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夏休みが明け、少し時間が経ったある日、亮平は映画研究部のみんなの前に立って話し始めた。
「え〜、夏休み前にも言ったとおり、今年の文化祭は12月の冬休み前日に行われることが決定しました」
高校三年生にとって、一番大事な時期にそんな行事をするとは、何を考えてるんだ校長。
「校長先生が言うには、みんな勉強尽くしだろうから、文化祭という行事で息抜きをしてほしいとのこと。まぁ、実際には今、校長先生はハワイへ出かけているだけなんだけどな」
さすがは情報通の清水亮平。校長先生の行く先さえもしっかりゲットしているのか。
「今年は学校初の冬に行われる文化祭ということで、映画研究部はなんと…北海道での撮影が決まった。12月の初日、土曜日からの一週間、北海道で映画撮影の生活になる」
12日1日からの一週間? って、お前学校はどうすんだ!
「学校はどうすんだ! みたいな顔をした風紀のために言うが、校長先生に頼んで、公欠という形になるようにしてもらった」
清清しい顔してそう言っているが、多分あいつは校長を脅したんだろう…。それにしても亮平、最近俺の心の声を読むようになってきた。
「あ、あの、私は家を一週間もあけるなんて…」
苺はガタガタと椅子を揺らしながら立ち上がってそう言った。でも、亮平はニコッと笑うだけで他に表情を変える様子は無い。
「大丈夫、その辺はもう苺ちゃんのお母さんとも話しをつけてるから。安心して一緒に合宿行こうね」
「え、あ…は、はひぃ!」
こんなところで噛むところが苺っぽい。
どんどん、亮平が沢部長っぽくなってきたのは気のせいだろうか。
怖い、怖い。
ん、でも待てよ。今回は誰が脚本を書くんだ? 去年は文学の文字が似合う光男先輩がいたから大丈夫だったけど…。
「そして今回の脚本はある人に頼んだ」
「え?」
本当にこいつは俺の心が読めてるんじゃないか? このタイミングで言い出すなんて。
「一昨年、見事映画で賞を獲得した金森 龍先輩に頼んだ。多分、脚本の出来は天下一品だと思う。みんな期待しろよ」
亮平がいつもの笑顔をみんなに振りまくと、いつも静かな映画研究部の皆がざわつき出した。
そう、龍先輩と言ったら超有名大学に進学した人なのだ。未来がとっても期待されている人物。
「んじゃ、とりあえず話はこれで終わり。また詳しいことは後日話すからな。あ、そうだ。今回の映画にはスペシャルゲストも参加してくれるといっていた。誰とはまだ言わないが、誰もが喜ぶ人だといっておこう」
解散、と亮平が言うとみんなはざわざわと席を立ち始めた。
「龍先輩の脚本かぁ…」
隣で神子をギッシリ抱きながら座っている明日香がそう言った。
「ちょ、あ、あ、明日香センパイ! そろそろ離してくださいぃ…」
恥ずかしいのか、部活が終わるとジタバタし始めた。
「えへへ」
明日香は神子をすっと離すと、ニコニコ笑い始めた。
「ふぅ、それにしても龍さんって言う人はそんなにすごい人なんですか?」
「あぁ。脚本は誰もが認めるぞ。生活面は別として。神子達の入部案内のときに見た映画覚えているか?」
この映画研究部は、入部するときに昨年作られた映画を見るようになっている。
神子達が見たのは、高校生活最後の龍先輩の作品だった。
「もちろんですよぉ! 明日香センパイと、風紀野ろ…センパイが主役の映画ですよね? とっても感動したんですよ! 涙流している友達も居たほどなんですから」
「おい、一瞬風紀野郎って言いそうになっただろ。まぁ、龍先輩のセンスは抜群だ。その辺は心配しなくていい。それにしても、亮平のスペシャルゲストっていうのが気になる…」
あいつがあんな笑みを浮かべるときは、何かあるときなんだ。
昔からあの笑顔を恐れてきたからな。嫌な予感しかしない。
「スペシャルゲストはスペシャルゲストだ」
そう言って俺の後ろから現れたのは亮平だ。
「誰なんだよ?」
「秘密だって言ってるだろ。まぁ、12月まで楽しみにしておくんだな」
「……」
ちなみに亮平は一度言い始めたことは頑固として言い直さない。
「わかったよ、その日まで楽しみにしておくよ」
俺は両手をあげ、降参ポーズをとると明日香の名前を呼んだ。
「帰るぞぉ」
「あ、待ってよ風紀ぃ」
「ねぇ、亮平君のスペシャルゲストっていうのが気になるねぇ…」
明日香はキッチンで料理を作りながら、リビングで腰掛けている俺に言ってきた。
「あぁ。けど、あの亮平のことだ。一度言い始めたら、頑固として譲らないからな。12月を待つほうが懸命だと思うぞ」
「だよねぇ」
はぁ、とため息を明日香がつくと、俺の隣に座っている亮平がやっと口を開いた。
「お前達、俺がここに居ないような雰囲気で会話をするんじゃない」
「あ、亮平君いたんだよね! すっかり忘れてた!」
包丁を片手に、明日香はエヘヘと笑いながらそう言った。
こいつ、本当に忘れてやがった…。
「…まぁ、そういうのはその日まで隠しておくのがいいだろ? 早めに知って変なことされても困るしな」
「変なことって?」
俺が聞くと、亮平は変なことは、変なことだ! と言うだけだった。
「12月かぁ」
「あぁ、12月だ」
「12月って、北海道はもう雪降ってるのかな?」
俺を質問を投げかけると、亮平は真顔で答えた。
「降っているだろ? なんたって一年中寒い北海道だぞ?」
「いや、さすがにそれは無いだろ…」
「雪が降ってなかったら、北海道を選んだ意味が無いしな。冬と言ったら雪。雪と言ったら女だろ」
どっから雪から女に繋がるんだ、この女好きの亮平め。
「ほら、雪女って言うじゃないか」
それは架空の世界の生き物だっつぅの…。
そして時間は過ぎ、12月となった。
皆さん、読んでくださってありがとうございます!
今回(次回)から合宿編がスタートします。
多分、話がとても長くなるので何節かに分けて書きたいと思います。
とりあえず、スペシャルゲストがもうすぐ登場?
スペシャルゲストとは…あ、やっぱ内緒の方向で。
更新のほど遅れて申し訳ございません。
ご感想お待ちしております。