6−5
「ふぅ、やっぱ銭湯はいいなぁ!」
「つぅか露天風呂だろ、これ…」
俺達はホテルの一階にある露天風呂に浸かっていた。広さはそこそこ。足湯とかもあるし、水風呂やサウナはもちろん、電気風呂みたいなのもある。
「お前と一緒に風呂に入るのも久しぶりだな。どれだけ振りだっけ?」
「ん〜、確か智也と3人でお泊り会したときだっけ?」
「そっか…」
亮平は何か意味ありげにそう呟いた。
「智也か」
「…あぁ」
俺はふと凛のことを思い出していた。
そういえばあいつ、智也と仲良くしていいのかとか聞いてきたな。もしかして、よりが戻った? まぁ、それならそれで、全然いいことなんだけどさ。
「……」
「なんか喋れよ」
俺が笑ってそういうと、亮平は一度ブクブクと泡をたてながら、頭まで全部浸かった。
「ぶはぁっ!」
「子供かよ」
そう言っても、亮平は何も反応しなかった。
「どうした? なんかあったか?」
意味深そうな顔をしている。何かあったに違いない。それから俺も亮平も何も喋らないまま数分が過ぎた。
「風紀」
突如、亮平が言葉を発する。
何かを決めたかのように。
「ん〜?」
俺は風呂の壁に背中を付け、空を見上げたときだった。
「もし俺が、明日香を好きだって言ったら…どうする?」
「え?」
亮平の冗談じゃ無さそうなその声。俺は何も答えられなくなった。
もし? 亮平が明日香を好きだったら?
「はは、やめろよ」
俺は苦笑いをしながら風呂から上がろうとした。亮平のそばに居たくなかったのかも知れない。これ以上、亮平の言葉を聞きたくなかった。
「なぁ、どうよ?」
いつになく真剣な亮平の声。
亮平が明日香を好き? 考えられない。考え…
「…ぶっ飛ばす」
俺は頭に過ぎったことを言葉に発した。
「だよなぁ」
亮平は風呂のお湯を手ですくい、自分の顔にぶちまけた。
「風紀」
ザパンという音と共に、亮平はお湯から出る。
「……」
名前を呼ばれても、俺は何も返すことは出来なかった。
「ふ、うき」
亮平は下を向いて、そっと俺に言った。
俺を殴れ。
「じょ、冗談だろ?」
信じたくなかった。亮平が俺を裏切るなんてことを。
「俺は、明日香が好きだ」
「からかうなって…」
信じられなかった。
「風紀っ!」
亮平は叫んだ。その音で俺の中にある疑念が吹っ飛ぶ。
「てめぇ!」
俺は容赦なく、右手の拳を振り上げた。
…が、振りぬくことは出来なかった。
「な、んでだよ?」
なんで、亮平が…亮平が?
「俺達…親友だろ?」
柄でもない言葉を俺は発する。
「親友だから…だ」
亮平は下に向けていた顔を上げた。
またか、また、俺の親友は俺の彼女を好きになるのか。
「…お前も、お前も智也と一緒かよ!!」
また、亮平も俺から全てを奪うのか!
「違うっ!」
「何が違うんだよ…」
「俺は智也と違う。ただ明日香が好きなんだ。そのことをこれ以上お前に黙っておけないんだ」
何も答えられなかった。それが亮平の優しさだと分かってしまったから。
「ただ、明日香が好きなんだ。今は奪おうなんて考えてない。明日香の笑顔、そしてお前達が幸せであればそれでいい」
「俺達…?」
「明日香と風紀が幸せなら俺は何も手出しはしない。俺は明日香も好きだが、風紀も大好きだから」
亮平…。
「だけど」
今度はしっかりと俺の瞳を捕らえながら、亮平は俺に言い放つ。
「明日香を泣かせるような、明日香を幸せに出来ないような奴にお前がなるなら、俺は遠慮なく明日香を奪っていくからな!」
「りょ、亮平…」
「それをずっと言いたかった。もう二年も隠していたなんて、俺らしくない…」
「に、二年?」
フッと亮平は笑う。
「さみぃな…」
今は12月。北海道の外は、体中が凍りそうなほど寒かった。
「うひゃあ!」
亮平は柄でもない奇声を上げ露天風呂へとダイブした。俺もそれに続く。
亮平が明日香を好き。
平然と笑っている俺だったが、心中は複雑な気持ちでいっぱいだった。
「風紀っ!」
亮平は人暴れした後、空に向かって叫んだ。
「明日香を幸せにしろよぉおお!」
「ばかっ!」
もし、明日香が聞いてたらどうすんだよ!
「わかったかああ!!」
亮平は俺のそんな気持ちに気付くことなく、また叫び出した。
こいつ…。
俺はなんだかおかしくなって、亮平と同じように空を向く。
「当たり前だっつうの!!」
俺は…明日香を泣かせたりはしない。
読んでくださってありがとうございます。
ここで6−○は終わりです。
さ、散々言われ続けていた、亮平が明日香を好きなのではないかという質問。
まさにその通りです。はい…。
だけど、亮平を嫌ってあげないでください! ずっと辛かったんです(つω・。`)うぅ…
けど、まだ安心しないでください。まだまだ波乱は続く模様です。
感想などお待ちしております。