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第16話 試験②

話が違う方へ…。ダメダメですねぇ…。


 ―レイア・カラミティ―という女性。


 レイザス王国の騎士団団長。女性としては現在の女王《竜殺し》に続き、二代連続の女性の団長となった。


 『守る盾』『振るわれる剣』、その騎士団を体現する者にして、『準英雄』という存在。

 その出自は謎が多く、まだ国仕えをしていなかった《竜殺し》が世界を転戦するうち、何時からかその側に身を置いていたとされる。


 《竜殺し》がその力を奮い、この地域の都市の防衛と人の領域の解放を成し遂げた時も、その傍らを離れずに戦渦を乗り越えた。

 やがて、その功績を称えられ《竜殺し》が『騎士』の叙勲を受けると、共にレイザス王国へと根を下ろす。

 ……その年、《竜殺し》を追うように騎士団への門を自ら開けた。そして、彼女は勝ち取る。この国において、―『史上最年少の騎士』―の位を。


 『英雄』に師事し、たった二人の遊撃部隊として、他国の領域での魔物との戦役を生き抜くだけでなく戦果を上げる。

 積み重ねた功績により、《竜殺し》が団長になると、時同じく副団長に就任。たった2年という月日での出世もまた異例であった。


 やがて、前団長がその身を退く時が来ると、非公開にて《竜殺し》との私闘に臨みて、それを打ち倒し団長へと就いた。


 ……現在、《竜殺し》《勇者》に次ぐ最高の騎士。だが、実質的に国から動けない『英雄』二人に代わり、最強の盾であり最強の剣。


 ……それが彼女の、レイア・カラミティという者の一部の話。


 そして、後で知ることになる話。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 



 この10年の仮初めの平和に暮らす者にはわからない。彼女の心底にある志とその力を。


 ただの騎士団長の肩書きとして、それを彼女の全てと思う愚か者。

 その者が迎える末路は、まだ訪れてはいない。


 ……だが、それはすぐに来るだろう。そう思っていた。





「勝ちだけが全てはありません。負けが不合格ではない事も保証します」


 …彼女の言う事に間違いのない事が何故か確信出来る。


「カリスマって言うのは、ああいった人なのかな?」

 伊織はそう問い掛けながら、獣人の二人に歩み寄る。


「そう感じるならばそうだろうさ。私も彼女の言葉を聞くだけで、不思議と信じることができる」

「忘れていたけど、俺はイオリ・フタバと言う名前だ。さっきは言葉を交わしたがそれだけだったろ?」


 事のついでに名乗り、相手を横目に見る。


「私はハヤテと言う。訳あって、姓は名乗れないが許して欲しい。

そして、双子の妹はカエデと言う。見た通りに人見知りでな、それも許して欲しい」


 互いに名乗りあい、絆を繋ぐ。

 彼の陰に身を隠していた彼女は顔を出してもすぐに引っ込めてしまう。


「私はカエデって名前、です。お初目にかかり、ます?」

 …何度か深呼吸して、漸く名前をその口から聞く。精一杯さを感じて微笑ましく思う。



「団長!準備は良いですか~?」


 声の先、修練場の中央に視線を戻す。

 どうも、無駄口を交わしていた間に事が進んでいたらしい。


 レイアが細剣を片手に携えて静かに佇む。そして、その向かいに立つ男は指名を勝ち得たとばかりにしか思ってはいないようだ。

 やっとその手に剣を持つと、あまりにも不恰好に構えて始めの合図を待つ。


「私の準備も彼の準備も出来ました。副団長、合図を」


「わっかりました!良いかお前ら、怪我してしまうまで無理しないで良いからな~?

それでは……じゃあ、始め!」



 ◇◆◇◆◇



 どんなに哀れな光景になるのかと悪い期待をしていた。

 だが、目の前で繰り広げられるのは、想像と逆の光景だった。一方的に男が打ち込み、レイアは守り、躱して後退する。

 迎えば、単純な突きや払いを無駄打ちするだけ。それを見れば、更に参考にもならない無駄な手数を出すバカな男。


 ……だが、やはりレイアは剣を鞘からも出さないままで、悪い態勢で凌ぐだけで攻守を反転させもしないでいた。

 こんな茶番なんて正直見ていたくなかった。

何も得るものがない実りのない立ち合い。そして、一人目の実技が終わる。


「はいヤメヤメ!」


「なんでですか?まだ本気を見せてもないし、勝ちも負けもしてないじゃ無いですか…?」


 その不満な声を突き付けられて、仕切り役の副団長―ゴールは『何言ってんだお前?』みたいな不思議な顔をしていた。


「おいでバカ」

 キレてた女性の騎士が優しい笑顔を見せて、ゴールに手でおいでおいでとやっている。

 …そこに不用心に近付いたゴールが、盾で思いっきり殴られた。ただの一発で盾を使用不能にするような一撃と打撃音に受験者は驚き、声を漏らす。


「ハァ…、少しだけ落ち着いたわ。このバカは言い忘れてたけど、勝敗が着いたらそこで終わりよ。そうじゃないなら、5分を制限時間として上げてるから、終わりはあるわよ?そこは忘れないでね?」


「ハッハッハ~!そう言う感じだ!すまん、忘れてたわ!すまんすまん…」


 ……大事だろうが、それは!

 だが、呆れと目の前シーンの異常さに言葉として出なかった。


 改めて見遣る視線の先、女性は青筋をピクピクさせながらも笑顔でいる。その二人のやり取りを遮るように、レイアが女性に向けて手で制すかのような素振りを見せた。

 もう一度『ハァ…』とタメ息をつくと、元の場所に戻って行った。


「あなたの実技は、しっかりと終わりました。良く頑張りましたが、残念です。戻って他の受験者の実技を見てお待ち下さい。全員の実技を見るのもまた試験のうちですから」

 …その言葉は何も変わらずに淡々と告げられた。


 どこか不満を解消出来なかった男は取り巻きの待つ壁際へと、帰っていく。『どうだ!』と言わんばかりに腕に力こぶを見せるふりをしながらだ。

 伊織も、ハヤテもとてもじゃないが呆れるばかりだった…。


「では、次。あなた達のどなたからでも大丈夫です。どうぞこちらへ」




 ◇◆◇◆◇



 ……失礼な言い方だが、目の前で繰り返し行われる実りの無い時間は苦痛と、それと呆れで何とも言いようの無い―予想外の連続―だった。

 意図するところは図りきれないが、とてもじゃないが不必要な行為にしか見えなかった。


 一様に始まりから終わりまで、誰一人としても違ったモノを見せてくれなかった。終わった後までもがほぼ一緒。


 結果として拷問のような30分。

 全ての立ち合いを制限時間一杯まで使いきり、受験者6人に対して休む間もなく動き続けながらも、表情も変わらず息切れさえもない。

 …この世界の基準で言えば、単純に一般人の3倍~とされる身体能力は確かだろう。


 ほとんど相手よりも少し弱いくらいまで、()()()()などわからない。


「なんて言うと正解だろうかな…?気付かない方が良かったと思えば良いのか…」


「確かに、内容を見る限りは不可解だな。私も何を見ていたのか理解が出来ない…」

 並ぶ二人は共に、言葉が見つけられずに困惑していた。手探りな会話をしていると何か居心地の悪さしか感じない。思いきって話題を自分達のことに変える。


「指名するのか?される方か?」


「私は指名させてもらうつもりだ。あの兜の者が気になる。知り合いに騎士なんていないが、不思議とそうしないといけない気がする」

 視線をそちらへと向けてハヤテが言う。


 ―騎士としての正装?と言うのか、けして兜を脱がずに佇む一人の騎士。正直、その性別さえわからない。

 だが、何か違和感を感じるか?と聞かれても、『いいえ』としか言えない。外見がそうだからと言うだけじゃない。

 雰囲気がそう言ってるように思う。団長の言葉を心が確信したのと同じように、その姿があるだけで有無を言わさぬ認識が出来上がる。


「そんなお前はどっちを選ぶんだ?」


「ゴールを指名する。団長の動きを見て怖くなったから、あえての選択だ。…ついでに、さっき目立たせられた八つ当たりもちょっとある」

 私情を挟んでいるが、それでもゴールで一応の限界を試して見たかった。


 レベルもギリギリしかない上に、体に染み付いたイオリの記憶も完全に馴染んでいない。更におまけもついている。

 ……そんな自分が、思う通りの一撃なんて出せる訳がない。もしも、それなりに戦えるならそれで良い。

 伊織が考えたのは、『やれることをやる』という事だけ。



 修練場の中央では、今は、苦労人騎士が手心を加える事なく受験者を簡単に捌いていた。


「それまで!いやぁ、良く頑張ったなぁ…」

 相変わらず、空気を読まないゴールの声が響く。


「いやいや、それは受験者に言って上げてくださいよっ!試験官を褒めても意味ないでしょうが…」

 ―そりゃそうだ。せめて、それは尻もちついてる奴に掛けてやれよ。


 出来の悪いコントをやめて、騎士は元の位置に帰っていく。その後ろ姿からは威厳なんて感じない。何故か可哀想な人だなぁ、という感想しかない。


「次はどうする?」

 ゴールが騎士の面々に声を掛け、指名するのかを確認する。


 先程の騎士は首を横にふり、キレた女性騎士はアクビをしている。団長も兜の謎騎士も無反応だった。


「じゃあ、俺が次をやるか!あっ、そうだ。団長、()()をやって良いですかね?」


 何かはわからないが、ゴールがレイアに承諾を求める。答えを促され、少しの間沈黙が流れる。


「仕方ないですね…。ただ、今回だけです。結果はどうあれ、それは騎士がして良い事ではないのです。理解出来ますね?」


「わかってます!今回だけ…でも良いです!ありがとうございます!」

 その姿からは到底想像がつかないが、それは見事な最敬礼をするゴール。


 ……一体、何を許され何をするのか?騎士がしてダメなこと?そして、ゴールという男の考える事って?


 あわよくば指名に紛れ込んで、自分の実技を終わらせようという考えは、妙に楽しそうに準備を始めたゴールの姿を見ると微塵も無くなった。

 ……今は、自分が指名され無くて良かったと、伊織はそう思っていた。

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