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8−4




亮平が待っているであろう部屋に着く。もちろん、亮平はこんな時間に起きているはずがないのだが。


「風紀か」


俺がベッドに潜り込むと同時に、亮平は言葉を発した。


「起きてたんだ?」


「今、起きた」


なんて嘘だろう。亮平の寝起き癖が悪いのは、昔から一緒に居る俺が知っている。


「…どこ行ってたんだ?」


亮平は心配するように俺に話しかけてきた。さすがの亮平も、今俺が何処に行っていたということは知らないみたいだ。


…あのことを言うべきなのだろうか。


俺は迷った。確かに、明日香が女優になるかどうか、それは明日香が決めることだ。もし、明日香が俺を突き放してまで女優になりたいというのならば、俺は潔く諦められる。しかし…どうだ? 明日香の性格を考える限り、そんなことはありえない。


ありえないのだ。


だから、もし亮平が明日香にそのことを言ったら…という不安が過ぎる。


俺だって明日香とは離れたくない。もちろん、明日香を女優にさせようなんて思ってもないし、正直なところは考えたくもない。


……。


「風紀?」


しばらくの間、俺が口を閉ざしていると亮平の声が再び聞こえてきた。


「どうした?」


「どうしたじゃねぇよ。何処行ってたんだ? やっぱり、明日香のところか? こんな時間までイチャイチャしないでくれ」


「違うっつぅの!!」


それに、亮平は明日香が好きなのだ。


万が一もそんなことはないと願いたいが、亮平は俺と明日香が別れることを祈っているんじゃないのかという疑問がわいてくる。いや、もちろんそんなことは無いと分かっている。


…分かっているんだが、俺には昔…智也に…。


「風紀、言いたくないことがあるんだったら、言わなくてもいいけどさ…」


亮平は少し間を空け、こういった。


「俺達、親友だろ?」


親友。智也も、そうだった。


だけど、亮平は違うと信じたい。いや、俺は信じよう。


「分かってる。あのさ、亮平…」


俺が一番に今、亮平に聞きたいことは女優業のことではなかった。


「今、どういう気持ちだ?」


「は?」


「親友だから聞いてるんだ。勘違いはしないでくれ。親友の彼女を好きっていうのは、辛いことだろう?」


五十鈴の一件で思い知らされた。俺は、亮平のことを何も考えていないことに。


「な、にいってんだ。そりゃ、辛いさ。でも、俺は前にも言ったが、風紀と明日香のことが大好きだ。それは変わりない。だから、二人の幸せを一番に考えている」


それが分からない。俺には、理解することは出来ない。


「辛いのに、どうして二人の幸せを優先するんだ?」


「何言ってんだよ。そんなこと当たり前だろ?」


「当たり前?」


亮平は恥ずかしいのか、髪の毛を手でグシャグシャとした。


「あ、愛してるから」


「は?」


「ま、間違うな! お前のことを友達としてだ! 表現するとしたら、その言葉が一番ふさわしいと思う。友情と愛情。似てるものだろう? 俺は何よりも、お前達を優先したい」


「どうして…? 自分はいいのか?」


「当たり前だ。考えてみろよ。もし、明日香と自分、どっちかしか生き残れないってなったら、お前はどうする? 考えなくても答えは出るだろう?」


「明日香だろ、どう考えても」


「それと同じだ。俺はどれだけ苦痛を味わってもいい。俺にとっての最優先はお前達二人だ。お前達が幸せなら、俺は幸せになれる。人間ってそんなもんだ」


俺が幸せなら、亮平も幸せ…?


どうして、そう言い切れる?


「じゃあ、亮平は今幸せなのか? 明日香は俺の彼女なんだぞ!?」


亮平は、ため息のような息をはく。


「風紀は明日香と付き合ってて、幸せじゃないのか?」


「し、幸せさ」


「じゃあ、俺も幸せだ」


亮平…。


「風紀、勘違いするな。両方とも幸せの場合のみだ。どう考えても、今の明日香は風紀と付き合っていて、幸せだと思うに違いない。だけど、片方でも不幸を味わうのなら…」


俺は幸せじゃないんだ、と言葉を続ける。


その言葉に心を打たれた俺は、その日、一睡もすることが出来なかった。


亮平は寝る、と言って、すぐに寝息が聞こえてきたから、熟睡できたのだろう。


結局、俺は亮平に優華さんのことを言えなかった。そして、これからのことも。


きっと、明日香は俺と一緒に居たいというに違いない。


だけど、本当にそれでいいのか?



『風紀君、考えて。明日香ちゃんに一番いい方法を』



頭の中では、優華さんのその言葉がリピートしていた。













「風紀、大丈夫?」


次の日の撮影、明日香はずっと俺の傍にいてくれた。多分、表には出していないつもりが、明日香には分かる程度に態度へと出ていたらしい。


「あぁ、ちょっと寝不足なだけだから、心配するな」


俺がニッコリ笑って見せても、明日香の心配するような表情は崩れなかった。


「何かあった? 昨日、夜に優華さんが出て行ったことに関係しているの?」


俺はビクッと体を震わせる。まさか、明日香が見ていたとは。


「…風紀、浮気?」


「してねぇよ!」


「だよねぇ」


アハハと笑う明日香の顔を見て、俺も次第に自然に笑えるようになった。こんな明日香と別れる? 考えられない。


俺は明日香が好きだ。ずっと一緒にいると約束した。


「風紀、何かあったらすぐに言うんだよ?」


撮影の出番になったのか、明日香は立ち上がりながらそう言った。そういえば、さっきから俺の撮影シーンが回ってこない。一番映像に写るとか龍先輩が言っていたのに。


「龍も、風紀君の異変に気付いているのよ」


「異変?」


いきなり隣に出現した優華さん。もう、この神出鬼没にも慣れてしまった。


「私にいきなり聞いてきたよ。風紀と何か話したのかって…。さすがは監督を務めているよね。周りに気を配ってる」


「優華さんの弟って感じがしますよね」


「そう?」


エヘヘと満更でもない様子で優華さんは笑顔を見せた。


「昨日、寝れてないんだ?」


「はい」


優華さんは返事をした俺の顔をじっくりと見ていた。


「な、なんですか?」


「その様子だと、亮平君には言ってないみたいね」


俺は顔をびくつかせる。なんでこの人は、何もかもが読めるのだろうか。


「私は何も縛らないわ。もちろん、明日香ちゃんにあのことを言ってもいいし、亮平君にも言っていい。最終的に答えを出すのは、確実に明日香ちゃんではなく、風紀君だから」


「…俺?」


「明日香ちゃんは頑固だからね」


撮影中の明日香を見ながら優華さんはボソッと呟く。きっと、昔の自分と比べているのだろう。


「…迷ってる?」


「はい」


「だよね。昨日、いきなりあんなことを言われて、迷わない人なんていない。まぁ、風紀君のように違う意味で悩む人は、そう居ないと思うけど」


「俺のように?」


「…とりあえず、私は答えを待つね」


「すみません」


俺がそういうと優華さんは軽く笑った。


「なんで、風紀君が謝るのよ。大丈夫、まだ時間はある」


だけど、その時間も刻一刻と減っている。


今日の俺の撮影は、午後に3本だけ撮って終了した。


そして、何事もなく5日目は終わる。


これが嵐の前の静けさというものなのだと、次の日に俺は思い知った。




















読んでくださってありがとうございます!!


遅れてしまいすいません!

ハイペース更新と言ったそばから…。

なんか50話を軽く超えそうな気がしてきました。

では、

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