6−3
「見てみて、風紀君! これ、かなり可愛いんだけど!」
優華さんは全ての人の注目を浴びるような大きな声でそう言った。
いや、可愛いのは貴方です。なんて、言葉に出してはいえないけどね。
…ってか、すごい周りからの視線が気になるんですけど!
「これ、買おうよ! ね?」
俺達は今、スキー場のお土産屋に来ている。
「ねぇ、買わない? おそろいだよ? ほらほら!」
優華さんはストラップ人形を俺の目の前に突き出して買わせようとしてくる。
「か、可愛いですけど…」
「じゃあね、買おっ?」
「うぅ…」
俺はたじたじしながら財布からお金を出して、二つ分その人形を買ってしまった。
優華さんにそんな迫られたらどんな奴だって買ってしまうでしょ!
「ふふ〜♪」
そのストラップ人形を優華さんはデレデレしながら見つめていた。
それにしても、この人は周りの視線が気にならないのだろうか?
「あれって、優華じゃねぇ?」
とか言葉が聞こえてくるし。
「気にしなくていいよ」
優華さんはニッコリ笑って俺にそう言ってきた。俺の考えが読めるのか? さすが、龍先輩のお姉さんなだけある。
俺は自分で買ったストラップを見ながらそう思った。
「ありがとっ! 今日は楽しかった。また晩御飯のときに!」
そう言って、優華さんは部屋のドアを閉めた。
「ふぅ…」
俺は疲れたようにため息をつく。
あれから優華さんがもうひと滑りしたいと言い出して、俺はしぶしぶ付いていった。まぁ、結果は言わずと分かっていると思うが、優華さんは何度も何度も尻餅をつく。それを俺が何度も立たせるという行動を繰り返していた。
正直言って疲れた。
ふと時間が気になって右ポケットに入っている携帯に目をむける。
17時か…。
携帯に引っ付きながらゆれるストラップに視線を移す。
これは今日、優華さんと買ったストラップ。
どうしても、ここに付けろと優華さんに迫られたから仕方なく俺は付けている。
こんなの携帯についていたら邪魔だ。この合宿が終わったら外そう。
「あ、風紀君!」
廊下を歩きながら、携帯を見ていると五十鈴の声が聞こえてきた。
「どうした?」
「優華さんの付き添いは終了したの?」
「あぁ。そっちはどうよ? あの課題はクリアできたのか?」
俺が悪戯っぽく言うと、五十鈴はぷぅと頬を膨らませた。
「うん。ちょっといっぱい探して疲れちゃった」
「そっか、お疲れ様」
俺はニッコリ笑い、再び歩き始める。
「あ、あのっ! 風紀君!」
「ん〜?」
五十鈴はモジモジしながら俺のほうを向いていた。
「どうしたぁ?」
「あのね、よかったら今から一緒に…遊ばない?」
「遊ぶったって…」
何して?
「え、えっと…その!」
五十鈴があたふたし始めるころ、俺の後ろに強大な存在感を示す人物が現れた。
「その話乗った!」
「うへっ! 優華さん!?」
俺はいきなり現れた優華さんにビックリしながら振り返る。
「ん〜、風紀君が一人で部屋に入ったところを襲おうと思ったんだけどねぇ。なんか面白そうな話しをしていたから出てきちゃった」
襲うって何を考えているんですか、あなたは。五十鈴にいたっては、優華さんの言葉に反応して顔を真っ赤にしているし。
「さて、そうと決まったら風紀君の部屋へいきましょー!」
「って、俺の部屋っすか!?」
「女の子の部屋に入りたいのぉ? 風紀君はえっちだなぁ」
「ち、違います!」
優華さんはニシシと笑うと、俺の部屋へと向かって歩き出した。五十鈴も何気なく乗り気みたいだし、まぁいっか。
俺はポケットから鍵を取り出すと、部屋のドアノブ付近にあるドアロックに鍵を通す。
鍵が開くと優華さんはなぜか一番に部屋へ入り、俺が使用するはずのベッドへとダイブする。
「何やってんすか」
「エヘヘ、なんか疲れちゃってさぁ」
「そのまま寝ていかないでくださいよ」
「……」
「ちょ、優華さん!」
…はや。寝るの早っ!!
「ね、寝ちゃった…の?」
五十鈴は何がなんだか分からないようで、優華さんを見たり、俺を見たりを繰り返している。
「まぁ、今日は結構動き回ったからな。優華さんも注目浴びすぎて疲れたんだろ。ちょっと寝かしてやるか」
俺はスキーウェアを脱ぎ始める。
…脱ぎ始める?
「ふ、ふ、風紀君!」
「って、あ、ごめん!」
五十鈴にちょっと外で待ってもらうように言って、俺は着替えた。
「ごめんな」
外で待つ五十鈴にそう言って、中へと呼ぶ。
「う、ううん! ちょっとビックリしたけど大丈夫!」
こんなあたふたしているけど、五十鈴は空手、柔道、合気道と段所持者なんだよな。
「さて、何すっか…」
俺は一息つくように座ると、五十鈴はその隣にちょこっと腰を下ろした。
ってか、よく考えたらこの部屋男俺だけじゃないか。
「……」
「……」
やべ、意識したらちょっと緊張してきた。
「あ、あのね! 風紀君、あの、その…」
「ただいまぁ〜」
ガチャリという音と共に、この部屋に足を踏み入れたのは亮平だった。
「あれ、風紀と五十鈴じゃん。それに優華さん? 寝てんのか」
亮平は自分の荷物をその場に置くと、脱衣場に足を向けた。多分、着替えるのだろう。
「で、五十鈴なんだったけ?」
「う、ううん! なんでもないよ!」
次にドンドンと部屋のドアが叩かれる音がする。こんなことをするのはあいつしか居ない。
俺は何も言わず、ドアを開けた。
「あ、風紀だぁ!」
「よっ、どうしたんだよ?」
「えっとね、ちょっと暇だったから遊びに来たの! それに優華さんもここにいるんじゃないの?」
「あぁ、寝てるけどな」
「ふ〜ん…」
「なんだよ…?」
「やらしいことしてなぁい?」
「してねぇっつぅの!」
明日香は嘘だよぉんと、可愛い顔をして言いながら部屋へと入ってきた。
「あれ、五十鈴ちゃんもいたんだぁ! 風紀になんかされなかったかぁ?」
「さ、されてないよぉ!」
おい、五十鈴。そんなあたふたしていると、本当になにか俺がしたみたいじゃないか。
「…風紀ぃ?」
明日香がじろっと俺の顔を見てくる。いや、勘弁してくれ。
「だから、やってねぇって!」
もう、嫌だ。
「ふぅ、あれ明日香来てたのか」
着替えが終わったのか、亮平が脱衣所から出てきた。
「うんっ! 暇だから遊ぼうかなぁって思ってさ!」
「んじゃ、遊ぶかっ!」
亮平は袖をぐっとめくって笑顔になった。
それからご飯が始まる時間まで、俺達がわいわい叫びながら遊んでいたことは言うまでもない。
ちなみに、優華さんは食事の時間までずっと寝ていた。