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7−3






「よし、今日の撮影はこれで終わりだ!」


龍先輩は普段あまり見せない笑顔を皆に見せると、いつもどおりに両手をパンパンと叩く。


「さぁ、晩飯だ」


機材をさっさと運ぶ龍先輩に皆は付いていく。


龍先輩の気遣いなのか、五十鈴の今日撮るはずだったシーンは、みんなの気付かない間に飛ばされていた。


そのことに気付いたのは俺と亮平、そして撮影される本人だけだった。


「あったけぇ…」


ホテルに入ると、俺はまずこの言葉をはく。


「よし、聞け!」


亮平は機材を置くと、みんなの目を引くようにと手を上げた。


「今から晩御飯だ。もちろん、このホテルで用意してもらっている。とりあえず、みんなは着替えが終わり次第、すぐに昨日と同じ場所に来るように」


一同が返事をすると、亮平が機材を運び出した。それに続いて、みんなも機材を手に取る。


「五十鈴?」


一人、機材を取らずに立ち止まっている五十鈴に俺は気付いた。


「え、あ…」


気まずそうに五十鈴は下を向いて、俺の横を通り抜け静香のもとへと行った。


「大丈夫か?」


俺も追いかけるように五十鈴のそばに行くと、五十鈴は小さな声で「うん」と答えるだけ。


俺は何をしていいのか分からず、とりあえずだが五十鈴から離れた。


自分の部屋に着くと、とりあえずこのウェアを脱ぐ。


「疲れた…」


ベッドへと倒れこんだ亮平を見て、一番大変だったのは亮平なんだなと実感した。何せ、みんなに気を配っていたのだ。


「疲れたのは分かったから、晩飯食いに行くぞ。ほら、さっさと着替えろって」


俺が亮平の体を揺らすと、亮平は軽く唸りながら起き上がった。


「ふぅ、腹が減っては戦が出来ないからな」


「誰と戦うんだよ」


「俺の性欲?」


「言ってろ…」


馬鹿らしくなって、俺は一人ドアを開け食事処へと向かった。













場所に着くと、どうやら俺が一番乗りだったらしい。


机の上に俺の高校の名前と、映画研究部様と書かれた札のようなものを発見し、俺はその付近に座った。


料理を見てみると、そりゃもう豪華だ。さすがは亮平としか言いようがない。


次にやってきたのはやっぱり男の幸助と悠太だった。着替えとかは普通に考えると、女のほうが遅いのだろう。


「風紀、早いなぁ」


幸助と悠太が俺の座っている付近に座ると、軽く話しをし始めた。今日見た女の子や、可愛かったここのホテルの受付の人の話など。


って、幸助は女の話しかしないのかよ…。


それから時間が経つと共に、ぞくぞくと人が集まり出す。


目の前には優華さん、その隣には明日香、俺の右隣には亮平が座るような形になった。


「よし、全員集まったか?」


周りを見渡すと、予想通りというかなんと言うか、五十鈴が見当たらなかった。


「…静香、五十鈴は?」


亮平は質問すると、静香は疲れて寝ていると答える。


「そっか、後でパックを貰って五十鈴に渡してもらうか」


亮平はそういうと、右手にコップを持つ。


「今日はお疲れさま、明日も頑張りましょう! カンパーイ!」


お茶だらけの乾杯が行われた。













「ふぅ、食った食った」


亮平はベッドの上で仰向けになるように倒れこんでいた。


俺も同じような格好でベッドの上で寝転んでいる。


「風呂、行くか?」


俺の質問に、亮平は何も答えない。


「おい、亮平」


名前を呼ぶが、まだ反応はない。体を起こして亮平の様子を伺うと、亮平は気持ちよさそうな寝息を立てて目を瞑っていた。


「…はや」


誰もがこういうだろう。


俺は軽くため息をつくと、自分ひとりで昨日の銭湯に向かうべく着替えの用意を持った。


ドアを開けると、そこにはタイミングよく明日香部屋の三人が。


「あれ、風紀ぃ!」


ニッコリ笑って明日香はそう言ってきた。


「どうしたの?」


「今からねぇ、ちょっと一回の銭湯行こうかと思って! 風紀は?」


「俺も一緒だよ。疲れたし、ふと風呂浴びようと思って」


エヘヘと笑う明日香の顔を見ていると、疲れが何処かへ飛んでいきそうだ。


「じゃあ、一緒行こうよ!」


「風紀君は一緒に入れないけどね♪」


優華さんが要らないこというから明日香が顔を赤くしてしまったじゃないか。


「は、入りませんって!」


「分かってるよぉん」


この人のこの性格はどうにかならないものか。


俺はため息をついて、この3人と一緒に銭湯へと向かった。


そこまでは楽しかった。昨日の亮平の言葉さえも忘れるほどに。













「あれ、五十鈴じゃん」


風呂から上がり、うろちょろと歩いていると、休憩所らしき場所で五十鈴が一人で窓を眺めていた。


「ふ、風紀君」


「どうしたんだよ、こんなところで一人座って」


「…何もないよ」


五十鈴が立ち去ろうとするとき、俺は五十鈴の名前を呼んだ。


「大丈夫か?」


一瞬止まった五十鈴にそう聞く。すると、肩がゆっくりと震え出した。


「うっ、うぅ…」


泣き声が聞こえる。


やべ、俺泣かしちゃったのか…?


「わ、わりぃ…」


何がなんだか分からず、俺はただ謝る。


「な、んで謝るの?」


「な、なんでって…」


「わ、たしね? あのね…」


五十鈴は俺に背中を向けたまま喋り出した。


「…と…たの」


なきが声でよく聞こえなかった。俺は聞きなおす。


「え、よく聞こえない」


「嫉妬したの…」


今度ははっきりと、俺の耳にも届いてきた。


「何に嫉妬したの?」


辛いことがあったんだろう。そう思った次の瞬間、俺の耳には疑うような言葉が飛び込んできた。


「明日香ちゃんに…。風紀君からそんなに思われていいな、って」


俺に思われて?


「どういう意味か…」


「私、風紀君が好きだから、明日香ちゃんに嫉妬したの!!」


五十鈴はそういうと、振り返って俺の胸へと飛び込んできた。


や、ばい。


意識が飛びそうだ。


「好きなの…」


泣いている声で、五十鈴は俺にそう言ってきた。


やばい、体がうまく動かない。力が入らない…。


そんな時、そっと声が聞こえてくる。天使の声なのだが、ここでは聞きたくない悪魔のようなものが。


「ふ、うき?」


言葉がするほうに、なんとか視線を向ける。そこには優華さんと、沢先輩、そして明日香の姿があった。


声に反応したのは俺だけじゃなかった。五十鈴も一緒だ。


「ご、め…」


涙声で何を言っているか分からないまま、五十鈴は走って何処かへ行ってしまった。


しかしこの事実は変わらない。


俺、五十鈴に告白された…?


「どういう、こと?」


「明日香、これは!」


俺は必死に弁解しようとする。明日香に見られたのはタイミングが悪かった。


「風紀の馬鹿っ!」


さっきまで五十鈴に触られていて体に力が入らない俺は、ただ泣いて走っていく明日香の後姿を見ているだけしか出来なかった。


昔と同じように、俺は動けなかった。


















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