第15話 試験①
これから文字数抑えて数打ちします。
宛がわれた部屋を出て、修練場に向かう。
もて余した時間を使い、何度も往復した場所には既に何人もの同胞…受験者達が集まり始めていた。
これから始まる試験の受験者達が集まり、その場が妙な熱を帯びていた。
伊織もそれ相応の緊張に体が強ばっている。
…現実ではもう10年近く前の面接の時を思い出していた。その時は思いの外そんなに緊張せずに、結果として就職出来たのだから上手くいったのだろう。面接官が答えてくれた訳ではないし、自己判断にはなるが…。
思わず周囲を見渡せば、同じように緊張した面持ちの人間も居る。他にも、見た目子供くらいの小人族、外見しっかりしたドワーフ族に、犬耳(?)を生やした銀髪の獣人族がいた。やはり割合は人間が多くいた。
そして女性陣を遠目に見るとやはり人間が多く、他種族はその数は少ないように見えた。ただ、その他種族には気になる姿を見つける。
先程見た男性陣に見えた犬耳の獣人と同じ銀髪の少し小柄な人がいた。
そして、もう一人。一人だけ離れた位置に身を置く魔族の女性が気になった。耳の後ろの少し上あたりの黒髪を避けて、軽く捻れた角が天を突いている。
…思わず見入るが、人の特徴と言える箇所を見続けるのは失礼だろう。そっと視線を外し何事も無かったように取り繕う。
「私の妹をそんなにジロジロと見るんじゃないぞ?」
すぐ隣まで来ていた獣人族の男が釘を刺してきた。誤魔化すように移した視線の先で、顔を赤くして立っている。それが照れなのか、緊張なのかはわからない。
「すまない。その……もの珍しいとかそんな気持ちで見ていた訳じゃない。言い訳になるが、久し振りに多人数の集まる場所だったから、緊張だったり、人のことが気になったりで見回していたんだ。気を悪くさせて申し訳無かった。」
伊織は小さく頭を下げて、自分の非を認める。言い訳も少し混ぜて。
…そう言うと、獣人は優しく答える。
「そうだったのか…。こちらも慣れない環境の為か少し警戒をし過ぎていた。」
変にいがみ合う事も無ければ、無用な波風を立てる必要もない。結果次第とはなるが、同期ともなるだろう。軽く握手を交わし、伊織はその場を退けて、人の集まりの端へと出ていく。
仲が良くなるとは言えないこともないが、ある程度の時間を置くと、集団の中でもそれぞれに話をし合う人が見えてきた。
先程の獣人は妹と言った獣人の側に立って、その妹の頭に手を置いて笑っている。
その集団の輪の中に入りきれないでいるのは、伊織と魔族の女性のみ。彼女はどうか知らないが、伊織は実年齢分の記憶が基にあるので、距離感がわからないだけだった。
しかし、あること以外に役立てられない記憶。封じておけば良いのだろうが、妙に懐かしさを感じる心に引っ張られて、収まることもない。……大人としての目線で子供を見ると言うのか、そんな風に感じてしまうのも仕方ないこと。
「見た目と同じだけの記憶で良かったのにな…。不思議な気分がして、何か緊張も無くなって来た…。」
誰かが聞いても、意味なんて理解出来ないから大丈夫と思って呟く。
◇◆◇◆◇
そして、この場に集まった時と違い騒がしくなり始めた頃、王国の紋章が刻印された鎧と盾を持ち、如何にもな風体をした騎士が修練場へと入って来た。
その騎士は五人。うち二人は女性のようだった。騒がしかった声も少しだけは収まりがつくが、逆にざわめきが強くなっている。その声に耳を立てれば、『あれが誰だ』や、『あの人達が…』とか、『女のクセに…』とか、感嘆なり非難なり様々な声がする。
そのざわめきを聞きながら、目の前に並ぶ騎士達はその姿を見つめ続けて黙っていた。
…やがて、一人の騎士、女性の騎士がその凛とした声で騒ぎを制する。
「この場が何の為かを問う!あなた達は一体、何の為に此処に来たのです!」
その声に体ではなく心が反応する。恐怖感や、威圧感などの類ではない、奇妙な感覚を感じた。別に歴戦の何とかじゃない、自分が感じたのだ。当然、ここに集まった人間達は同じだけの何かは感じたのだろうか。あのざわめきは完全な沈黙へと変わる。
「私があなた達が目指す騎士団を預かる、『レイア・カラミティ』と申します。以後、お見知り置きを。」
……その名を聞いても、実はピンと来ないが、自分と違い周りではまたざわめきが広がる。
その中には同性の方から悲鳴みたいな歓声も混じっていた。そして、尚もまたまるで女性であることを見下すかのような言葉を出す奴までいる。
それは漫画や何やらのテンプレのような展開で事が進み出す。
「おフザケはそこまでだ。俺が副団長の『ゴール・クラスタ』だ!これが試験ということを忘れるんじゃないぞ?」
この男からは明確な威圧感を感じた。名前と試験だと発しただけで、何人かは確実に体を強張らせて、直立不動に変わる。それを見ていたゴールという男は、口を開けて笑い出す。
「すまんな。一応これも挨拶がわりなんだが。試験に生き死にをかける訳じゃない。俺は団長と違ってバカだからな。人の中身は気にしない。俺が嫌なら気にせず家へ帰っておけ!」
ここまで来させておいて帰れと言う。……当然、そんな奴は居なかったが、副団長がこれでいいのかは考えさせられた。
……そして団長とは別の女性騎士が言葉を続ける。
「バカは無視して、この試験について説明してあげましょう。」
ようやく始まるらしい。その言葉を受け、伊織はまた緊張するのを感じた。
そんなことなどに構わうわけもなく淡々と説明が続く。
「先ず、今回合格させて上げられるのは2パーティ分、計12人の者共だけです。そして、今回この場での内容は実技、並びにその適性でのみ、種族や性別などは考慮なんてしてあげません。」
…「ここで何人がサヨナラかしら?」とも言う。
「彼女の説明の通り、私達が見るのは単純な力比べや度胸を確かめる試験ではなく、騎士足る者を見つける為の試験です。それに、この一次試験で全てを決めるのではありません。」
間髪を入れずに団長のレイアが再び口を開く。
「私達が求めるのは『仲間だけを守る盾』ではなく『全ての命を守る盾』、王一人に『捧げられる剣』ではなく『悪しきモノに振われる剣』なのです。
…何かが欠けた者には厳しい結果ともなるでしょう。今、その覚悟すらない者は恥じて帰りなさい。そして覚悟ある者は誇りを持って立ち上がりなさい!」
この場に集まった29人がその言葉に気圧される。…ただ一人、伊織を除いて。
◇◆◇◆◇
……勝手な話、これで決まる試験だとばかり思っていた。…まさかの一次試験だった。
書類が通り、ここまで来ることも確かに必要だが、実技と適性より先があるのを知らなかった。先程の周囲の変化がそれに対しての気持ちの引き締めならば、伊織がした変化は焦りだ。
まだ覚悟を決めるという段階に達していない、たった一人だけ場違いな人間は彼だけ。
「どうした?そこの奴?帰りたくでもなったのかー?」
ふざけた口調で副団長の男が伊織を指差し、そして笑う。
……他の受験者達の視線を感じる。ここで間違いを踏むわけにはいかない。
「いいえ!帰れません!」
返る答えに一瞬、違和感が混じる。だが、それを好意的に解釈したのだろうか、だったら別に構わないと言いながら、場を仕切り始める。
「じゃあ、始めるぞ!先ずは全員壁際に散って待っていろ!」
ゴールの言葉に従って、それぞれが壁際の方に向かって散っていく。
「よし、それでいい。これから始まるのは俺達との楽しい実技の時間だ。内容はシンプルに一対一の模擬戦、それだけだ!
……ちなみに相手はそっちから指名しても構わない。そうでないならこちらからの指名でやってもらう、良いか?」
その問いに対して、無駄に反応するバカも数人、見受けられた。
……当然だろうか。少なくとも、一般人の範囲から逸脱した力を持つ者なのだから。
試験の資格は、言ってしまえば腕に覚えがあるならば良いくらいに思っているのもいるだろう。
多少遠く、耳を澄ませば聞こえる声を上げる者達の言葉に、明らかに気分が害される
『~騎士学校の…』『自分の親が…』『…剣術の~』『地元最強の…』『騎士の…に教えを』『憧れの御姉様に…』『俺が』『私が』………。
ここまであからさまなフラグがあるものか、と伊織もそうだが他の受験者達も一様に渋い顔をしている。
それは監督官の騎士達でさえ、様々な表情をして受け止めている。
一人だけまるで気にもしないといった感じで騒がしい連中を指差し笑っている。
目を閉じ、そんな雰囲気にさえも動じる様子の内科女性。
如何にもキレてますって顔をして舌打ちをする女性。
呆れた表情をして副団長とキレた女性を諫める男性。
…そして、団長の隣で微動だにせず立つ兜をかぶったままの騎士。
やがて、団長のレイアが口を開く。指名をしたのだ。
「あなた達、計五人は私が受け持ちます。それで宜しいでしょうか?」
壁際に居ても尚、群れていた連中がレイアを見る。指名に対してどんな気持ちがあるのかわからないが、リーダーみたいな感じをした人間が愚かな声を上げる。
「団長様が自ら指名して下さったのに断るなんて、滅相もない!」
周囲…取り巻き以外の顔、さも見下すように眺め、まだほざく。
「団長のお眼鏡に叶う栄光を得たのはこの私、………
……覚える義理も何も無い。どうせ、この先の展開も大概は同じ。
下手に色んな知識はあるのだが、まさか本当にテンプレな奴がいるとは思えないが、新しく始まり出した生活には、ファンタジーなシナリオもあるものだ。
―ついに試験が始まるようだ―