3−3
「智也…」
その言葉のあと、俺は智也に何も言えなかった。しかし、智也は俺に話し続けてくる。
「あのときのことは、本当に悪かった。謝っても許されることじゃないことは分かっているよ。だけど、俺はもう一度風紀と友達になりたいんだ。前と同じように、三人で一緒に遊びたいんだ」
友達に? もう一度?
「……」
しかし、俺は何も答えられずにいた。それは迷っている証拠でもあり、何もかもに躊躇している意味を示していた。
「風紀、もっと食べようよ!」
明日香は俺の前にひょこっと現れて、俺に触れようとしてきた。
「うぉい! 明日香!」
もちろん、俺はいつものように明日香から一歩遠ざかる。
「エヘヘ、このお肉とっても美味しいんだよ! 風紀も食べてみてよっ!」
あ〜ん、と肉を俺の口元へ差し出した。俺はビクビクしながらも、ゆっくりと肉にありつこうとする。
で、でも明日香、俺たえられ…
「ふ、風紀!?」
バタン。
結局、俺はその場に倒れこんだ。
「風紀?」
「あ、すか」
俺は頭を片手で抱えながら、横になっている体を起き上がらせる。
「ごめんね、風紀」
泣きそうな声で言う明日香を、俺が怒れるはずがないだろう?
「大丈夫だよ」
俺が運ばれたのは、会場外のソファーらしきところだった。普段なら、あれぐらいでは倒れないようになったんだけど、多分今日は、智也のこともあって倒れたんだと思う。
それだけ、心に余裕が無かったってことか。
「戻れそう?」
時間をざっと見ると、倒れていたのは数十分のようだ。
「あぁ、戻ろうか」
俺がニコッと笑うと、明日香も安心したのか、大きく頷いた。
店の中へと戻ると、亮平が舞台の上で何かを話していた。多分、何か行事をしているのだろう。まぁ、今の俺には関係ないと思うが。
「では、ベストカップル賞を決めたいと思います!」
亮平が大きな声でそう言ったのが耳に入る。
ベストカップル賞だと? なんだ、いきなり。
「1位から3位までの順位付けがされます。別に、本当に付き合っている二人じゃなくてもいいです。この会場の中で、一番お似合いの二人を選出して、あの投票箱に入れてください。制限時間は、今から三十分です。入賞の人には、なんと豪華賞品が!!」
亮平がプロのMC並みの喋りを見せると、会場中が沸いた。特に、女の声が聞こえる。
昔から女に人気のあった亮平は、たびたび告白されるのを俺は見かけていた。中学校のとき、亮平のファンだった人も多いだろう。そして、もう一人、智也も女子から人気を得ていた。あの容姿、あの優しさを普通に考えて、女が放って置くわけがない。
…放っておくわけがないんだ。
「では、たくさんの投票お待ちしております」
亮平はマイクのスイッチを切ると、壇上から降りた。
「ベストカップル賞かぁ」
明日香は何かに憧れるように、そうつぶやいた。もしかして、明日香賞が欲しいのだろうか? まぁ、今日、男子から相当人気を得ているであろう明日香は、多分誰かしらと投票されているのだと思う。
その相手が、俺であることを祈りたい。
…だけどなぁ、さっきから皆から殺気が感じるんだよ。
俺はくるっと見渡すと、今にも俺を袋たたきにしそうな男達の目があった。
「はぁ…」
俺がため息をつくと、明日香はどうしたの? と聞いてくる。
「いや、明日香が可愛いと大変だよって思ってさ」
言ってから気付いた。俺、とても恥ずかしいこと言ってるじゃないか!
「え、か、可愛いだなんて…」
案の定、明日香の顔は赤くなる。
「おいおい、お二人さん…」
聞こえてきた声は、呆れた亮平の声だった。
「そこまでイチャイチャして、ベストカップル賞を取りたいのかよ」
「いや、ち、違う!」
俺は慌てて否定するが、ベストカップル賞に選ばれたら、本当に嬉しい。
「私は、取りたいけどなぁ」
「俺も欲しいに決まってんだろ!」
あ、またしても言ってしまった。
恥ずかしくて、多分顔が真っ赤になっていると思う。かと言う明日香は、恥ずかしがる様子もなく、ちょっと嬉しそうに笑っただけだった。まぁ、俺にとってはそれが幸せでもあるんだけどね。
俺達のそんなやり取りを見て、亮平はため息をついた。
「ベストイチャつきカップル賞は、お前等だよ…」
お前、何か余分なものが混ざってんだろ!
「もっと、イチャつこっか?」
明日香は小悪魔の笑みを浮かべながら、俺の顔をひょいと覗いてきた。俺は当然、恥ずかしくて目をそらしたけど。
「ほら、お前達も書けって」
亮平はそんなやり取りがもう嫌になったのか、俺達に投票するように進めてきた。
「はぁい」
明日香は手をあげ、紙に記入し始めた。それを見て、俺も書きはじめる。もちろん、俺と明日香の名前を。
「では、ベストカップル賞を発表したいと思います!」
あれから40分後。亮平ではなく、他の人が壇上に立っていた。その理由は、後に知ることになる。
「え〜と、同窓会長の清水亮平に代わりまして、この私が今回はMCをやらしていただきます!」
背丈は160cmに満たないであろう女の人が喋り出した。亮平はと言うと、壇上の下で必死にもがいているのが分かる。
「では、第三位からの発表! 中学時代でも付き合っていた、お二人です!」
MC女が言うと、会場は「お〜」という声で包まれた。
「木村凛ちゃんと、水野智也君!!」
拍手が沸き起こった。この二人が付き合っていたことは、俺が学校に行かなくなってから有名になった話。多分、俺等以外は詳しい事情を知らないから、こんなところに投票できるのだろう。
「どうぞ、壇上にお上がりください!」
MC女がそう急ぎの言葉をいれると、智也は仕方がなく壇上へあがっていった。それを見て、凛も行く。壇上で並んだ二人を見ると、本当にお似合いのような気がしてきた。
「では、第二位! 我等が同窓会長、清水亮平と」
亮平、だからあんなところでもがいているのか。
俺がそう思って、ふっと笑うと、思いもよらない言葉が聞こえてくる。
「この会場で、ひときわ輝いている女性、秋本明日香さん!」
亮平と…明日香?
「壇上にお上がりください!」
MC女がそういうと、会場中の男子度もが叫び出した。
俺の隣にいる明日香は唖然としている。
「え? 私?」
困惑して、何がなんだか分かっていない明日香。
「明日香」
俺はそっと、明日香の名前を呼んだ。
「…行っておいで」
俺はできるだけニッコリ笑った。明日香は困惑したまま、壇上へと向かっていく。亮平はというと、同じ同窓会実行委員のような人たちに押されながら上がっていっている。
二人が上がり終わると、会場中から盛大な拍手が沸き起こった。
この二人が並ぶと、何も怖いもの無しのような気がする。
自分が惨めだ。
あの隣にいるのが俺じゃないだなんて。
「では、一位の発表に移りたいと思います!」
MC女のその言葉は、落ち込んでいる俺の耳には入ってこなかった。