表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/61

1−2

風紀…。


風紀…!


「ん…デジャヴュか?」


そして俺は起きた。


記憶が飛んで危うく死んでしまうところだったが、なんとか息を引き止めたらしい。


「風紀ぃ、大丈夫?」


その甘ったるい声の持ち主は、すぐ判断できた。


「凛…」


俺の元カノである木村 凛だ。俺の女性恐怖症という体質を作った張本人である。


「…えっと、ここは?」


周りを見渡したところ、ここはどう見たって保健室だった。どうやら、俺はあの場で倒れて、ここまで運ばれたらしい。


「あ〜…初っ端からこれかよ」


これとは、俺がこの気絶状態に入ることを示す。


未だに女に触られたりすると、俺はたまに気絶してしまうことがある。なんとも恥ずかしいことだ。


「教室に戻る」


記憶の片隅にあるものを引きずり出した。掲示板で見た俺のクラス…確か3年2組。なんの因縁なのか知らないが、俺は3年連続2組なのだ。


俺は保健室を出ると、真っ先に教室へと向かった。その後ろを、凛は無言で付いてくる。


「……」


こいつが喋らないと逆に気持ち悪い。何か企んでいるんじゃないのか?


そう思ってみたが、何事もなく教室に着いた。


しかし、事件が起きたのは教室に着いてからの話。


「って、誰もいねぇじゃん!!」


「始業式は教室で起きてるんじゃない! 体育館で起こっているんだ!」


今このセリフかよ! ってツッコミたくなるほど、馬鹿なボケをした凛。しかもそのネタ少し古いし。


「何で言わなかったんだよ!」


そのツッコミをスルーすると、凛は拗ねたように頬を膨らましてこういった。


「だって、風紀と二人っきりになりたかったんだもん!」


「…よし、体育館に行こう」


「でも、始業式もう終わるよ?」


「……」


そして、俺は無言で自分の席に着いた。













「あれ、風紀じゃない! おかえり!」


いつもの天使のような笑顔で、明日香が教室に入ってきた。


「ただいま」


「風紀、戻ってきたんだ」


明日香の隣にいる沙希がおれの方を見てそう言った。こいつは、明日香の友達で水谷 沙希って言う。通称、怪力女。


「か、怪力女だと…?」


「え、え!?」


なんで、こいつは俺の心を読めるんだ!? まさか、エスパー!


「お前、口に出していないつもりだろうけど、はっきり言葉にしてたからな」


と、龍之介が忠告してくれた。どうやら口に出ていたらしい。


「って、ごめんなさぁぁい!!」


俺が考えに浸っている途中だというのに、この怪力女…おっと、沙希は殴りかかってきた。


その光景を、明日香はクスクス笑いながら見ている。


こんな生活が続くとばかり思っていた。


しかし、現実はそんなに甘くない。


いきなり、俺に地獄が降りかかってきた。


「いたぞ! あれが風紀だ!」


俺の名前を呼んだそいつは、どっかから湧き出てきた男Aだ。どうやら、明日香のファンクラブの幹部的存在らしい。


そいつの後ろにいる奴の顔は見たこと無いから、多分新入生なのだろう。明日香目的で、この学校に入学するという噂も聞いたことがあるからな。


「ゲッ」


俺はそいつらを見ると、即その場から逃げ去った。あいつ等に初めて捕まったとき、俺が外傷のない程度だが、かなり痛めつけたというのに、こいつらは俺を避けようとしない。そんな奴等は初めて見た。恐ろしや、明日香ファンクラブ。


いつも逃げる場所は決まって、五十鈴がいる303教室。なぜかこいつ等は、五十嵐(いがらし) 五十鈴(いすず)がいる教室に入ってこようとはしない。他人を巻き込むことを嫌がっているのか? よく分からないが、いつも五十鈴に助けてもらっているのは確かだ。


そうそう、五十鈴とは俺と同じ部活で活動している女の子。柔道、空手、合気道を習っていて、本気になれば俺より強いはず。まぁ、この子は根が優しいから、暴力を振るおうとはしない。実際に、こいつが喧嘩や手をあげているところを見たこと無いからな。


「また、追われてるの?」


五十鈴は、いつもの呆れた笑顔で俺を出迎えた。


「あれ、風紀じゃん」


そう言って、俺に近寄ってきたのは山田(やまだ) 幸助(こうすけ)


「あ、映画研究部のムードメーカー的存在の山田幸助君、おはよう」


俺はニッコリ笑って挨拶をすると、白い目で見てきたから殴ってやった。


「な、なんだよ!! しかも、何なの? その俺を説明するような言葉は!」


「細かいことは気にするな」


こいつと深く会話をすると、後が面倒だからな。適当に流しておくのが一番なのだ。


「まぁ、いいけどさ」


幸助はふてくされたような顔をして、その場から立ち去っていった。


「3年生初日というのに、風紀君は人気だね」


五十鈴、それは分かっていっているのか? それとも天然なのか? 最近のこいつはよく分からない。いわゆる不思議系というやつだ。


「いつもありがとな。じゃあ、俺教室に戻るわ」


俺は五十鈴に片手をあげ、手を振ると教室から出て行った。














「お前、人気者だなぁ」


教室に戻ったら、今度は亮平から言われた。


こいつも、五十鈴と一緒か? …いや、こいつは分かっていっている。なんたって、この街一の情報通だからな。


「うっせぇ。お前ほどじゃねぇよ」


そういうが、亮平は何のことか分かっていない。こいつ、情報通なのに自分が、女子から人気があることに気付いていないのだ。


猫に小判というか、豚に真珠というか…。


…どっちも一緒か。


「はぁい! 皆席についてねぇ♪」


教室のガラッと開かれたと同時に、あのいつものテンション高い伊豆野(いずの) 小百合(さゆり)先生が入ってきた。この人が担任ならば、俺は3年間一緒ということになる。


「今年も、3年2組を担当するのは、この私でぇす♪」


どうやら、どいつもこいつも期待を裏切らないようだ。


「じゃあ、これからの日程の説明をするからねっ! ちゃんと聞いていないと、私の…きゃっ! 恥ずかしくて言えないぃ♪」


と、顔で手を隠しながら、クネクネと先生は体を動かしている。


先生、どうやらまた一段と変なテンションが増したようだ。恐ろしい。


「風紀っ、風紀っ」


横に座っている明日香に目をむける。こいつとは、去年は少し席が離れていた。だけど、今年は隣同士。一年生のときを思い出す。


「なんだよ」


あのハイテンション先生にばれないように、俺達は小さな声で話し始めた。


「今日、帰りに買い物付き合ってね」


ニコっと笑う明日香の願いを、この俺が断れるわけもなく、1秒もまたずにOKの返事をした。


「ありがとっ!」


天使の笑みを俺に向けるこいつは、俺の最高の彼女だな。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ