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第18話 試験④

この文で動きを伝えられてるのか?と心配。


 先に修練場を出たはずのハヤテ、カエデの姿を探して伊織はフラフラ歩き回る。


 その途中でゴールを懸命に励ます苦労人を見つけた。どうやら、まだレイアの言葉に気落ちしているらしかった。

 少なくとも、実技に指名するまでには戻って欲しいと、そう伊織は考えて、その場を離れた。




 やがて、二人の姿を見つけるには至ったのだが、レイアと何かを話している最中の様で、声を掛けるのを控える。

 レイアが一礼するのに合わせ、二人が礼を返す。その後ろ姿が戻るのを待ってから話し掛けに行く。

 ……その様子を見たレイアが奥へと消えるまでみていと、ハヤテの方から話を振って来た。



「どうかしたのか?」


「世間話をするつもりで探してただけなんだけど、そっちこそどうした?レイア団長と話してたみたいだったから、待ってたんだけど…」


 伊織の視線の先を追って、レイアの姿を見たカエデが口を開いた。


「私()の指名のことを相談してました。ダメ元でお話ししたんです。ねっ、兄様?」


「カエデが言った通りだ。休憩が明けたら、実技を受けさせて貰おうと思って、な…。指名するのは変わらないが、()()同時には無理かを聞いてみたんだ」



 …心なしか、段々と打ち解けてきたのか、カエデは伊織に自分から話し出した。


「あの人が『それでも良い』って答えるなら、構いませんよって言われました!」


「時間も押してるって言ってたし、ゴールもやってたんだから、許してくれそうだな」

 …勿論、それは伊織の推察なのだった。




 そうして、元々の目的の世間話をし始める。


 改めての軽い自己紹介から、自分が何を目的として騎士試験を受けるのか、と差し当たりのない話をしていると、レイアが三人の元にやって来て、話を切り出す。聞いてみれば、それは良い話だった。


「了承して頂けました。最初に私が言った通り、勝ち負けでの判断はしません。出来る限りを出せるならばそれが一番なのです。それでは、また後程…」

 

「「はいっ!ありがとうございます!」」

 完全にシンクロして二人が最敬礼する。


 その二人に礼を返すと、今度は伊織へも同様の言葉を掛け、レイアはまた奥へと消えていった。


「良かったな、二人とも!」


「あぁ。これで頑張れる!」

「そうだね、兄様。私も頑張るから!」


 この二人を見ていると、何となく微笑ましい気持ちと羨ましい気持ちになる。前者の方が強くはあるのだったが…。



「しかし、イオリも実技が残っているが、万全なのか?」


「正直、当たって砕けろ、だな。俺も指名を変えないけど、相手は色々と特殊だし…」

 …紛うことなき本心を語る。指名予定のゴールはあんな感じだが、偶然を含めても規格外。

 やはり、確かめたいことをやるつもりだ。


「ゴールさん、でしたよね?…まだ気落ちしているみたいですけど、受けてくれるんでしょうか?」


 ―カエデの心配はその通りだけども、きっと大丈夫だよな?―


 確信は無いのだったが、指名されたらそれを無碍にはしないと思えた。



 ……そんな遣り取りをしていると、例の苦労人な騎士が受験者達の間を行ったり来たりしながら、休憩の終わりと集合を伝えていた。



「それじゃあ、行くか。二人の健闘を祈るよ」


「お互い様だ。カエデも大丈夫だな?」

「はい。兄様もイオリさんも頑張りましょうね?」


 お互いの顔を見合わせ、頷きあった。



 ◇◆◇◆◇



 修練場に入ると、レイアと謎の騎士が既に中央に立って、受験者達を待っていた。


 そして、言葉を発することなく、ハヤテとカエデはその二人の前に進み出る。


 何も状況がわからない者達は、一様に不思議そうにその様子に見入っていた。



「それでは、実技を再開します。変則的ではあります。ですが、こちらの二人の指名を同時に受けることは、私のみではなく彼の騎士も了承しています」


 兜の騎士と兄妹がお互いに首肯く。


「それでは、準備は良いですね?では、始めて下さい!」



 合図と同時に、ハヤテが先行して駆け出す。その後ろにいたカエデは半歩分の間隔を空けて、同じように騎士へと駆ける。


 流石、双子と感心させられる見事なシンクロを見せ、一気に間合いを詰める。

 …瞬間、先行するハヤテが、まるでその身を消したかのような動きで、騎士の背後へと回りこむ。それに合わせて、カエデが先に小剣を袈裟に振り下ろす。

 そしてハヤテも合わせ、騎士の背後から逆袈裟に切り上げる。


 ―これは、確実に片方しか捌けないだろう―


 一目見れば、そうとしか思えなかった。ほとんど同時に前後、それと別々の方向からの攻撃。しかも、騎士は剣を持つのみ。盾は持ってないのだから。


 伊織は二人の攻撃に対して、凄いと感心していた。




 ―だが、その瞬間の光景は思いがけない結果になっていた。

 

 二人の剣は、騎士の体を()()()()()

 カエデの攻撃は騎士の左肩から、ハヤテの方は騎士の右足から。


 ……そして、まるで分身したかのように、当の騎士の体はいつの間にか、二人の攻撃から体一つ分、横も現れていた。

 そして、二人の攻撃目標ではない騎士は持っていた剣を自身の虚像の真ん中に止めると、二人の斬撃をいとも簡単に受け止めた。

 …瞬間的になり響く一つの金属音。速さと威力の大きさに対して余りにも不釣り合いな小さな小さな音しかさせない技量と共に、その不可思議な光景を演出していた。




 ……あまりにも異常。分身だけでなく、固定した剣を挟ませるようにして、別方向からの力を受け止めるという不思議。


 始め、驚きを隠せなかった双子は直ぐに立ち直り、今度は互いの動きを交換したように動き出す。

 ……二撃目は切り払い、三撃目は突き、四撃目は払いと突き、五撃目は同時に切り上げ……。


 ある時点までしか予測しきれないような多彩な攻撃が続くというのに、騎士はまるで最低限の動きと共に全て無力化する。

 …明らかな死角、背後、タイミング。それを事も無げにやってのける。



 分身こそ最初の一撃に対しては出していたが、それさえ無くともこうは出来るのだと言っているみたいだった。


 ……正直、見ているだけの伊織でも、悔しい、腹立たしいと思えた。当の双子はもっとそう感じているのではないか?と心配になってくるぐらいだった。



 ―やっぱり、この騎士も規格外か―


 すっかりと入れ換わった伊織の常識。その、この世界の常識を持ってしても、それを越える非常識を見せられるとは、思うことさえ出来なかった。



 幾度となく仕掛ける二人も、疲労と焦りから時間を忘れていた。勝ちを拾えることはもはや考えず、終わりを告げるのは騎士の攻撃か時間かの二択になっていた。

 ……時間は残り1分もある。だが、双子の二人は終わりの宣告を受けるまでを、絶対に諦めたくはないようだった。


 ……その時、ハヤテは大きく深呼吸をすると、カエデに向かって何かを頼む。

「カエデ、時間のギリギリまでは制御を頼むぞ!」

 …それは双子にしかわからない何かだった。


 カエデが一気に騎士から後退して止まる。


 ……すると、今度はハヤテが様子を変えて、騎士へと一気に攻め始める。

 見てそれとわかるくらいに、一撃一撃の攻撃が()()をましていく。

 …それだけではない。姿もまるで獣のように変貌していた。


 最初こそ、ただ躱すだけに徹していた騎士もまた、その変化に対して、やがて武器まで使い応戦し始めていた。


 未だに、ハヤテの攻撃は届ききっていなかったが、いずれは届く、とそう予感としてハッキリとわかるくらいに騎士へと近づいていく。



 ……そして、ついに予感が的中する。ハヤテの攻撃が、騎士の肩口を掠めその態勢を崩して見せたのだ。

 ―そこだっ!今だっ!―


 思わず拳に力を込めて、伊織はその期待をハヤテにかける。



 ……しかしその時、騎士もその行動を変えた。


 剣の切っ先をハヤテに向けて、明らかに敵意を周囲に漂わせ始める。


 それよりも速く…そんな感じに一歩を踏み出したハヤテが何故か後ろに跳ぶ。その勢いが緩まる瞬間に再度力を込めて、別の方向へと移動して、また一歩、騎士の方に踏み込む。

 ……だが、やはりまた動きを止める。騎士もまた、その動きに合わせ剣の先をハヤテに向けるからだった。



 そして、今度は騎士が、いきなりその剣を高々と頭上へ掲げる。


 何とも言い様のない静けさがやって来た。そしてまるで、空間の中の質量が、空気の重さが軽くなるような感覚がする。


「カエデ、離れろ!」

 …言葉まで失っていた獣化状態から元に戻り、ハヤテが妹へと叫ぶ。


 …伊織も悟る。恐ろしい瞬間がやって来るのだと。


 ―そして、次の瞬間……















「それはダメだと言いましたよね?()()()もそう言ってたのをお忘れですか?」

 レイアが細剣を鞘から抜き放ち、ハヤテとカエデの間の、騎士の眼前に突き出して止めていた。



 その雰囲気の冷たさに、この場所に居合わせた全員が身を震わせる。

 ……騎士も例外ではない。むしろ、その中心で、一番近くでそれを受けていたのだ。

 明らかに恐怖をその身に感じ、その鎧ガチャガチャと震わせている。


 ……とてもじゃないが、哀れだ。だが、それは自業自得というもの。



 やがて、剣を鞘に納めると、何事もなかったように、ハヤテとカエデ、騎士へと声を掛け直す。

「お二人の力、存分に拝見させて貰いました。ここで時間となったので、終わりです。あなたもわかりましたね?」

 ……騎士はまだ少し震えながら、頷きを返す。


「それでは、ここまで。次の受験者のために引きましょう」


 どうにか、ハヤテとカエデの双子の実技も無事なままで終了した。

 伊織は二人を迎えるように、その姿を待つ。

 ……視界の端には、レイアに引かれて歩く、騎士の姿がある。



 ―しかし、本日、二人目。騎士がまた一人、団長の逆鱗に触れたらしい―


 伊織は思わず、神に感謝するように印をきる真似をした。

 ………そして、その心の中では、騎士へと向けて合掌していたのだった。

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