二人のこと馬鹿だって言ってるぞ」


「へ!?」


すぐ傍から聞こえてきたのは、この映画の監督を務めてくれた龍先輩の声だ。この人の神出鬼没は度を超えている。慣れてしまった俺でもビックリするほどだ。


って、さっき貴方…おかしなことを口走りませんでした?


「お前の顔に書いてあることを言ったまでだ」


「心の声と会話しないでください!」


龍先輩に怒鳴っている俺の後ろから、悪魔の声が聞こえてきた。


「ねぇ、馬鹿って私たちの事?」


優華さんの小悪魔より凶暴な笑みを見てしまった。後ろでは明日香が軽く目をピクピクしている気がする。


「えっと、その! それは心の声な訳で、決して口に出したわけじゃないです!」


「当たり前だよぉ!」


プンプンとでも言いそうな勢いで俺に声を張り上げてきた。そんな顔をしても、可愛い人は可愛いから得をするよな。


「おい、お前等休憩終了だ。今からは軽く宣伝しに行くから、来たい奴は付いて来い。これは強制じゃないからな」


亮平は片手を挙げると、強制でもないのに、部員達はゾロゾロと集まり出した。


「…全員+優華さんと龍先輩ですね」


結局、部員全員が集まることになった。


…しかも、亮平、優華さん、明日香の3人が集まると嫌な予感しかしない。


俺は恐怖が来ることを覚悟しながら、先頭を歩く亮平の後ろについていった。














もちろん、言うまでもなく数秒で人だかりが出来て俺は失神しましたとさ。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ