2−5
事件は、次の日に起きた。
「なんか騒がしいな」
俺と明日香と亮平が学校へ着くと、校舎前でざわざわと集まっている。
「昨日の屋上事件か?」
俺と亮平は容赦なく殴ったからな、もしかしたらどこかの先生にばれたのかもしれない。
少しは覚悟をしていたというのに。
校舎に近づいた俺達を見ると、ざわざわしていた奴等がいっきに静かになった。
なんだ、この違和感は…?
すると、そこに悠太が俺達に向かって走ってきた。
「どうしたんだよ、悠太?」
「どうしたも、こうしたもないよ! これ見て!」
悠太がむいた方向を見ると、そこにはとんでもないことが書かれていた。
『大スクープ! 学校のアイドルA・Aさんがまさかの同棲!? 純粋な顔の裏に隠された、驚愕の真実!!』
A・A…つまり、秋本明日香か。
「これ、明日香ちゃんのことなの…?」
悠太がボソッとそう聞くと、何も答えられない俺と明日香の変わりに亮平が言葉を発した。
「A・Aって誰だろうな?」
白を切るつもりだろうか。
「誰だろうね? A・Aって私と同じだね」
ニコッと笑って、明日香は俺を見た。さすが映画研究部、部長と副部長だ。演技力は半端ない。
「時間ねぇぞ。早く教室に入ろうぜ」
俺はそそくさと校舎内へと入っていった。
納得がいかないような姿を見せながら、悠太も俺達と一緒に校舎へと入っていく。
教室へ着くと、明日香は女子達のいい標的だった。
この事件に対しての質問攻め。もちろん明日香はあの演技で『違うよぉ』と言っている。
ここからは、さすがに全ての会話は聞こえない。
俺のところから右後ろ3メートルほど離れた場所。女性恐怖症の俺があんなところにいたら、ぶっ倒れてしまうだろうな。
それにしてもあの明日香に、これだけ演技をされれば、大抵の奴は騙されるだろう。なんたって、普段の姿から、こんなすごい演技を出来るなんて想像もできないからな。
それにしても、こんなにも早く、事態が急変するとは思わなかった。
「風紀…」
一時限目、授業中というのに亮平は俺に話しかけてきた。
理由はもちろん、明日香のことだろう。
HRのとき、担任である小百合先生が明日香を職員室へ呼び出したからだ。もちろん、変なテンションだったが。
そして、今明日香はここには居ない。
一時限目の授業の担当は、小百合先生の授業だ。授業開始のチャイムが鳴ってから、もう20分は経っている。
「明日香、大丈夫かよ?」
さすがの亮平も心配のようだ。
「大丈夫…だろ」
明日香のことだ。ポロっと喋ったりはしないと思う。あいつの演技力は、この2年間で急激に伸びたのだ。先生だって騙されるはずだ。
「風紀」
その次によってきたのは、俺達の事情を知っている沙希だった。
「明日香の様子見てこようか?」
沙希は心配そうに俺を見る。そんなに俺、落ち込んでいるように見えるかな?
しかし、ここは沙希に甘えておくのもいいかもしれない。
「…頼めるか?」
俺がチラッと沙希のほうを見て言うと、沙希はわかったと言ってドアのほうへと歩き出した。
そのとき、ガラッと教室中に音が流れる。
「明日香!?」
そう叫んだのは沙希だった。
「ただいまぁ〜」
みんなに悟られないように、いつもみたいに笑っている。大丈夫そう…ではないな。
みんなは気付かないかもしれないが、ずっと一緒にいる俺は気付く。
どこか変だ。あの笑い方や、仕草。
「明日香」
俺は居たたまれなくなって、クラスの女子と楽しそうに喋っている明日香を呼ぶ。
「なにぃ?」
学校では、あまり明日香を呼ばない。そんなこともあってか、明日香は驚きながらも、俺のほうへ寄ってきた。
「…今日は早退するか?」
「そんなことしたら、認めてると一緒だよ」
ボソボソと会話をする、俺と明日香をクラス全体が注目していた。
明日香は、今まで以上に学校中の注目の的なのだ。
「…頑張ろうな」
「うん」
明日香の笑顔が見れたと思ったら、教室のドアが開き小百合先生が入ってきた。ざわついた教室も、少し静けさを取り戻すと、授業が始まる。
何があったか聞きそびれた。あとで聞いてみよう。
「明日香」
次の休み時間、真っ先に隣の席に座っている明日香を呼んだ。
「なにぃ?」
「何を言われた?」
俺のその問いに、少しびくっとしたのを見逃さなかった。
「な、なんでもないよ!」
「ちゃんと、言いなさい」
俺のその言葉にうろたえて、明日香は仕方がないような様子を見せて話し始めた。
「先生に…自宅訪問するって言われた」
「…大事なことだろうが!」
「ごめんなさい」
うるうるとした目で訴えられた。
「だ、大丈夫だからっ! な? 二人で考えよう」
なんだかんだ、俺は明日香の涙目に弱いらしい。
「うんっ♪」
って、お前嘘泣きだったのかよ。
それはいいとして、明日香の自宅を先生が訪問するってことが重大なのだ。なんたって、明日香の家イコール俺の家なわけである。
…それにしても、今の俺と明日香の住所ってどうなっているんだ? 明日香と俺が同じ住所なら、先生達は俺達が同居していることに嫌でも気付く。
「俺とお前の住所ってどうなってるんだ?」
不思議に思って、俺は思わず明日香に聞いた。
「さぁ? どうにかなってるんじゃない?」
どうにかって、どんな感じだよ。
俺は呆れて頭を抱えた。
……。
考える。
そのとき、後ろの席に居た亮平が、俺の背中をつついた。