4−4
「本当に見つからないんだねぇ…」
「あぁ、結構色々な場所探したよな」
あれから1時間が経った。
だれかが宝を見つけると、放送で祭り中に名前と、記録を言われる。だけど、一時間経っても、まだ放送される雰囲気はなかった。
「恥を覚悟で、色んな屋台のおっちゃんの身体を調べさせてもらったんだけどな。やっぱりそう簡単に出てくるものじゃないか…」
「風紀君、諦めちゃ駄目だよ! 一緒に頑張ろうね」
「おう」
それから、色々なところを探した。
草むらの中や、たこ焼き屋の鉄板の中とか。まぁ、あるわけがなかった。
「そういえば、他の人たちは順調なのかな?」
草むらの中を捜索していると、後ろから五十鈴がそう言った。
「さぁ? けど、まだ放送されてないってことは、順調ではないだろう」
「そうだよねぇ。あ、そういえば去年って、神社の賽銭箱の下にあったんだよね? 一度行ってみない? その神社!」
「え? いいけど…」
「けど…何?」
「…いや、なんでもない」
「変な風紀君」
アハハと笑って、五十鈴は俺の前を歩き出した。
言えるわけ無いだろ。そこが、この祭りでカップルがたくさん居る有名な場所だなんて。もちろん、夜にこんな人影がいないところでカップルがすることなんて大体決まっている。
「階段長いねぇ…」
100段はあるだろう階段を見上げながら五十鈴はそう言った。
「そうだな。五十鈴って一度も神社に行ったことないの?」
「無いよ! こんな階段上がって行こうだなんて思わないもの」
「そ、そりゃそうか」
神社に行ったことがあるなら、あの噂だって耳したことあるんじゃないのか?
「ほら、早く行こうよ!」
「……」
今更そんな噂も言えるわけも無く、俺はただ階段を上っていく五十鈴に付いていくしかなかった。
「うわぁ、真っ暗で怖いねぇ…」
階段を上がりきった俺達を待っていたのは、暗闇と静寂だった。
「服、掴んでもいい…?」
「は…?」
五十鈴の思いがけない言葉に、俺は戸惑いを見せてしまった。
「え、あ…だ、駄目だろ」
いいとは言えない。こんなところで倒れるわけにはいかない。
「そ…うだよね。風紀君には明日香ちゃんが居るし。変なこと言ってごめんねっ」
「いや、その…」
五十鈴は俺の言葉を聞こうとはせず、先に進んでいってしまった。
俺は去年、お宝が潜んでいた賽銭箱の下を見た。
…もちろんあるわけない。
「去年と同じところに隠してたら、宝探しにならないもんなぁ…」
賽銭箱の下に無くて、一回地面に腰を下ろしたときだった。
「きゃっ!」
少し離れた場所から五十鈴の声がした。
「五十鈴…?」
もしや、何か見てしまったか?
声がしたほうへゆっくりと近づいていくと、尻餅をついている五十鈴の姿があった。せっかくの浴衣が台無しだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
五十鈴は俺の存在に気がつくと、すっと立って近づいてきた。
「…えっと、その」
「……」
「……」
少し長い沈黙が続く。
もう、五十鈴が何を見たのかは一目瞭然だった。それと同時に、ここの噂は本当だったんだと実感した。
「お、降りようか」
「う…ん」
五十鈴は俺に近づいてきて、そっと服を掴んできた。
ビクッ!
体が反応する。まさかのタイミングだった。
「い、五十鈴?」
離して。
そういおうとしたとき、五十鈴の声は震えていた。
「…ふ、風紀君」
「五十鈴…?」
まだ体を直接触れて居ないからか、意識が遠くなることはなかった。
「ご、ごめん…。なんでもない」
五十鈴は浴衣の袖で目をゴシゴシすると、いつもの笑顔に戻った。
「さぁ、降りようよ!」
ニコッと笑う五十鈴に、俺が安心するわけがなかった。
こんなところに連れてきたのは俺だ。
「ごめん、五十鈴」
「なんで風紀君が謝るのよ! ちょっとビックリしただけ。ね? 早く行こっ!」
俺は五十鈴に従って、階段を一段、また一段と降りていった。
そのとき、放送から聞こえてきたのは悠太と静香の名前だった。
記録は1時間30分。
そして、残り時間が半分というのを知らせる放送でもあった。
読んでくださってありがとうございます。
いきなりですが、五十鈴が好きなのは作者だけでしょうか。
なんかパッとしないのが可愛いんです。
さて、二日に一回の更新ペースも保てるか分からなくなってきました。とりあえず、出来るだけ更新を早めに早めにとしていきたいと思っています。
ではまた会いましょう。