1−5
「さぁ! さっそくですが、室長を決めましょう!」
先生が教壇の前に立ち、みんなにそう言った。
「香坂君でいいとお思いますぅ!」
あ〜俺か。…って俺!?
しかも、さっきの声は…。
「り、凛!? お前、なにいって…」
意味も分からず、その場に立ち尽くす俺。
うわぁ〜最悪。この環境、この遭遇。
「はいはい。固まるのはそこらへんにして、さっさと座りなさい、香坂」
「は、はい」
椅子を元に戻し、しっかりと腰掛けた。
あちらこちらからクスクスと言う笑い声。
や、やめてくれぇ!
「まぁ、そんなこんなで室長は香坂でぇ♪」
そう先生が言うと、クラス中からパチパチパチパチと拍手がはき起こった。
マ、マジか。
「副室長したい人〜?」
先生がそう聞くと、バッと隣の方で手が上がる音がした。
「明日香ちゃんしたいの? 分かったわ。明日香ちゃんで決定ね!」
再び拍手が沸き起こった。
「いや〜私が3年間受け持った生徒が室長とはね。なんか変な感じするわ」
…何故?
「まぁ香坂だし、仕方ないか」
仕方ないって何だよ!
「じゃあ、室長と副室長は、用事があるから放課後、私の元にきてね♪」
だから、音符はいらないって。
「あっ、やだ…風紀…なにしてんの…」
「駄目なのか?」
「駄目だよ…」
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
「もう少し、右上なの」
「ここか?」
「違う!!」
怒鳴られた。
俺達は放課後の教室で、面倒くさい作業に没頭中。
俺は、こういう作業はなれていないんだ!
生徒の資料まとめ。
まず、出席番号順に直して、左上だか、右上だかどっちか忘れたが、そこにホッチキス打ち込む。
そして、それをなんかして…って全く説明になってないか。
「あ〜俺、もう無理!」
「弱音吐かないの!」
明日香、そんな目で俺を見つめるな。
「あ〜、なんか暇だね。うん、暇だ。だって、お前等二人、イチャイチャというもの知らないのか?」
…そういえば、まだこの教室に亮平が残っていたな。
すっかり忘れていたよ。
「そんなもん知らねぇよ! 暇なら帰ればいいじゃん」
ウルウルした目に変えて、亮平は俺に訴えてくる。
「なんだって!? 親友の俺を見捨てるのか。俺は…俺は…悲しいぞ」
泣く真似をする亮平。
俺達は、そんなことに付き合ってあげられるほど、お人よしじゃないから。
「付き合えよ」
「嫌だ」
「ケチ」
「関係ないだろ」
俺と亮平は目をあわす。決して逸らさない。
「…風紀ぃ? 手を止めちゃ駄目!」
明日香が、俺の視界に無理やり入ってきてそういった。
「はいはい」
俺は、作業に戻る。
「というか、気持ち悪い演技をするな亮平」
俺が注意すると、亮平はニヤッと笑ってこう言った。
「日々鍛練」
いや、違うから。
「あ、私ちょっとトイレ行ってくるね!」
明日香は、全てのプリントにホッチキスを通すと、トイレへと向かった。もちろん、要領の悪い俺は、こんな作業を明日香よりも早く終わらせられるわけもなく、ただ黙々とホッチキスと戦っていた。
そんなとき、亮平が思い立ったかのように言葉を発した。
「そうそう、知っているか? 今年の一年生の男子、16分の9が明日香狙いらしいぞ。モテモテ彼女を持つと、風紀も大変だよな」
「だよなぁ」
俺は少し落ち込むように、机へ突っ伏せた。明日香狙いの人は、あの部活紹介のときの雄叫びで十分理解したつもりだが、思った以上に多かった。というか、亮平もすごいと思う。
なんたって、16分の9だぞ!? 16分の9!! どっから、そんな中途半端な文字が出てきたんだよ。
と、心の中で思っていても、言葉にはしない俺だった。
「ただいまぁ」
ふぅ、と息を吐いて明日香は教室に入ってきた。亮平との話もあれだけで終わり、無言の中俺は頑張ってファイルをホッチキスで止めていたおかげか、今の段階では全てが終わっていた。
「お〜! 風紀すごいじゃん! 終わってるよぉ」
驚きながら、明日香は俺のプリント達を奪っていった。どうやら、そのプリントたちもまた一つにまとめるらしい。
明日香が効率よくやったおかげで、その作業すら数分で終わった。あとは、先生に出しに行くだけ。
「ほら、風紀行くよぉ!」
明日香は笑いながら、くるっと一周して歩き始めた。その、回った行為に対して、意味があったかどうかは答える必要はなさそうだ。
なんたって、明日香のあのスカートが少しだけめくれたのだから。
まぁ、奥までは見えなかったが。
「こらぁ、風紀何考えてるの?」
ぷぅ〜と頬を膨らませて、俺の目の前にやってきた明日香。
「ほ、ほら、さっさと行くぞ!」
俺は教室を一番に出ていった。その後ろを明日香が着いてくる。
いつの間にか、帰りは明日香と俺だけになっていた。
亮平、気を利かせてくれたのか?
近いうちに、もしかしたらDouble Lifeのほうで新しい話を公開するかもしれません。
もし、そうなったら報告します。