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9−7





次の日の文化祭2日目。俺と明日香は昨日とは違って、朝から喫茶店で働くことになっている。朝早くから、亮平がいつものように俺達の家に乗り込んでくると、俺に早めに行くように指示してきた。もちろん、明日香にもだ。


予定より20分早く学校に着くと、もう準備に取り掛かっている人たちもいた。これは、喫茶店に出る量は少なくていいけど、朝の準備はしてくださいっていう人たちだろう。


俺は強制的にクレープ係に指名されたが。


俺達も手伝わなくちゃ行けないのかな、なんて思ったけど、亮平の真意は違うところにあった。


俺達の教室に一度顔を出して、荷物を置くと、向かったのは昨日と同じ空き部屋。


優華さんに抱きしめられて、気絶した部屋だ。


「おい、お前まさか…」


亮平は俺の言いたいことに気付いたのか、プッと吹き出して笑った。


「大丈夫だよ! 優華さんたちがこんな朝早くから来るわけないだろ? ただ単に着替えてもらうだけだ。あそこには、色々なコスプレを用意しておいたからな」


亮平の言うとおり、その部屋に着いても優華さん達の姿は見えなかった。昨日みたいに罠にはめられたらどうしようなんて考えていたけど、今日の亮平は本当のことを言っているみたいだ。


「俺はともかく、なんで明日香まで? 明日香は沙希に頼んだはずじゃ?」


「ここに来たのはお前のコスプレを選ぶためだ。明日香のは沙希が持ってきてくれるらしい。お前の衣装をお前に任せていたら、一生決まりそうにないから明日香をつれてきたんだよ」


はぁ、と馬鹿にされたようなため息を吐かれてしまった。


「さて、どれする?」


亮平がそういう前に、明日香は20着はあるであろうコスプレを選んでいた。


亮平はしっかり俺の性格を分かっている。俺がこういうのが苦手だということ、そして…明日香の頼みに断れないことも。


「これにしよう!」


明日香が取り出したのは、犬のコスプレだった。


「え…」


犬のような鼻と、耳を装飾できるようになっている。


下はコスプレというより着ぐるみと言ったほうが正しいだろう。


「駄目?」


明日香が決めたことだ。別に変じゃないから…いや、変だけど!


「決定ね! はい、風紀着替えて!」


明日香はくるっと後ろを向いて、俺が着替えるのを待っているみたいだ。


マジかよ…。


俺は決心して、着ぐるみに腕を通した。














二日目の喫茶店がオープンした。


もちろん俺は、あんな使い勝手の悪いコスプレを着ながらクレープを作っている。


明日香はと言うと、昨日誰もが着せたかったナースのコスプレをしていた。あれはあれで可愛すぎる。というか、明日香が着て似合わないものなんて無いんじゃいないのか?


俺はそんなことを思いながら手を動かしている。


「風紀、まだぁ?」


「もうすぐ出来る!」


明日香に急かされ、俺は手をいつも以上に動かした。














「終わったねぇ」


休憩無しで4時間働いた結果、俺達の仕事は終わった。


あとは、他の人たちだけで頑張ると信じていよう。


「さて、何処行く?」


俺達のそんな会話を一人、後ろで盗み聞きしている男がいた。


言わずとも誰か分かるだろう。


「おいおい、完全に無視か?」


「りょ、亮平君いたの!?」


「…いや、いいんだ。俺は影薄いし」


泣き出しそうになりながら亮平は声にならない言葉でぶつぶつ呟いている。明日香は不思議そうにそんな亮平を見ていたが、俺が呼びかけるといつもの笑顔に戻った。


「ねぇねぇ、お化け屋敷とか楽しそうじゃない?」


ニシシと笑う明日香の言葉に俺はもちろん賛成して、お化け屋敷がある教室へと向かった。


それから、19時まで遊んだ俺達3人は、暗くなった夜空の下、家へと向かっていた。




「どうだった?」


「文化祭、楽しい!」


一昨年は俺のせいで、なかなか楽しめなかったのだ。去年は去年で、喫茶店がオーバーヒートするぐらいに忙しくなり、全く遊べなかったという状況。


今年こそはと思って、委員長の地位を使って少し休憩を長めに入れたのだ。


明日の午前中は喫茶店、午後からは映画研究部の発表の準備に取り掛かる予定だ。


毎年、想定以上の来客数があるため、お金は取りはしないが、早いもの順に映画が公開される。


3日目に一回、4日目に一回。合計2回だけ公開される。


後に販売した、映画のDVDはなんと1000枚ほど売れたらしい。やはり明日香人気というか…。


取材とかも来て大変だった。


亮平の話によると、今年は有名人まで見に来る予定だとか。


あの優華さんが写っているんだ。反響はでかい。


多分、去年以上の取材数を誰もが考えているだろう。亮平もすんなり対応しそうで怖いが。


「今年の映画鑑賞会は大変だと思うが、二人とも頑張ってくれよな」


亮平は俺の心を見透かしたかのようにその話しを始めた。


やっぱり、こいつって俺の心が見えてるんじゃないのか?


「大変って?」


明日香が不思議そうに聞く。それもそうだ。俺達は毎年と同じように、客に整理券と不正がないかチェックするだけ。


去年もやったが、それほど大変だとは思わなかった。


「あれ、言ってなかったっけ? 今年は映画を見る前に、記者会見みたいなのがあるらしい」


…記者会見?


「は?」


「記者会見というか、映画の紹介というか。ほら、優華さんも出ただろう? 人気が人気を呼んで、ちょっと広まりすぎたらしいんだ。校長から映画館を貸しきろうか、なんて話が出たほどだ。まぁ、それは断ったけどな。だけど、お前達はこの映画の主人公だ。一応挨拶とかしなくちゃいけないって言われてな。仕方なくOKしたってわけよ」


「って、ちょっと待てよ。そんな話聞いてないぞ」


「初日だけだから大丈夫だって! ちょっと新聞紙に載るだけだ」


「…嫌だといっても、お前は俺にやらせるんだろうな」


亮平の性格は俺が一番知っている。






俺がため息をついているころ、明日香の顔は少しだけワクワクしているようにも見えた。




















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