3−2
「おぉ…」
さっきから、同じ中学校を卒業した彼らは、俺を見てそういう。
まぁ、実際のところは俺の隣に居る明日香を見て…だけどな。
「よっ! 香坂!」
こいつ、名前なんだっけ?
数年前、同じ学校だったというのに全く名前を覚えていない。
まぁ、接点は無かったんだけどね。
「よっ…」
俺は笑顔を作って、そう答えた。
「その隣の女の子は? もしかして…彼女?」
俺は一回、首を縦に振る。
「お前の彼女は、可愛い子ばかりでうらやましいよ」
目の前の名前の分からない男が、髪の毛を手で掻き分けながらそう言った。
どうせ、俺のルックスと合わない彼女ばかりだなって思っているに違いない。まぁ、それは事実だから、俺は何も言い返せないが。
「こんにちは、秋本明日香と申します」
明日香はそう言って、ペコッっと頭を下げた。さっきからこんな感じが続く。亮平と一緒にここまで来たんだけど、その亮平は幹事の仕事があるからと言ってどこかへ行ってしまった。
ちなみに俺達が今来ている場所は、西京中学校ではない。どこかの飲食店を大胆にも貸し切ったようだ。バイキングと言ったほうがいいのだろうか。店のど真ん中と、端っこに料理が置かれている。その料理はどこか、豪華さをアピールしていて、凡人な俺にはとても食べにくい品物だ。
隣に居る明日香は、俺のそんな気分も知らず、パクパク食べているけど。
その店の中を見渡すと、知っている顔ばかりだった。しかし、知らない顔も入っている。多分、全学年を呼んだのだろう。それに、招待状には誰でも呼んでいいと書いてあったからな。
「明日香?」
「はぅ?」
ご飯を頬張りながら、明日香は返事をした。
「えっと、その…」
何を話すか忘れてしまったじゃないか。
「美味しいか?」
「うん!」
明日香は飛びっきりの笑顔を見せると、周りから歓声が沸いた。
って、何でそんなに見てんだよ!
俺は回りを見ると、男子どもはすすっと目を俺達からそらした。
そんな中、俺をずっと見ている一人の男が居た。
「と…もや」
「風紀っ!」
来るな。
来るな!!
「風紀ぃ?」
俺が心の中で叫んだ瞬間、明日香の可愛い声が耳に入った。
そうだ、明日香は俺と一緒にこの悩みを解決してくれると言ったのだ。俺がこんなことで挫けてどうする?
「風紀、久しぶりだな!」
智也は何事もなかったかのように、俺の名前を呼び、俺に“久しぶり”と言った。
「お、おう」
けど、やっぱり気まずい。
「あの、その…俺、やっぱりお前に謝りたくて!」
智也は俺の肩をガシっと掴んだ。俺は逃げるように、智也に背を向けた。
「今更、何を謝るんだよ?」
冷静で居たかった。隣に明日香がいるのだから。あのときの俺を見せたくは無い。
「凛のこと…」
「えっと、智也さん?」
智也が何かを言おうとしたとき、明日香はご飯を一気に飲み込んで智也の名前を呼んだ。
「は、はい?」
智也はビックリした様子を見せ、明日香に返事をする。
「風紀の“彼女”の秋本明日香です!」
何を言うかと思ったら、ただニッコリ笑って自己紹介をしただけだった。それにしても、彼女の部分を強調していた。それはそれで嬉しいことなのだが、何か恥ずかしい気持ちになる。
「えっと、水野 智也です。風紀とは、中学校のとき良くしてもらったんですよ」
「そぉなんですかぁ」
智也と明日香が話している。
これ以上無理だ。この光景を見たくない。
ここから逃げるべく、俺が明日香の名前を呼ぼうとしたとき、少し広めに作られた壇上のような所で亮平の姿を見つけた。
「えっと、皆さんこんにちは。今日は集まり頂いてありがとうございます」
亮平がカンペを見ながらそういうと、ぱちぱちと拍手が起こる。
「今年は、ほとんどの人が高校三年生を向かえ、受験勉強に明け暮れようとしている人、社会という扉を開け自立しようとしている人が思います。そんな大変な時期になる前に、同じ年に中学校を卒業した人と会話をして、楽しんでください!」
亮平は頭を下げ、壇上から降りた。
なんだかんだ、あの亮平はしっかり者だ。俺達の前ではふざけたりしているが、中学三年生の時には、生徒会長を務めたほどだ。
「どうだ、楽しんでるか?」
亮平は壇上から降りて、まっすぐこっちに向かったようだ。すぐ傍で声が聞こえた。
「あ、あぁ」
逃げるタイミングをどうやら俺は失ったようだ。
「明日香も楽しんでる?」
亮平がそう聞くと、明日香は頷く。そして、ご飯に手が伸びる。
「そんなに食ったら太るぞ?」
「ふ、風紀、そんなこと言わないでよぉ!」
俺はそういう明日香を見て、思わず笑ってしまった。
「久しぶり、智也」
そして亮平が、智也に挨拶をした。
「亮平、久しぶりだな! また一段とイケメンになりやがって」
ニシシと笑う二人を見ていると、昔に戻ったみたいで懐かしかった。
「ふ・う・き♪」
しかし、その懐かしさもそう持たず、俺達の雰囲気をぶち壊すものがやってきた。
「お前って奴は!」
後ろから声がして、俺はものすごい勢いで振り向いた。
「あ、と…も…」
そんな後ろに居た凛の表情が固まる。
「り、ん」
二人は気まずそうに顔をそらした。
そんな雰囲気を流されると、俺達まで固まってしまう。明日香でさえ、ご飯を食べるのをやめているほど。
「ひ、久しぶりだねっ!」
凛はこの雰囲気を察したのか、無理矢理笑って誤魔化した。しかし智也は笑うことはなかった。
「どう? 元気?」
必死に凛が俺を挟んで智也に話しかけてみるが、智也は凛から目をそらした。あのことをやっぱりこの二人は引きずっているらしい。
凛が俺達の高校に転校してきたとき、俺に「まだ諦められない」と言ったのを思い出した。
「凛ちゃん!」
俺達の間で流れていた雰囲気を一掃するような元気な声を出した明日香を、全員が見た。
「なにぃ?」
凛も明日香の元気に侵食されたのか、いつもの笑顔に戻っていた。そんな凛を見て、智也が一瞬表情を緩ませたのを俺は見逃さなかった。
智也、お前まさか…?
凛と明日香が楽しそうに会話をしているとき、俺の服を亮平が少し引っ張った。
「風紀、お前大丈夫か?」
凛と智也のあの雰囲気に接した俺を、亮平は心配してくれたのだろう。そんなところは、本当に紳士なのだから。そりゃモテるよ。
「大丈夫だって。俺には明日香がいるから」
「…あぁ」
「それにしても、智也は…まだ凛のことが好きなのか?」
どうやら、亮平も気付いていたみたいだ。さすがは俺の親友。
「風紀!」
智也は凛たちに背を向け、俺達のほうを向くと、昔のままの笑顔で俺の名前を再び呼んだ。
「どうした?」
けど、やっぱり俺は…昔どおりとは行かない。あんなことがあったから。
「もう一度、お前と友達でありたい」
だから、智也のその言葉は、俺にとっては衝撃的だった。
感想、評価のほうお待ちしております。
そして、第三部同窓会編が本格的に始まりました。
あの懐かしい人物、というか本編には出てきませんでしたが
智也君が出てきちゃいました。
さてさて、どんな波乱が待ってるんでしょうか…。