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「おはようございます! 明日香センパイ! 亮平センパイ! そんでもって、風紀センパイ!」
「『そんでもって』が余計だけど、おはよう神子」
こいつは、2年生の佐原 神子。一応、映画研究部の一員。俺が一年生のときに部長だった人に似て、俺をどうも敵視してくる。何か恨みでもあるのだろうか?
ちなみに、去年の部長は由美先輩。
副部長は、光男先輩だ。
まぁ、その年の三年生が二人しか居なかったから、当たり前か。
「あ〜! 神子ちゃ〜ん!」
明日香が神子に飛びつく。
「あ、明日香センパイ!? は、離れてくださいよ!」
何故か、明日香は神子を見ると、抱きつく習性がある…らしい。
まぁ、神子は少し可愛らしい部分があって、人形みたいだから仕方ないか。
「おい、明日香。早く行くぞ?」
「わかったぁ〜」
神子を抱きつく手を離して、俺の元へと寄って来た。
「では、また部活で! センパイ」
「おう」
俺は、軽く片手を上げさよならをした。
「今年は、どんな子達が来るんだろうね?」
今日は、新一年生のために、部活紹介をする日なのだ。
明日香が、『ん〜』と迷いながらそう聞いてきた。
去年、今の2年生だが、映画研究部の応募人数が半端じゃなかった。
学年の3分の2。
異例の応募人数らしい。
その目的は…分かっているだろうが、
この学校を代表する美男美女の、由美先輩、明日香、亮平が居たからである。
特に明日香目当ての応募。
この人数は半端じゃなかったらしい。
ん〜、そんな人気の彼女を持っていると、かなり不安なんだが、明日香なら大丈夫だろう。
「なんだってぇ?」
明日香が、ふいにそんなことを聞いてきた。
何も言っていない俺にとっては、謎な質問である。
そんな雰囲気を察知したのか、亮平が簡潔に説明をしてくれた。
「喋っていないつもりだろうが、口に出てたぞ?」
…え?
「なんですと〜!?」
「いや、本当だから」
あ、そうそう、言うのを忘れていたが、只今の部長は清水亮平。副部長が明日香だ。
まぁ、この二人が客呼びをしたら、今年も応募人数が半端じゃないのは目に見えている。
教室に着く。
ガラッと、一番初めに亮平が教室のドアを開けた。
「おっはよぉ」
「お、おはよう! 亮平君!」
「「「「おはようございます!」」」」
一番に駆け寄ってきたのは、亮平ファンクラブに入っていると思われる女の奴等。
その次に明日香が入る。
すると、教室の男共の目の色が変わったのを…感じ取られた。
「おはよぉ! 沙希〜!」
「明日香、おはよー」
エヘってして明日香の真似をしても沙希には全く似合ってない。
むしろ…。
「おい、風紀。声に出てるって」
亮平がそう言った。
「え?」
俺が、そう発した瞬間、俺の目の前は真っ暗に。
スッ!
ギリギリ俺の頬をかすめた。
「危ないじゃないか! なにするんだ!」
「危ない? むしろ? むしろ何だって言うんだ!」
血相変えた沙希の顔。
これほど恐ろしいものは無い。
「う、嘘だって! 嘘!」
「だ、大丈夫か? 風紀」
「大丈夫じゃねぇよ! 沙希のパンチの威力と言ったら、熊一頭普通に倒せるぞ?」
亮平への必死のアピール。
そのアピールが逆効果だったらしい。
「わ、私のパンチで熊を倒せるだって? 一生、その口利けなくしてやる! 風紀野郎!」
「うへぇ〜!」
キーンコーンカーンコーン!
タイミング鳴る鐘の音! これは天使の鐘だ〜!
「くそ。覚えてろよ風紀!」
俺は、痛々しくも自分の机へと向かった。
「大丈夫? 風紀?」
隣に座る明日香が心配そうな顔をする。
「大丈夫だって」
俺がニッコリ笑うと安心したのか、明日香はほっとした様子を見せた。
「それにしても、緊張するなぁ」
部活紹介は、1時間目にするらしい。
「まぁ、亮平がいるし大丈夫だって。気楽に行けよ、気楽に。失敗してもいいからさ」
こいつ等が、本気を出したらどうなるか分からないからな。去年以上の募集が来ないようにだけ祈っておこう。
「うんっ! ありがとねぇ」
明日香が俺にそういうと、教室のドアが開いた。
「じゃあ、部活紹介する人は体育館にむかってねぇん♪」
その先生の言葉に、返事をする人たち。ちなみに、俺は紹介にいかない。部長の亮平と、副部長の明日香だけだ。
その間、俺達待ち組みは自習と言う名の休憩時間。もちろん、俺のすることは決まっていた。
覗きに行くか。
明日香や、亮平たちが出て行ってから、俺は隣の教室にいる幸助を呼びにいく。あいつも俺同様、こういう事が好きなのだ。
「幸助っ」
「行くか」
幸助は俺が何も言わずに、ニコっと笑って教室から出てきた。
しかし、明日香たちが向かった体育館に行くまでに、先生と鉢合わせしてしまったら元もこうも無い。
俺達は、壁によりながら忍び足で体育館へと向かった。
無事、体育館へと着くことが出来た幸助は、体育館のドアに手をかけた。
そういえば、この体育館のドアって、開けると音がなった気がする。
「待て」
俺がそういうと、幸助の動きはどっかの誰かさんに見つめられて石になったみたいだ。幸助には悪いが、ちょっと面白かったりする。
「そぉっと開けろよ?」
幸助はコクコクと頷きながら、今度はドアを引いた。
キィイイイイ…
とても小さな音。これは成功のようだ。
俺と幸助は、少し空けられたドアの隙間から中の様子を覗く。
「次は、映画研究部の紹介です」
俺と幸助は、顔を見合わせて全神経を聞くことに集中させた。
どうやら、グットタイミングだったようだ。
しかし、映画研究部の紹介と言っただけで、すごい歓声だなぁ。まぁ、学校一美女と言われている明日香と、女子から人気者のある亮平が二人並んでいるんだから当たり前か。
「え〜と、映画研究部の清水亮平です。こちらが、副部長の秋本明日香。主な部の活動としては、映画を見ること。そして、映画を作ることです。合宿もあるので、楽しめると思います。よろしければ、入部してみてください」
亮平がそういい終わると、女子の歓声がより一層大きくなった。おいおい、あいつはあそこまでされても、人気だということに気がつかないのか?
そして、亮平は明日香にマイクを渡す。
「一年生の皆さん、入ってくださいね♪」
「うぉおおおおおお!!」
男子共の声が体育館中に響き渡った。
明日香の♪はやはり最強だ。今、それを再び思い知ったよ。
俺と一緒に体育館を覗いている幸助がボソッと「今年も多そうだね」と呟いた。俺はそれに即返答をする。
もちろん、肯定の意味をこめて。
そして、俺と幸助は満足して、教室へと戻った。
その後、亮平と明日香が教室に戻ってきた。
「おつかれ〜」
亮平と明日香に言葉を投げかけると、明日香は涙目になりながら「疲れたよぉ」と呟き、俺のほうに寄ってきた。
「ふぅ、それにしても今年もうるさかったな。やはり、明日香効果は絶大か」
亮平がしみじみそういう。
いやいや、あんたの力も相当なもんなんだよ?
「まぁ、一年生に可愛く『一年生の皆さん、入ってくださいね♪』とか言ったら、疲れるだろうな」
明日香の表情が凍りついた。
「まさか、見てたの?」
「モチ」
「恥ずかしい…」
ボンッ! と音をたてて、明日香の顔は一瞬にして真っ赤になった。
「可愛かったぞ」
そんな明日香が可愛くて、俺はついついそう言ってしまう。
もちろん、小さな声で。
「や、やめてよ…」
うわ、まじ面白い!
すると、俺の後ろに居た亮平が俺の頭をグリグリとしてきた。
「いてぇよ! なんだよ!」
「学校でイチャつくなよ。男達の嫉妬たる殺気がさっきから、お前に向かって飛ばされてるぜ?」
俺は恐る恐る、教室全体を見渡すと、廊下からも俺を睨みつける視線があった。
おいおい、勘弁してくれよ。
皆さん、読んでくださってありがとうございます。
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これから少し学校が忙しくなるので、もしかしたら少しだけ更新ペースが遅くなるかもしれません。
大事なテストの時期でして、小説をあまり書いている時間がないんですよね…。
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by Toki