3−1
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「すがすがしい朝だ」
今の時刻、早朝6時半。
普段の俺なら、普通にベッドの上で寝転んでいる時間だ。
なぜ、こんな時間に起きたかと問われたら、俺は答える術はない。だって、なぜか目が覚めてしまったからだ。
そういう時ってあるでしょ?
俺は大きく手を腕にあげ、体を伸ばした。
リビングに着き、キッチンやソファーの周りを見るが、明日香はいない。まだ部屋で寝ているようだ。
それもそうだな。
なんたって今日は、日曜日なのだから。
あの明日香だって、ゆっくり寝たい時間だろう。一緒に散歩でも行こうかと思ったけど、起こすのが可愛そうだな。
俺は仕方なく一人で散歩に行くために、玄関のドアを開けようとしたとき、ポストに入っているあるものが目に映った。
「香坂 風紀様へ?」
この前の明日香盗撮事件のときに分かったことなんだが、俺の住所はここではないらしい。これは学校一情報通の亮平から聞いた話なのだが、どうも今は空き地となっている場所だそうだ。
一応、あの人間の血が通っているか分からない親も、俺のことを考えてくれたみたいだ。
それにしても、俺がここに住んでいるということを知っているのは、亮平か、沙希、はたまた俺の親、または明日香の母親だけなのだ。
俺は嫌な予感がしながらも、その手紙をそっと手に取る。
「招待状みたいな感じだな」
俺は独り言を呟きながら、封筒をびりっと破った。
「…は?」
招待状だった。
俺は散歩に行くのをやめ、その手紙を持ちながらリビングへ戻った。
手に持っているその手紙の内容を再び確認する。
「どう見ても同窓会の話だよな」
そこにはこう書かれていた。
『香坂 風紀様へ。私たち、西京中学校卒業生は今年で高校三年生を迎えました。受験が忙しくなる前に、同窓会を開こうと思っています。自由参加ではありますが、出来るだけたくさんの人が参加してくれることと願っています。参加者の知り合いであれば、どなたでも参加可能です。つぅか連れて来い』
最後の文章が多少気になりはするが、どこをどう取っても同窓会の招待状だ。集合日時、場所は詳しく他の紙に書かれていた。
「……」
俺は中学校のときの事件、親友であった智也に凛を取られたことを思い出していた。
あのときのショックのせいで、俺の体は女に対して拒絶反応を起こすようになってしまった。全ては智也のせいなのだ。
そんな智也が来るかも知れない同窓会に、俺がいけるはずもなかった。
「風紀ぃ?」
目をゴシゴシしながら、明日香はリビングにあるソファーでくつろいでいる俺の隣へストンと腰を下ろした。
「ちょ、お前!」
「なになにぃ?」
明日香は俺に触れそうで、触れない距離を保ちながら俺が手に持っている手紙に目を向けた。
「同窓会?」
俺は明日香を避けるように、ソファーから立ちあがった。
「そうだ、そうだ。でも俺は行かないけどな」
俺は手紙をゴミ箱へ放り捨てると、明日香はトコトコと走ってゴミ箱からその手紙を取り出した。
「な、なにしてんだよ」
俺は慌てて明日香に近づく。
「会いたくない人でも居るの?」
明日香は真っ直ぐな瞳で、俺の目を見つめてきた。
確か、明日香には一年生のとき、明日香の家のベランダで凛に浮気されたことを話したはずだ。
あの時は俺も必死になって語っていたから、自分がどこまで話したのか覚えていない。
「ふむ、ふむ」
「何が「ふむふむ」だよ!」
俺は明日香に自ら近づくことが出来ない。そのせいで、明日香の持っている手紙を取ることも出来ないのだ。
さっき、横に座られて心拍数が上がっている今、もし明日香の手にでも触れたら俺は多分失神すると思う。
何度も失神してきた俺だから分かることだ。
「私も行くね♪」
寝起きとは思えない笑顔で、明日香は俺にそう言った。
「……」
「ほら、亮平君も行くと思うよ?」
「う…」
少し、亮平が行くなら…なんて考えてしまった。
「ね? 行こうよ! 私がついてるから大丈夫だって!」
お前が居るから、逆に不安になるんだ。
もし、お前がまた誰かに取られたら?
俺のそばから、また愛おしい誰かがいなくなったら?
考えるだけでも、背中がぞっとする。
「風紀がさ、大和君の件で私を助けてくれたでしょ? あの時、私本当に嬉しかったんだ」
大和とは、明日香の元彼の名前だ。
「それとこれとは話が…」
別だろう? と言おうとした時、明日香は首を横にブンブン振った。
「違わないよ! もし、風紀がとっても嫌な思いを抱えているのなら一緒に解決したい。そう思うのが普通でしょ? 間違ってるかな…?」
明日香は少しウルウルした目で俺に訴えかけてきた。明日香がそうすると、俺も断れない。もしかして、こいつは分かりながらやっているのか?
「わかったよ! わかった! 行けばいいんだろ?」
もう、明日香には適わないな。
俺はフッと鼻で笑うと、まだ早い時間だが亮平に電話を掛けた。
「はい?」
やっぱりこいつはこんな時間でも起きている。ちなみに、現在時刻は7時半を過ぎたところだ。
「亮平? お前のところにも同窓会の招待状届いているか?」
「あ〜あれか。あれは俺が作ったんだ。そりゃ、あるに決まっている」
お前が作ったんかい。めっちゃ女の子やと思ったやろ!
大阪弁になりきれていない言葉で、心の中で亮平にツッコミを入れた。
「風紀は行くよな? 明日香を連れて」
ニシシと笑い声が聞こえてくる。こいつもしかして、面白がってないか?
「…あとさ、智也から連絡あったから」
その言葉に、俺はドキッとした。
「あ、あぁ」
来ることは百も承知だ。あいつはなんだかんだ、全体を楽しませる能力があった。こういう行事は大好きなはずだ。
…待てよ、俺達の中学校卒業生と言ったら、もう一人俺の周りにややこしい奴が居るじゃないか。
「そうそう、凛も来るって言ってたからさ。連絡を受けた感じを見ると、結構な数が来るぜ?」
俺の心を察したかのように、亮平はそう言った。
「まぁ、サボるなよ? 絶対来いよ?」
もう行くと決まっていたのだが、改めて実感する。亮平のそのしつこさにも、どうやら俺は弱いのだと。
俺は亮平の電話を切ると、明日香に目を向けた。楽しそうに朝の占いを見ていた。
「明日香」
テレビに夢中になっている明日香の名前を呼ぶと、目はこっちに向けず明日香は返事をした。
「再来週の土曜日だからなぁ」
俺の言葉にも、明日香は一言反応しただけだった。
なぁ、明日香。お前だけは俺のそばに居てくれるよな?