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7−2




あれから、五十鈴の様子がどうもおかしい。


台詞は間違えるし、スキー板はめないでスキー場へ出て行こうとするし。


「どうしちゃったんだろ」


明日香が俺の隣に立ってそう言った。多分、五十鈴のことを言っているのだろう。誰の目から見ても様子がおかしいからな。


ほら、今も亮平が話しかけている。


「気分が悪いのか?」


「う、ううん、大丈夫」


「でもさ」


「だ、大丈夫だよぉ…エヘヘ」


五十鈴は笑っているが、表情だけって感じがする。そのことを亮平も気付いているのだろう。複雑そうな顔をして五十鈴から離れ、俺のもとへと近寄ってきた。


「ん〜、どうしたものか。風紀は何か知らない?」


「いや、俺はまったく…」


そんな五十鈴が調子悪くなる理由が見当たるわけも無く、亮平と会話をしていると、意外な人物が言葉を挟んできた。


「五十鈴は…大丈夫だから。今は放ってあげて」


いつの間にか俺達の後ろに居た静香。五十鈴の何かを知っているのだろう。


「そ、っか」


俺はニッコリ笑って、静香にありがとうって言うと、静香は俯いて五十鈴の下へといった。


「あれか? 女の子の日なのか?」


おい、それは間接的だが、直接っぽい言い方過ぎるぞ。しかも、こんな公共の場所で言うもんじゃないだろ。


周りを見渡せば、スキーで疲れた人が休憩している。


目の前では優華さんが一人で、自分の気持ちと対面するシーンを撮っていた。だから、今必要なスタッフは龍先輩と優華さん、そしてそれを手伝う先生だけ。


「ふぅ、とりあえず優華さんはNG出さないだろ。風紀、次出番だから準備しておけよ」


亮平にそういわれ、片手をあげてスキーウェアをしっかりと来た。


「明日香、早く行くぞ」


次は俺と明日香がこの休憩所の外で優華さんが出てくるのを待つシーンなのだが…。


「よし、おけっ。んじゃ、ここで一旦休憩いれるか。お前等も疲れただろ? こんなにハイペースで撮っても、あまりいいのは撮れないからな。とりあえず、休憩を挟んでおこう」


龍先輩は手をパンパンと叩くと、解散の雰囲気が流れた。


「やっほぉ♪」


「優華さん、おつかれさまです」


俺がそういうと、優華さんはありがとうと言って明日香の後ろに回りこんで、明日香を抱きしめる形になった。


その形のまま、二人は何かを話している。明日香はただ、リアクションと「えぇ!?」とか言っているだけだが。


その一連の行動が終わったのか、優華さんは明日香から離れて俺達の前に来てこういった。


「風紀君達、一緒にすべりに行かない?」


ニコッと笑った優華さんのその言葉に誰もが否定できるわけが無く、俺達はただ頷くだけだった。


その休憩所から出た直ぐそこに、上へと昇る二人用のリフトがある。


「ほらほら、風紀君!」


なぜか俺が優華さんに、俺のストックを引っ張られて一緒に乗ることになった。そんな光景を明日香は睨むように見てくる。


「ち、違うんだって!」


「何が違うのよぉ…」


そんな会話をしていると、優華さんが明日香にウィンクした。明日香は何かに気付いたかのように黙るだけになった。


「え?」


その状況がよく飲み込めていない俺は、ただ優華さんについていくだけ。


そして、俺は優華さんとリフトに乗った。


ちゃんと、亮平と明日香も後ろに乗っている。ちょっと気がかりだ。だって、亮平は…。


「そんなに心配?」


アハハと笑いながら優華さんは俺に言ってきた。


「な、何がですか?」


ちょっととぼけてみる。あの龍先輩のお姉さんってことをすっかり忘れていた。


「明日香ちゃんが、亮平君に取られちゃうんじゃないかって心配してるんでしょ?」


「ぶっ!」


思わず吹いてしまった。


「まぁ、亮平君はイケメンだから、その気持ちはよく分かるよぉ…」


「イケメンじゃなくてすいませんでした」


俺は拗ねながら謝ると、優華さんは再び笑い出す。


「風紀君にもいいところはたくさんあるから心配しないで?」


ニッコリ笑う優華さんに、どこがあるんですか? と聞ける勇気も無く、俺は「はぁ」と答えるしかなかった。


「あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「どうかしたんですか?」


「気になるぅ?」


「意味わかんないっすよ」


いきなりリフトを揺らすかのように、足を揺さぶり出した。


「あ、危ないですって!」


優華さんは何も答えず、ただ空を見上げているだけ。


「ねぇ」


「はい?」


「明日香ちゃんってさ、女優に向いていると思わない?」


「は?」


「どう思う? 私はね、明日香ちゃんに是非女優になって欲しいって思うんだけど」


明日香に?


そりゃ、俺も見てて思ったけど…。


「そういうのは、本人が決めることなんじゃないですか?」


なぜか優華さんは俺を見て鼻で笑った。何かいけないことでもしたのだろうか?


「風紀君は、嫌じゃない? 明日香ちゃんが女優になったら。もちろん、女優ってことは注目を浴びるし、自由に恋愛が出来なくなる。それに、もしかしたらキスシーンも出てくるし、ベッドシーンも。町を歩けば、注目を浴びる」


その言葉で、優華さんが言いたいことは大体分かった。


「つまり、明日香は」


「風紀君が望まないなら絶対やらないってさ」


……。


明日香と一緒に会う時間が少なくなるのは嫌だ。だけど、俺が高校を卒業して、大学に入り、就職したとなれば、それは必然的に合う時間が少なくなることを示す。


ましてや大学でさえ、会う時間が少なくなる可能性が出てくるのだ。


「…そりゃ、嫌ですよ」


女優となれば余計に会えなくなる。もしかしたら、事務所かどっかからの命令で、素人とは恋愛しちゃいけなくなるかもしれない。


「だよねぇ」


「でも、明日香が女優という職業を望むなら、俺は女優の明日香を応援しますよ」


だからと言って、あんなに輝いている明日香を俺のせいで縄に縛られたまま生きて欲しくない。


「…風紀君ならそういうと思った」


ニッコリ笑うと、優華さんは降りる体勢に入る。俺も同時に前を向いた。


「優華さんは」


降りる寸前、俺は質問を投げかける。


「そういう苦い経験あったんですか?」


地面に足をつけた瞬間に、言葉が返ってきた。


「えぇ」


寂しそうな顔をする優華さんを見たのは、これが初めてだったかもしれない。


















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