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6−2





それから数箇所回った。


初めの場所と同様、優華さんは笑顔とその知名度で、回ったところ全て許可を取ってきた。さすがとしか言いようがない。


俺はといえば、ただその光景を眺めているだけ。たまに、その休憩所の管理者らしき人がこっちを見るから頭を下げるぐらいだ。


「ん〜6箇所あれば十分かな?」


「そりゃあ…」


多分、亮平は1箇所ぐらいを予想しているだろうな。亮平が、6個も場所を取ったって聞いて驚く姿が目に浮かぶ。


「どうしたの?」


優華さんが俺の顔を覗くように、ささっと目の前に現れる。どうやら、俺はどっかの変態のように笑っていたらしい。とにかく、その場は何も無いですよと誤魔化しておいた。


「さて、これからどうしますか?」


「ん〜、そうだねぇ・・・」


さすがの優華さんも、もう休憩所探しには飽きたようだ。


「スキーでもする?」


「そんなに転び続けているのに、よく続けようと思いますね」


今日、すべり初めて早4時間ほど経っているが、一向に優華さんが上手になる気配は無い。


「むぅ…」


「戻りましょうか?」


「えー…」


「じゃあ、滑ります? 僕は全然構わないですけど」


正直、何度も立たせるという行為は、俺の精神面によくない。


「じゃあ、あの飲食店に入らない?」


優華さんがニコッと笑って指差した先には、少し大きめの飲食店があった。体を温められるなら問題ない。俺は先導を切って歩き出した。


「あったけぇ…」


中に入ると、言葉が漏れるように呟く。


優華さんも帽子を取ると、暖かいねと笑ってくれた。


「いっらしゃいませ! 二名様で…しょうか!?」


優華さんを見てビックリする店員さんを放って俺は頷くと、勝手に空いている席へと歩き出す。あんなところで店員と絡んでいたら、人がどんどん集まってきて面倒なことになるに決まっている。


「ねぇねぇ、風紀君♪」


なにか嫌なことをたくらんでいるに違いないであろう優華さんが話しかけてきた。


「なんですか?」


「明日香ちゃんのどこが好きなの? やっぱり顔?」


「顔…は関係ないでしょ。あいつ、放っておけないですよ。性格がおっちょこちょいというか、天然というか…」


「子供みたいな感じ?」


「それとはまた違うと思うんですけどね…」


「ふ〜ん」


納得がいかなかったのか、優華さんは口を尖らせる。


「優華さんは彼氏さんとかいないんでしたっけ?」


「女性にそういうこと聞くと、風紀君勘違いされるよぉ?」


「ちがっ! そういう意味じゃないです!」


「分かってるってぇ」


ニシシと勝ち誇ったような顔をするな。


「まぁ、秘密だね。あ、明日香ちゃんだ」


「明日香?」


俺はくるっと振り返るが、明日香の姿などなかった。


「プププ…」


「優華さぁん…」


「騙したわけじゃないよぉ!」


「……」


口を尖らしたって可愛くな…いや、やっぱり可愛いです。はい。


「あれ、風紀と優華さん!」


ふと声がするほうに目をむけると、そこにはまさかの明日香が立っていた。


「ほ、ほら言ったじゃん!」


いやいや、そんな慌てて言っても信じませんよ…。


「明日香たちも休憩しに来たのか?」


「うんっ! もうお昼だしねぇ…。何か食べようかと思ってさ」


「私たちも今来たところだし、4人で食べない?」


目の前に座る優華さんは手で椅子を叩き、明日香に座って欲しいようなジェスチャーをしている。


「え、じゃあ!」


明日香は満面の笑みを見せ、トコトコと歩いて優華さんの隣へ座る。


あとから来た亮平は、俺達の顔を見るとあからさまに嫌な顔をした。









「風紀ぃ、優華さんに失礼なことしなかったぁ!?」


ご飯を食べている最中に、いきなり明日香が俺に怒鳴りつけてくる。


「してねぇよ」


「えー! 私にあんなことや、こんなことしてきたじゃない…」


「ちょ! してませんよ!」


「ホントにぃ?」


明日香は明らかに疑った目で俺を見ている。こいつ、俺が女性恐怖症だということを忘れてないか?


「りょ、亮平こそ、明日香になにもしてないだろうな?」


「きゃぁ! 風紀君、私にあんなことしておいて、明日香ちゃんの心配するのぉ?」


「ちょっ! 優華さんはからかわないでください!」


俺が軽く両手で机を叩くと、いっきに周りから注目を浴びた。


元から、あの優華さんが一緒にいるから、チロチロ見られているのに…。







ご飯も終わり、俺達は一般客からの注目を浴びながら外へ出た。さすがは優華さんだ、食事中に何度もファンらしき人に声をかけられても嫌な顔をひとつしない。むしろ喜んでいるようにも見えた。


「あ、あのっ、金森 優華さんですか?」


また一人、目の前に俺達と同じ年ぐらいの女の子が優華さんに話しかける。


優華さん以外の俺達三人はただ、その光景を眺めているしかないのだ。本当なら、マネージャー代理の俺がストップをかけるべきなのだが、何と言っても


面倒なのだ。


「そうだよぉ♪」


優華さんはニッコリとその女の子に向かって微笑みかける。多分、こういうのがファンサービスっていうのだと思う。


「あ、あの! 握手してもらっていいですか!」


女の子は落ち着かないように軽くじたばたし始めた。


そっと優華さんは女の子と間合いを詰める。そして握手どころか、ぎゅっと一瞬抱きしめたのだ。


俺があの子だったら流血もんだと思う。


「あ、あ、あり、あり・・・」


頭が正常に回っていないのだろう。女の子は何を喋っているのか分からなかった。


大きな声でありがとうございます、とはっきり言うと走ってどこかへ行ってしまった。


「可愛いねぇ」


優華さんはニッコリと走っていったその子の後ろ姿を見ながら微笑んだ。






「そういえば、優華さんは休憩所見つけられましたか?」


……!!


すっかり忘れていたじゃないか。この大イベントを。亮平の驚く姿が目に浮かぶ・・・。


「うん、6ヶ所ぐらいでいいよね?」


「はい、余りあるほど取ってくれたんですね。ありがとうございます」


あれ、思ったより普通の反応だったな。


「風紀、それぐらい取ってくれなきゃ困るんだよ」


「え、あ、あぁ」


また声に出ていたのか?


「んじゃ、俺達はまだ行くところがあるから。じゃあ優華さん、風紀を連れまわしていいんで、楽しんできてください」


「え、亮平君たち、また何処かいくの?」


「らしいです」


エヘヘと笑う明日香と亮平を見ると、まさにカップルみたいだな。


って、俺は何言ってんだ。


「ほら、行くぞ明日香」


「あ、うん! じゃあ風紀、また後でね。 あっ! 優華さんに迷惑かけちゃ駄目なんだからね!」


「お前も怪我しないように気をつけろよ」


「わかったぁ!」


明日香はニッコリと笑うと、ゴーグルをはめて亮平の後を追った。

















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