5−5
え?
誰もがそんな顔をした。
「え、あ、ごめんね! 明日香ちゃんの彼氏だもんねぇ。そりゃ、無闇に触ったら怒られちゃうか」
テヘッというような顔をして、優華さんは一瞬冷たくなった場を和ませた。
「い、いや、そういう意味じゃなくて…」
明日香は多分、俺を助けてくれたのだろう。
「それじゃあ、明日香ちゃんも戻ろっ! 今日はねトランプ持ってきたんだ。沢ちゃんも一緒にするよね?」
沢先輩は珍しい敬語を使って、優華さんに肯定の言葉を返した。
「じゃあ、行こう行こう!」
優華さんはありったけの笑顔で、俺達三人をその場から連れ出した。
「あ、あの優華さん!」
部屋に着くなり、明日香が優華さんの名前を呼ぶ。
「どうしたのぉ?」
「さ、さっきはすみませんでした!」
「全然気にしてないよぉ! 私こそごめんね? 明日香ちゃんの風紀君だって言うのに…」
「そ、そういう意味じゃないんですってぇ…」
明日香は泣きそうな声で優華さんにそう訴えかけていた。
それにしてもこの状況、天国というべきか地獄というべきか。
学校一美女と言われている明日香、超有名芸能人の優華さん、そしてこれから表舞台で活躍するであろう沢先輩と一緒にトランプをしている。
普通に考えたら幸せなのだろうが、女性恐怖症の俺にとっては地獄に近い。
「はい、風紀君の番だよっ!」
優華さんは笑って俺のほうへとトランプを向けてきた。
今、ババ抜きというゲームをしている。小さいときは亮平たちとよくやったもんだ。負けたら腕立て100回とかな。
「優華さんは彼氏さんとかいないんですかぁ?」
明日香は俺からトランプを取ると、優華さんのほうをむいてそう言った。
おいおい、その向きあきらかに沢先輩にトランプ見られているぞ。お前、ババ持ってるんだから注意しろって。
「彼氏? いないよぉ。事務所がうるさくてね、作れないの! その分明日香ちゃんは羨ましいなぁ。こんなカッコイイ彼氏がいるんだから。今のうちだよ? 明日香ちゃんも」
…今のうち?
「え、どういう意味ですか?」
俺は優華さんからトランプを引くと同時にそう聞く。
「どういう意味って?」
「その、彼氏は今のうちっていうのは…」
「だって、明日香ちゃん女優になるんじゃないの?」
「そ、そうなの…か?」
「え…えー!? 私なんかに女優は無理だよぉ!」
明日香はトランプをブンブン振りながら俺達にアピールしている。だから、それじゃあ沢先輩に見えるだろって…。
「私はてっきり女優になる気なのかと思ったのにぃ。こんな可愛い後輩が出来たら嬉しいのになぁ」
優華さんは明日香の頭をナデナデし始めた。
「で、でもぉ、私演技力無いですし…」
「私、龍が撮った一昨年の映画を見せてもらったんだけど、明日香ちゃんの演技力はすごかったよ。沢ちゃんからいっぱい話し聞いたんだから」
いったい何を聞いたのだというのだろうか。
「風紀君は結構自然にあの役をやっていたよね。素晴らしいと思ったよ。今回、龍が主役に推すほどの人だってよく分かったもん」
ニシシといたずらっ子のような顔をしながら優華さんは俺の演技について語り始めた。
「今回の映画、ここ最近で一番ワクワクしてるんだぁ。出演者がこういう風に頑張るなんて、あまりやったこと無かったしねぇ」
「結構大変ですよ? 優華さんの休憩所を借りるなんて、結構大変な話だと思うんですよ。なんたって、俺達は部活動なのでお金とかはそうそう出せませんし」
「そっかぁ、そこは明日風紀君に頑張ってもらうしかないでしょっ!」
「で、ですよねぇ…」
やっぱり俺は優華さんのお手伝いのようだ。
「明日香は明日、何するか聞いてないのか?」
「ううん。だからね、あとで亮平君にどうするか聞きにいこうと思うの」
「じゃあ、俺が戻るときに一緒に来るか」
「うんっ!」
明日香はニコッと笑って、俺の手札からトランプを一枚引いた。
「やった!」
いつの間にか残り1枚となっていた明日香の手札は、沢先輩に引かれてなくなってしまった。
ババをずっと持っていたというのに、こうもすんなり上がるなんて、どういう運の持ち主なんだ。
ということは、今は沢先輩の手札にトランプがあるはず。
優華さんが沢先輩からトランプを引く。何も行動を示さず、次は俺にトランプを引かせるように、トランプを向けた。
左から2番目のトランプを引くが、俺の手札とはどれ一つとして一致しなかった。
なんたってそれは、ババだったのだから。
「……」
結局そこから一度も沢先輩にババを引かれることなく、このトランプゲームは終了した。
「風紀野郎、ちょっとは楽しませろよ」
「す、すいません…」
なんで謝らなくちゃいけないんだ。
俺は亮平のところへ戻るといって、その場に立った。明日香ももちろん、俺に続いて立つ。
「んじゃ、明日香連れてきますねぇ」
「襲うんじゃないぞぉ」
「襲いませんよ!」
沢先輩の言葉に俺は返事をして部屋を出た。
「明日香」
「何ぃ?」
「亮平に何かされたらすぐに俺に言え。すっ飛んでいくから」
「ん〜? よく分からないけど、何かあったら風紀にいえばいいんだね?」
「あぁ」
「分かった!」
ニコッと笑って、明日香は亮平がいるであろう俺達の部屋へと走っていった。
読んでくださってありがとうございます!
更新遅れてしまって本当に申し訳ないです…。
最近、ちょこちょこ私も忙しくなってきまして、小説を書く時間がないんですよね。
大分、更新ペースは落ちるかと思いますが、頑張って書いていきますので最後までお付き合いの程お願いします。