6−1
「風紀君、寒いよぉ…」
合宿2日目。俺と優華さんはスキーウェアを着てスキー場へと向かった。
休憩所。
スキーをしていて、休憩できる場所ととってもいい。
屋外か屋内かは指定されていないが、借りて来いと書いてあったから多分、室内なのだろう。
「優華さん、スキーできるんですか?」
俺は、優華さんと自分の分のスキー板を持ちながら歩いている。
「ちょっと前にやっただけで、出来るかどうか聞かれると…」
「出来ないんですね」
「はいぃ…」
「では行きますか」
別に休憩所はスキー場無いとは指定されていない。
「風紀君はスキー出来るの?」
「まぁ、たしなむ程度に」
「そうなんだぁ、じゃあ風紀君に教えてもらえるねぇ」
ニコッと笑う優華さんを見て、可愛いと思わないやつがいるなら今すぐここに連れて来い。お前も直ぐに優華ファンにしてあげるから。
「まず、スキー板のここに足をはめるんです」
「それは知ってるよぉ!」
アハハと笑いながら、すすっと準備をしていった。
二人ともスキー板を足に固定してすべる準備が出来ると、まず俺が山の上に行くために、リフトのほうに向かって滑り出す。
「ふ、風紀君まってぇ!」
声が聞こえたから後ろを振り向くと、そこには尻餅をついている優華さんの姿あった。もしかして、本当に滑れないのか?
俺は二回ほどストックで地を付いて、元の場所へと戻ると優華さんの目の前で止まった。
「……」
さてどうしよう。これだけ厚着しているが、やはり今から触ろうとしているのは女だ。
俺はとっさに右手に持っているストックを優華さんに差し出した。
「ほぇ」
優華さんがそのストックを手にとると、俺はストックを引っ張り上げた。
「さぁ、行きましょう」
今度は優華さんに先行くように言った。
リフトに隣同士で乗ると、俺は優華さんに質問を投げかけられた。
「風紀君、明日香ちゃんのこと好きなの?」
「ぶっ!」
あまりのいきなりの質問で、俺はストックを落としそうになった。
「な、何をいきなり聞くんですか」
明日香を好きか、だなんて。
「今回、私とのキスシーンあるじゃない? だから、明日香ちゃんに早いうちに弁解しておいたほうがいいと思ってね」
「……え?」
キスシーン?
「えぇ!」
「あれ、台本まだ見てないの?」
「嫌ってほど読みましたけど…」
そういえばキスシーンみたいなのがあったな。
「それって、本当にキスしませんよね?」
「するんじゃない? 私が突然するわけだし」
…倒れるぞこりゃ。
「いいんですか? 今や超有名人の優華さんが」
「大丈夫でしょ! まぁ、明日香ちゃんは嫉妬深いから気をつけなさいよ」
いや、毎回優華さんを明日香が怒ったように注意していたのは、俺が女性恐怖症だからであって…。
「あ、もうすぐ降りるよぉ」
リフト終点が見えてくると、俺達は降りる準備に差し掛かった。
「ゆっくり地面に足をつけて、立つだけでいいですから。リフトが勝手に体を押してくれるんで、その力に流されるように滑っていきましょう」
降りる前に再度確認すると、優華さんは前方に目を向けながら頷いた。
「うわわわ…」
優華さんはバランスが崩れそうになったのか俺のスキーウェアを掴んだ。
ビクッ。
「ゆ、ゆ、優華さん!?」
「ごめんね!」
俺の声に反応して、優華さんはすっと俺から手を離した。
「休憩所って言っても、どの辺にあるんですかね?」
一応、リフトでそれなりの高さまで上ったが、休憩所がどこにあるのかは全く調べていなかった。
「あれは休憩所じゃないの?」
リフトの奥に、それほど大きくは無いが休憩できそうな場所を発見した。
「行ってみます?」
俺がそう聞くと、優華さんはゴーグルをはめて滑り出した。
そういえば、スキーウェアと、このゴーグルのおかげかは知らないが、いまだに一般人が優華さんに気付いていないみたいだ。
少し考え事をしていたら、転んでいる優華さんの姿が目に入る。
「…またですか」
近寄ってそういうと、今にも泣きそうな顔をしながら俺に手を伸ばしてきた。
俺はストックを突き出して、引っ張りあげる。
「ゆっくりでいいですから」
俺はニッコリ笑うと、優華さんと一緒に休憩所へと向かった。
休憩所に付き中を見渡すと、そこにはスキーで疲れた人達が部屋の真ん中にある暖房器具で温まっていた。
「ふぅ」
優華さんは何のためらいも無く、ゴーグルと、頭にかぶっている帽子を取った。
すると、ある一人の女の子がこっちを見て一言、優華だぁとつぶやく。
その声に反応して、他の皆もこっちへと振り返った。
中には携帯で写真をとろうとしている人も居る。こういうとき、俺が対処するべきなんだろうけど、何をすればいいんだ?
「ほらほら、風紀君」
携帯を向けている女の人のほうを向きながら、優華さんはピースをしていた。なぜか俺も写るようにと、引っ張って枠内に入れてくる。
「ちょ、ちょ、優華さんいいんですか?」
「別にいいじゃない」
ニシシと明るい笑顔で俺にそう答えてきた。
チャララーンと音が聞こえると、女の人たちから歓喜の声が。
「ねぇねぇ」
優華さんはその人たちに近づくと、自分が持っている携帯を取り出して、さっきの写真が欲しいと言い出したのだ。
「風紀君も後からあげるからねぇ!」
日本を代表する有名人がこんなのでいいのかよ。まぁ、ファンサービスってところか?
「ありがと!」
優華さんは女の人たちにニッコリ笑うと、俺のところへと戻ってきた。
後ろのほうでは、さっきの女の人たちがあっけに取られたような顔をしている。まさか優華さんに惚れたとか?
「じゃあ行こっか!」
優華さんは出口へと向かった。そんな優華さんを俺は呼び止める。
「ここに来た理由を忘れていません?」
「あ」
優華さんは思い出したかのように、俺のほうへと戻ってきた。
「そうだそうだ。借りるんだったよね。どこで聞けばいいんだろう?」
「まず、管理人に聞くんじゃないですか?」
「どれどれ?」
優華さんは周りを見渡している。
「あの人じゃないですかね?」
ここの端でテレビを見ながら座っている、いかにもここの従業員らしい人のほうを俺は見た。
「ちょっと聞いてくるね」
優華さんはトコトコと歩いていき、その従業員の人と話しはじめた。
数回会話をした後、なにやら盛り上がっているみたいだ。
優華さんのことだから、結局話に行った理由を忘れて、ただ会話を楽しんでいるだけなのだろう。
まぁ、始まる前から分かっていたことだが、こういう施設の休憩所を借りるなんてことは、一般人の俺達には不可能に近い。
優華さんも例外ではないのだ。
このスキー場に入れば、有名人もただの客。一般人として扱われる。
優華さんを眺めていること5分。優華さんは手を振って、従業員との会話が終わったのかこっちへと戻ってきた。
「ここで撮影する許可とれたよぉ」
…はやっ!!