4−1
「ねぇ、風紀ぃ…」
実家へ帰っていた明日香が帰ってきてから数日がたった。
もう、夏休み終了間近となっている。
そんな時期に、俺達の町ではある行事が行われていた。
「何?」
「夏祭りいこうよぉ」
夏祭り。
子供から老人まで、誰もが楽しめる夏祭り。だけど、俺は楽しめないのだ!
「い・や・だ」
なんたって、そこは女子が大量に沸く場所。ということは、俺が気絶する可能性大。
「ねぇねぇ…」
さすがに明日香の願いでも駄目なのだ。夏祭りで倒れてみろ。病院騒ぎになるに違いない。そんな恥ずかしい事はごめんだ。
「もうっ!」
明日香は怒って、俺から視線をそらした。
「じゃあ、俺と一緒に行こうか?」
いつの間にか家の中へと入り込んでいた亮平がそう呟いた…って
「おい! お前、勝手に人の家に上がりこんでるんじゃねぇよ!」
「いいじゃないか、人間だもの」
なんだよ、失敗したって…みたいな言葉吐きやがって。
「親しき仲にも礼儀ありっていう言葉があるだろうが!」
しかも、亮平と明日香を二人っきりで祭りに行かせるかっちゅうの!!
「お前、あまり叫ぶと…はげるぞ?」
「余計なお世話だ!」
やべぇ、叫びすぎて息切れしてきた。
「風紀、大丈夫ぅ?」
「あ、あ、あぁ…」
「まぁ、亮平君はもう親しき仲を超えちゃってるから大丈夫だよ!」
どこが大丈夫なんだよ。
「風紀のせいで思いっきり話が逸れたが、俺は今から夏祭りに行こうと思うんだけど、明日香も一緒に行くか?」
「うんっ!」
って、即答かよ。
「ま、待てって! 俺を置いてくのかよ?」
「風紀は来ないんだろ?」
「……」
そうだ、さっき明日香に言ったばかりだった。
「明日香も家に居るよな…?」
「そんな明日香を縛るなよ」
……。
亮平にいたいところを付かれてしまった。
「ほら、風紀も一緒に行こうよ! 絶対楽しいって!」
そして、結局根負けする俺だった。
「うわぁ…やっぱり人がいっぱいいるねぇ」
4日間にかけて行われるこの夏祭り。どこかの放送局も大々的に毎年放送するらしい。
「やっぱり人気だな」
明日香をはさんで、向こう側にいる亮平がそう呟いた。
「…やっぱやめとけばよかった」
「もうっ、風紀そういうこと言っちゃ駄目なんだから!」
「でもさぁ…」
「あ、兄貴っ!こんにちはっす!!」
声が聞こえたほうに目をやると、そこには篠井 俊がいた。ちなみに、兄貴とは俺のことだ。一年生歓迎会で俊をボコボコにした後、こいつは俺のことを兄貴と呼ぶようになった。
なんか一気にガラッと俺に対する接し方が変わって、俺自身ちょっと困惑している。
「お、おう」
「明日香先輩と、亮平先輩も一緒でしたか! こんにちは!」
「俊君、こんにちは。隣の女の子は彼女かな?」
ニシシと笑って明日香が聞くと、俊はいえいえと言葉を返した。
「ひっどぉい! 千佳は、俊の彼女じゃないのぉ?」
「これからだよ、これから。今はお試しって感じだろ?」
俊がニッコリ笑うと、女のほうはでれっとして、そうだねぇと呟いた。
「んじゃ、兄貴っ! また部活で会いましょう!」
そう言って、俊は頭を下げると、女の腰に手を回して歩き出した。
あいつのスキンシップは相変わらずだな。
「あ、亮平センパイ! 明日香センパイ!」
まだ俊と別れてから数秒とたっていないのに、またもや映画研究部の奴等が現れた。この祭りって…結構広いはずだよな?
「神子、俺の存在忘れてないか?」
俺がニッコリそういうと、神子はこっちを振り向いて、すいませぇん。と謝ってきた。まぁ、その言い方的に謝る気0っていうのは分かる。
「あ、神子ちゃぁん!」
そして、恒例のごとく、明日香は神子を抱きしめた。
「ちょ、あ…明日香センパイッ!!」
「なにぃ?」
「や、やめてくださいよぉ」
泣きそうになりながら、必死に抵抗している神子を見ると面白い。
「明日香、離してあげなよ。佐原の友達が見てるぞ?」
亮平がそういうと、明日香はすっと神子を離した。もう少し見てみたかったのに。
「もう、明日香センパイィ…」
やっと開放された神子は、ふらふらになりながら俺達(俺を除く)に頭を下げて友達のところへと戻って行った。
「そういえば、夏祭りって言ったらやっぱり、宝探しゲームだよな」
「あ〜、毎年恒例の…。中学生のとき、亮平と参加したんだよな」
「あぁ、結構楽しかったな」
もちろん、優勝は出来なかったが、亮平的にはみんなの注目を浴びれたことが嬉しかったらしい。なんたってこれはテレビ中継されるんだから。
「明日香は出たこと無いの?」
「私、夏祭り今年が初めてだしねぇ…」
そうだ、去年は俺が嫌だと言い切ったはず。実家が遠いところにある明日香にとっては、この祭りは初めてということか。
…せっかく来たんだしな。
「会場へ向かってみる?」
俺が明日香の顔をチラッと見てそういうと、明日香は天使の笑みで頷いた。
やっぱ可愛いな。
夏祭り編が始まりました。どうか楽しんで読んでやってあげてください。
感想、評価をいただけると、作者は嬉しくて涙が出てしまうことでしょう。
では、また…。