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8−5





「やっほ、風紀♪」


合宿6日目、明日香が朝、俺達の部屋に来た。こんなことは合宿が始まって初めてのことだ。


「あ、亮平君もおはよー!」


着替えも終わって、俺と亮平は集合時間まで何をして時間を潰そうかと考えているときだった。


「おはよ、明日香どうしたんだ?」


亮平はそういうと、明日香はニッコリ笑って遊ぼうよと呟く。


「遊ぶたって、何するんだよ? 雪合戦か?」


「それいいね!」


「却下」


俺が否定すると、亮平と明日香は頬を膨らませた。明日香は可愛いが、亮平がやるとキモイぞ。


「キモイ言うな」


「あ、口に出てましたか」


まぁ、わざと出したんだけどね。


「お、風紀君たち起きているじゃん! 沢ちゃんも呼んだから、5人で何かしようよ」


優華さんはノックも何もしないで、俺達の部屋へと上がりこんできた。


この5人で何をして遊べというのだ。トランプは5人という中途半端は数でするゲームも少ないし、だからと言って、この時間からホテルで内に設置してある卓球とかをする気分でもない。


「滑ろう!」


「「「「え」」」」


優華さんを除く4人が、声を揃えてそう言った。


「撮影まで、もう1時間もないですよ?」


「大丈夫、大丈夫! 最初の撮影場所は決まっているでしょ? 龍に言っておけば大丈夫だよ!」


「け、けど、部長の亮平も居ますし」


「そんなに行きたくないの? 転ぶから?」


「それは貴方でしょう」


漫才のような会話をしていると、優華さんは早く行こうと言って、明日香と亮平の手を引っ張って歩き出した。


今日の撮影場所も、スキー場と分かっていたから、俺達5人の服装はスキーをする服装だけれども…。


「龍先輩に言ったんですか!」


部屋から出て行こうとする優華さんに言うと、優華さんは昨日の夜ねっ! と叫んだ。


俺と沢部長は何も言う気分になれなくて、ただ無言で3人を追いかける。


「ほら、早く行かないと時間がないよ!」


どうして、優華さんはあんな笑顔なのだろうか。


そんな疑問が一瞬だけ、頭の中を過ぎった。


彼氏に強制的に別れを宣告され、女優という職業について、色々とあったはずだ。今、あそこで、あんなに楽しそうに笑っているのを不思議に思わない奴がいるのだろうか。


「風紀野郎、心配するな」


隣にいる沢先輩が口を開く。知らぬ間に、表情へと出ていたらしい。


「そういえば、沢先輩って、優華さんとどういう繋がりが?」


俺が質問すると、なぜか睨まれた。


こえぇ、こえぇ!


「私が高校一年のとき、映画研究部の部長が金森という人だった」


「金森って、優華さんですか?」


「そう」


「部長は、笑顔が素敵な人だった。学校中のアイドルで、私たち女子の間では憧れの存在でもあった。男からどれだけ告白されたのかは知らない。ただ映画を見るという部活動のときでも、ドアの隙間から部長を一目見ようとする男も少なくなかった」


まさに今の明日香のような存在だな。


「だけど、その部長にも特定の男がいた。島野 幸宏という人だ。皆からシマと呼ばれる男だった。優しい人だ。たまに行き過ぎた行動をする部長に説教できるのもこの男だけだった」


それが優華さんの言っていた彼氏か。


「部長とは反対で、人気者の補助役というような感じの人だったな。そのせいか、存在が薄いというか、なんというか。まぁ、頼りになる人であったことは確かだ」


「そうなんですか…」


目の前で楽しそうにはしゃいでいる優華さんと明日香を見て、俺は何も考えずに言葉が漏れた。


「噂では、女優へと行ってしまった部長に愛想をつかせ、部長を振ったという話があった。本当に別れたらしくてな、学校中の男をさらに敵へと回していたよ」


「違いますよ。彼は優華さんを愛してました」


部長は驚いたように俺の顔を見て、フフッと笑った。


「そんな噂誰も信じていなかったよ。シマさんが、部長を大好きだったのは誰もが知っているからな」


じゃあ、どうして別れたのか。


その話に行ってしまうのは、成り行きというものなのだろう。愛し合っていた二人が、どうして別れなくてはいけなくなったのか。


結局いきついたのは、沢先輩が言ったその噂なのだろうか。


話しているうちに、スキー場へとついてしまった。俺達はスキー板をはめて、すべる準備を終える。


「さて、レッツだGO!!」


元気よく優華さんが滑り出すと、俺達4人は後ろを滑るように進み出した。


「きゃっ!」


そう言って転んだのは言うまでもない、優華さんだ。


「…さて、リフトに乗りますか」


俺がそういうと泣きそうな声で、まってぇと言ってきた。そんな声を出されては、拒否できるわけがないでしょうが。


「はぁ…」


俺は仕方なく、優華さんをいつものように立たせると、今度は転ばないようにゆっくりと滑るように言った。


初日よりかは大分上達している優華さん。リフトの乗り降りは、もう大丈夫のようだ。


「この坂、怖いねぇ…」


優華さんは中級コースの坂を見てそう呟く。俺は上級コースでも軽々滑れるテクニックを持っているつもりだ。


「明日香は大丈夫か?」


そう呼んでみるが、明日香は反応しなかった。


「明日香?」


ふっと周りを見渡す。そこに、明日香の姿がない。


「明日香!?」


すると、キャーという悲鳴が聞こえてきた。明らかにそれは、人が滑れる場所とは違うところだ。


「え?」


俺と亮平がその声に反応する。その声は、確実に明日香のものだ。


声をする方向へと板の先端を向け、滑り出す。


「風紀! 待て!」


亮平の声が聞こえてきた。


急斜面になっている坂の下を除いてみるが、明日香の姿は確認できない…が、そこには人一人通ったような痕跡があった。


きっと、明日香はおちて行った。この崖の下に。


俺は何も考えずに、その急斜面を降りる。まだ12月上旬。そこまで本降りではなかったため、雪はそこまで積もっていなかった。


「風紀君、行っちゃ駄目だよ!」


後ろから優華さんの声が聞こえるが、俺は無視だ。明日香が危険にあっているというのに、黙っているというほうが無理だろう。


後ろから誰かが降りてくる様子はない。そんなことに気をとる余裕もないけど。


滑るごとに、目の前には太い木が現れる。それを避けるように、俺はすべり降りていく。


すると、いきなり、雪が深くなっている部分があったのか、俺は板を雪にとられてしまった。


勢いよく、俺は飛んだ。


グルグル回転するように、雪の深い場所へと落ちると、俺は一瞬だけ気を失いそうになった。


しかし、その意識を保たせたのは、明日香の叫び声。


「風紀っ!」


「あ、すか」


「大丈夫?」


「お前こそ、大丈夫…なのか?」


「うん。運がよかったのか、普通に滑ってきちゃった」


エヘヘと笑う明日香に俺は怒鳴りつける。


「なんで、もっと早くに俺の名前を呼ばなかった!」


「だって…優華さんと楽しそうに話してたじゃん」


「はぁ!?」


「ちょっと妬いちゃったの」


明日香は怒るように頬を膨らませた。


とりあえずは、明日香の安全を確認できたことに俺は胸をなでおろす。


「とりあえず、助けを待とう。俺達がここに行ったって事は亮平も知ってるから」


だけど、それまでどこで待っているかだな。


見た感じ、俺達は平らな場所にいるようだ。どうやら、運がよかったみたい。


足の半分以上が雪に埋まってしまっていては、早いうちに体温が下がっていってしまうだろう。


俺は周りを見渡した。


「風紀、ちょっと奥の方に、入れそうな小屋があったよ」


「本当か?」


「うん! 私は嘘をつかない!」


今、明日香のこの笑顔だけが俺の不安を消す要素となっている。


「じゃあ、行こうぜ!」


俺は一歩一歩転ばないように気をつけながら、その小屋へと向かった。


















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