4−2
「うわぁ、すごい人だねぇ…」
毎年、100組近く参加しているこの宝探しゲーム。
2人1組になって、この祭りの中に隠されている10個の宝を探して見つけるゲームなのだが、いつもとっても分かりにくいところに隠されている。
去年は確か、たこ焼き焼いているおっちゃんのズボンのベルトに引っかかっていたり、祭りのほぼ中心部分にある神社の賽銭箱の下にテープで張られていたり、凡人では決して見つけられないような場所に隠してある。
俺達が前に参加したときは、140組ぐらいが参加していたっけな。
受付は、夕方の6時まで。
今の時間は3時だからまだまだ余裕だ。
会場に近づくと、宝探しゲームの放送がうっすらだが聞こえてくる。
「今年は22回記念といたしまして、男女カップルのみの参加となっています…」
…ん?
男女カップル…?
「おい、風紀…」
「…明日香、宝探しゲームせっかくだしやるか?」
俺がそう聞くと、明日香は迷い無く頷いた。
「……」
「……」
「「明日香っ!」」
俺と亮平の声が重なった。
「明日香、はし…」
走れと叫ぼうとしたとき、亮平は明日香の手をとって走り出した。
あの野郎!!
「風紀はゆっくり来いよ!」
明日香は戸惑いながらも、亮平に手を引っ張られながら走っていた。
…走って?
遠くのほうで、へなへなと明日香が倒れた。
そういえば、明日香は全くといえるほど体力が無かったのだ。
亮平はそんな明日香を抱きかかえる。
「おい、亮平!」
俺は明日香のもとへ近づこうとしたが、明日香は亮平の肩を借りながら歩いていた。明日香に向かって、亮平は謝っているみたいだ。
なんっていうか、美男美女…。俺の入る隙間が無さそうに思えた。
そんな時、俺の後ろから声が聞こえてきた。
「ふ、風紀君?」
「あれ、五十鈴じゃん」
浴衣姿の五十鈴の横には、普段着の沙希と、夏祭りによく似合う浴衣を着た静香が立っていた。
「あれ、風紀君一人なの?」
「…あぁ、ちょっと逃げられてしまってな」
「何に?」
不思議そうな顔をする五十鈴。ちょっとからかってみるのも面白いかも知れない。
「幽霊にさ。さっきそこで幽霊に出会ったんだけど、名前聞いたら逃げられちゃってさ」
「え、そうなの!?」
と、俺の嘘を信じる五十鈴。
「って、五十鈴! そんな馬鹿風紀のいうことなんて信じちゃいけない! おい、馬鹿風紀。よくも五十鈴をからかってくれたわね」
沙希は表面上笑っているように見えるが、実際全く笑っていない。まさに鬼の顔だ。
「誰が鬼の顔ですって…?」
「ふ、風紀君、声に出てたよ!」
またですか!!
「いや、その…別に沙希のこと言ったわけじゃねぇぞ? そのなんだ、ただ鬼のようにすごいなって!!」
「フォローになってないわ!!」
沙希から放たれる右拳を俺はすっと回避した。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇんだよ!」
「そんなの知らん!」
再び繰り出される左キックを俺は後ろに下がって避けた。
「明日香が拉致された!」
そう叫ぶと、あの沙希の攻撃も止まった。
「誰に!!!」
「亮平に」
俺がそういうと、目の前に立っている三人は意味が分からないような顔をしながら止まった。
「なんで、亮平君なのよ?」
「宝探しゲーム。今年は男女じゃないと出られないんだって。そんで、あいつが出たいがために明日香を拉致していった」
「…そこは、風紀と明日香が出るべきじゃないの?」
「そう思いたいんだがな…」
「そうだ!」
何かを思いついたかのように、沙希は手のひらをポンッとたたいた。
「五十鈴、風紀と一緒に宝探しゲーム出るの! わかった?」
「え、え!? なんで!?」
「なんでも、こうでも、そんでも無い! 出るって言ったら出るの!」
「どうして沙希じゃないの?」
「嫌よ、こんな奴とテレビに晒されるなんて!」
いくらなんでも、その言い方はひどいだろ!
「おい、沙希。嫌がってんだろ」
その案は俺も思いついたが、嫌がっている五十鈴を出させるわけにはいかない。
「…別に嫌じゃないよ」
「ほら、決定! さあ、気が変わらないうちに登録しておいで!」
そう言って、沙希は五十鈴の背中を押した。
「本当にいいのかよ?」
会場に向かう。
「ふ、風紀君が嫌じゃなかったら、私は全然いいよ。一度出てみたかったしね」
ニコッと笑う五十鈴の顔。その笑顔に少し、ドキッとした。なんだかんだ、映画研究部には美人が多い。さっき、一言も喋らなかった静香にも、コアなファンが居るらしいし。なんたって、あの明日香の次に可愛いと評された由美先輩の妹なのだ。
「…五十鈴がそう言うなら全然いいんだけどさ」
明日香も亮平と登録したんだから、俺が他の女と出ても何も言わないだろう。ってか、言わせないし。俺は明日香と違って、手は繋いでないから!
会場に着くと、ちらほら宝探しゲームに登録している人が目に付く。そこに明日香と亮平はいなかった。
「はい、登録完了しました。宝探しゲームの説明は7時からこの会場で行いので、遅れないで来てくださいね」
受付の女の人がそういうと、俺達は一言返事をしてその場を去った。
それから俺達は明日香に連絡をとって、言われた場所へ行くと、そこには映画研究部三年生が全員集合していた。
「幸助、悠太。なんか久しぶりな気分になるな」
「だね、風紀も宝探しゲームに参加するんだよね」
「あぁ、悠太は参加しないの?」
「僕は静香ちゃんと参加することに決めたよ」
「じゃあ、幸助は沙希と参加か?」
「嫌よ、こんな奴と参加するなんて考えただけでも吐き気がしてくるわ」
沙希の痛いお言葉に、幸助はその場に崩れた。
「あれ、先輩たち、こんなところに集まってどうしたんですか?」
「朝美ちゃん!」
「あ、明日香様ぁ!」
朝美は明日香を見つけると、抱きつこうとして走っていくが、何かに躓いて俺のほうへ飛んできた。
って、ちょっと待て!
「おい!」
ドスン。
鈍い音と共に、俺は仰向けになるように転んだ。朝美は俺の上に乗っている。
「あ…さ…み」
「あ、風紀なんかにぶつかったぁ」
「な、んかっていう…な」
その場で意識が消えそうなのを我慢しながら、俺は口を開く。
亮平は俺の異変に気がついて、朝美は起き上がらせた。
「大丈夫かよ」
亮平は笑いを堪えた表情で俺を見下ろす。
「う…っせ」
身体に力が入らない。亮平は俺の手をとって引っ張りあげてくれた。
「大丈夫ぅ?」
明日香はちょこちょこと俺に近づいて、顔を覗き込んでくる。そんな目をするなって言いたい。
「あ、苺ちゃん!」
幸助が朝美と一緒に居た苺の存在に気付くと、駆け足で近寄っていった。
「え、あ…こ、こんにちひゃ!」
「苺ちゃん、俺と一緒に宝探しゲームに出ない? きっと楽しいよ!」
幸助はウハウハテンションでそう言ったが、苺はあの噛みようからは信じがたい言い方で軽く幸助をあしらった。
そこまでして、女子達は幸助と一緒に出たくないらしい。
「あれ、先輩たち宝探しゲームに出るんですか?」
「あぁ、朝美は出ないのか?」
「一緒に出る相手がいませんよ。まぁ、幸助先輩は私もお断りですけどねっ!」
痛恨の一撃をくらった幸助はその場に崩れた。
ドンマイしか言いようが無いな。