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3−4




「わ〜い!」


明日香は嬉しそうな顔で、ベストカップル賞で貰った商品を抱えていた。


「お前、それどうするんだよ?」


明日香が手に持っているそれは、iPotという音楽を聴く機械らしい。


「ちゃんと使うよ! もったいないじゃん!」


「でも、家にはパソコンないぞ?」


「あ」


明日香はいっきに落ち込むと、そのiPotを俺に渡してきた。


「俺も持ってるんだから、俺に渡すなよ!」


俺はそのiPotを明日香に返す。


iPotはベストカップル賞、トップの景品だった。


そう、俺と明日香は見事一位に選ばれたのだ。二位と一位に選ばれた明日香はさすがとしか言いようが無い。


「それにしても、風紀には笑ったよなぁ」


「うっせぇ!」


俺はご飯を口に運びながら、亮平にそう言った。


あの時、俺はショックのあまりMC女の声を聞いていなかった。ということは、呼ばれても気付かないわけで…。


結局は近くに居た女の人に肩を叩かれ、その場で倒れてしまったというオチ付きだ。


なんとも恥ずかしい。


ちなみに二位の商品は、商品券1500円分だった。俺には関係ない話だけど。


三位に選ばれた智也と凛は、壇上で一言も会話をするような素振りを見せなかった。MC女のインタビューにでさえ、素っ気無い返事をするだけ。


やっぱり、俺がいない間に二人の仲はこじれたようだ。多分、俺のせい…いや、絶対俺のせいだろう。


「ふ〜う〜き♪ どうしたのぉ? そんな難しそうな顔をして」


ハテナを頭の浮かべながら、明日香は俺の前に現れた。今日だけで、もう5回以上はされている気がする。そのたび俺の心臓がバクバクなるのだから、心臓に悪い。


…本気で嫌な気はしないが。


「智也君のことでしょ?」


いつもあんなに鈍い明日香が、今日は鋭い。図星をつかれて、俺は焦った。


「え、あ、違う!」


「ほらぁ、そうなんじゃない」


ニシシと笑いながら、明日香は風紀をじっと見た。


「言ったでしょ? 風紀が嫌な思いを抱えているなら一緒に解決したいの。智也君なんでしょ? 風紀の言ってた…あれって」


あれとは多分、俺が凛に浮気された時の話だろう。


「あぁ」


「じゃあ、一緒に解決しなくちゃね!」


明日香はニッコリと笑って、智也のいるほうへ歩き出した。


「こんにちは!」


俺は仕方なく、智也へ向かう明日香の後ろにつくことにした。


「あれ、明日香さん?」


どうやら、さっきの賞での出来事で、明日香の名前は一躍有名になったようだ。亮平の話では、あの投票用紙には『風紀の彼女』と書かれていたものもあったそうだ。


「ご一緒させてもらってもいいですか?」


明日香は遠慮する気もなく、智也が中学校の友人達と話している間に割り込んでいく。まぁ、それを止めるものは誰一人としていないけどな。


「ほら、風紀もっ」


明日香は手で招くように、俺を呼んだ。気まずいながらも、他の友人達に挨拶をしながらその集団に割り込んでいく。


明日香は俺と智也の間に居た。


「智也君はさぁ」


明日香が空気をぶち壊すと、そのとき思った。


「凛ちゃんと何かあったの?」


「「は?」」


俺と智也の声が重なった。


明日香の放ったその言葉は俺達にとってはタブーな存在。


触れてはいけない話題。


それを軽々も、明日香という奴は触れてしまった。


「えっと、何かって…」


智也が俺をチラッと見た。そうか、俺がいると言い難い事か。


俺が気を使ってその場から離れようとしたとき、明日香は俺を見た。


『離れないで』


目で訴えかけてくる。俺が女に触れない身体じゃなかったら、多分明日香は俺の体を掴んでいただろう。


「…俺は風紀から凛を奪ったんだ」


智也は腹をくくったかのように話し始める。


「凛は風紀が好きだった。俺は単なる寂しさを紛らわすための存在だったんだ」


「それ、凛ちゃんに言われたの?」


「言われてないけど、態度で気付くよ。風紀が居なくなってからの凛はすごかった。あんなに取り乱した凛は見たことがなかったし、俺も自分の罪の大きさに気付いて凛に構ってあげられなかったから」


智也、それは違う。


「凛を元に戻せるのは風紀だけだと思った。だから、あの時風紀に謝ったんだ。だけど本当はあの時、まだ凛が好きだった」


「俺が殴った…とき?」


「そう。あのパンチは痛かったな。心にまで響いてきたよ」


智也は思い出すと、小さく微笑んだ。


「それから俺は凛に別れ話を切り出した。凛は俺と同じ気持ちで、すぐに返事をくれたよ」


その後に智也は、凛は俺に愛想尽きたんだと呟いた。


だけど、智也、やっぱりそれは…


「それは違うよ」


俺が言おうとした言葉を、明日香は誰よりも早く口にした。


「凛ちゃんはそういう子じゃない」


「でも、明日香さ…」


「智也」


俺は明日香に言葉を発しようとしているのを止めた。


「凛は携帯のロック番号を何にしていたか知ってるか?」


智也も知っているはず。凛が携帯のロック番号を人の誕生日にすることを。


「風紀だろ?」


「いや、お前だ」


「え?」


「智也の誕生日だった。俺も、俺自身であることを願っていたんだけど、失敗に終わったよ」


俺は笑うが、智也は笑わない。


そう、知っている。智也も知っている。


凛がロック番号にいれる誕生日。


それは、一番大好きな人の誕生日。


「分かっただろ? 智也。あの時の一番はお前だったんだよ」


「風紀…ごめん」


智也は放心状態になりながらも、俺に謝ってきた。


「いいんだよ、俺には今…明日香がいるし」


俺はテレながら言うと、明日香は俺を見てニッコリ笑ってくれた。


「だからさ…その」


そして、その笑顔は俺に勇気を与えた。決心する力も与えてくれた。


「また遊ぼうな」


俺がそういうと、智也は泣きそうな顔をして、おう! と答えた。


「あと、これだけは言っておかなきゃいけないと思うんだ」


「何?」


「俺、女と関わるのが苦手になったんだよ。病的なまでに」


それから、俺はこの症状を詳しく説明していた。


その間、智也の口は開いたままだった。


「…風紀、ごめん」


「もう謝るな。別に今は気にしていないんだ」


完全に…と言ったら間違いになるが、明日香に会う前に比べたら大分気にしないようになった。


あの、凛と智也と俺の事件を。















「それじゃあ、また遊ぼうな!」


俺は手をあげ、智也にお別れの言葉をかけた。


あれから少し、俺と智也は今までのことを語り合った。明日香のことから、学校で楽しかったこと。一年生の時の合宿の話などなど。


わずかだけど、昔の俺達に戻れた気がする。


「風紀、よかったねぇ!」


同窓会からの帰り道。


いつもの夕日を見ながら、俺と明日香は一緒に歩いていた。


「本当によかった。ありがとうな、明日香。お前がいたからだよ…」


「うんっ!」


明日香は今日、一番の笑顔を俺に向けてくれた。









やべぇ、可愛すぎて鼻血でそう。























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